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第四十六章~岡崎での出会い~

「す、すみません」


五郎は恐縮そうに謝る小さな子供に気にしないでと手を振ると頭を撫でる。

優しく頭を撫でられて『えへへ』と相好を崩す子供は緊張を解いてくれたようだ。


「あ、お腹減ってない?団子食べよう」

「そこまでして頂く訳には!」

「いいからいいから、沢山食べないと大きくならないよ」


五郎が団子を差し出すと視線が集中する、申し訳ないと遠慮しているが本当は食べたいのだろう、少し団子を動かすと顔ごと追いかけてくる。

微笑ましい姿に苦笑しながら背中をポンと叩いて『どうぞ』と声をかける。


「……うぅ、本当にいいんですか?」


まだ遠慮がちに尋ねてくる子供に笑いかけると五郎も団子を食べる。

お腹が減っていたのだろう、美味しそうに頬張る姿は見ている者を和ませる雰囲気を放出しているようだ。


「美味しいです!お兄ちゃん!」

「はぅ!」

「?」

「い、いや……気にしないでくれ」


この世界に来て結構な日数が経つ……が『お兄ちゃん』と呼んでくれたのはこの子が初めてだったのである。

その衝撃に鼻水が出そうになったのを手で押さえると、『お兄ちゃん』の余韻に浸って頬を緩ませる。

楽しそうに団子を食べる子供の横に、大の大人がだらしない顔で座っている様は世が世なら通報されていてもおかしくない光景だった。


「いい休暇になりそうだ」


むふふと笑いながら五郎は子供と一緒に団子を堪能するのであった。




念の為に言っておくが誘拐したわけではない、偶然拾った……いや、保護したのである。

五郎が岡崎に着いて二日目、松平元康へのお目通りまで猶予が出来た五郎はのんびり町中をぶらついていた、昨日はどんなお店があるか見て回ってる際に宿を見つけたのでそのまま宿泊したのである。


「料理も美味しかったし、一人ゆったり出来そうだ」


帰りにお土産さえ買って帰れば揚羽の機嫌も悪くはならないだろうと考えながら朝から散策していたのだが。

ドン!と油断していた鳩尾あたりに衝撃を感じると、『ぐおおおお』と呻きながら視線を落とす。


「ご、ごめんなさい!」


そこには頭を押さえた子供が涙目で五郎に謝っていた。


「い、いや大丈夫だよ。それより気をつけないと怖いお兄さんにぶつかったら危ないよ」

「は、はい……あっ!」

「あ、ちょっと……」


慌てて後ろを確認した子供はすぐ傍にあった狭い路地に飛び込んで積まれてある桶の中に隠れる。

五郎はどうしたのと声をかけようとしたが、その時、子供が走ってきた方向から地鳴りが聞こえると、数人のガッチリした男達が何かを探すように視線を飛ばしながら走ってくる。


「うへぇ……絡まれないようにしないと……」


目を合わさないように民家にもたれて空をぼへ~っと眺めて道を空ける。

早く行ってくれないかな~っとチラっと目を向けると、運が悪いことに男衆の一人と目が合った。


「げっ……」

「おい、そこの男!」

「な、なんでしょう……」

「ここで松平様を見なかったか?」

「いえ……見ませんでしたけど」


強面の男から顔を近づけられて冷や汗を流しながら答えると、男はじろじろと五郎を見て首を傾げる。

(松平って……俺が書状を渡さないといけない偉い人だよな、特にそんな偉そうな人見なかったんだけど……)

ともかく、全く覚えがない以上出来れば早く自分から離れてくれないかなぁ~と思っていると、男は五郎の肩を叩いて一言。


「あんた、流れ者か?最近皆気が立ってるから妙な事はしない方が身の為だぞ、気をつけな」

「は、はい!気をつけます!」


強面の男が五郎に注意を促していると、更に奥からのんびりと優男が歩いてくる。


「どうしたんだい、何か問題があったの?」

「いえ、松平様を目撃していないか尋ねていたのです」

「そっか、あんまり乱暴な事しないようにね~後で困るから」

「はっ!」


手で次に向かうよう指示すると優男は五郎に向き直って告げる。


「ごめんね、この町はいい所だからゆっくりしていってよ」

「は、はぁ……」

「ところで、あの人達に何て言われたの?」

「いや、松平様を見なかったかと……後はあんまり妙な事はしない方がいいぞと」

「ははは……失礼かもしれないけど、弱そうな格好してるのに腰に立派な物ぶら下げてるみたいだからね。一応心配したんだよ、許してあげて欲しいな」

「よ、弱そう……否定できないのが悔しい」

「気をつけなよ~?油断したら身包み剥がされるからね」

「肝に銘じておきます……」


はははと笑いながらじゃあねと優男は去っていく、五郎の小太刀を見て一瞬だけ目を細めたような気がしたのは勘違いだろうか。

嵐のように去っていった男達を見送ってホッとしていると、ガタガタっと音がする。


「そういえば……」


五郎が路地を覗き見ると、先程の子供が小動物のように顔をひょこっと出してこちらの様子を窺っている。

あんな怖い大人が集団で走ってきたら怖いよな、五郎は子供が怯えるのも仕方ないと思いちょいちょいと手招いてみる。

五郎の手招きでおずおず姿を現した子供は上目遣いで五郎に尋ねる。


「も、もう行ってしまいましたか?」

「大丈夫、怖い人達はあっちに走って行ったよ」


五郎が左を指差して答えると、子供はホッと息を吐いた。


「あんな人達が走って来たら怖いよね、うんうん」

「い、いえ……あの~」

「よしよし~」

「あう……」


何か言いかけていた子供を軽く撫でると、五郎はそわそわと落ち着かない様子を見て放っておけない気持ちにさせられる。


「……癒されるな」

「……は、はい?」

「何でもないよ~、それよりも茶屋を探してるんだ。何処か美味しい所知らないかな?」

「えと、えと……こっちに、あります」


五郎の質問に少し逡巡すると裾を引っ張る、それから男が去っていった方と逆方向に連れて行かれる。

(ありゃ、こっちから来たのに、俺とした事が見逃してしまったのか)

無駄足だったかなと頭を掻きながら案内に従って来た道を引き返す。


「こっち、こっちです」

「はいはい~急がなくていいよ~」


早足で先導してくれる子供に優しく声をかける、辺りを見回すと変わり映えの無い町並みが広がっている。

どこにも茶屋らしき店は無いが……。


「こっちに来て下さい」

「こ、ここを行くの……?」


子供が狭い路地に入る、痩せているとはいえ五郎にも狭そうな路地だ。

少し考え込み迷っていると、足を止めた子供が穢れ無き目で五郎を見つめている。


「よ、よし」


視線に耐え切れず路地に入る、所々頭や身体をぶつけながらも抜けた先に……茶屋があった。


「こ、こんな所に茶屋が……」

「ここ、美味しいです」

「確かに美味しそうな匂いが……」


子供の後に続いて茶屋に入ると、主人らしき若々しい中年のおじさんが此方を見て声をかけてきた。


「おっ、また来たのか千代助」

「えと、今日は案内しに来ただけです」

「おっと失礼、お客さん。まぁ座ってくだせぇ」

「は、はい」


主人は五郎を座らせると、お茶を出してくれる。


「す、すみません……まだ何も言ってないのに」

「まぁまぁ、千代助がわざわざ連れて来るって事は、世話になったって事だでさぁ」

「え~っと、そしたら何か適当に見繕って貰えます?」

「あいよ、ゆっくりしてくだせぇ」


主人は千代助と呼ばれた子供にもお茶を出すと、さっさと裏に行ってしまった。

五郎はとりあえずお茶を一口飲むと、ホッと息を吐く。

隣でふーふーとお茶を冷ましている千代助に父性をくすぐられていると、五郎はすっかり名を名乗っていない事に気づく。


「え~っと、千代助君……だっけ?」

「うん」

「俺は五郎って名前なんだ、宜しくね」

「五郎……お兄ちゃん?」

「イイネ!」

「っ!?」

「ハッ……ご、ごめんね。気にしないで」


五郎のリアクションにびくっと身体を震わせると千代助はおずおず顔を窺ってくる。


「いかん、ここは大人としての余裕を……」

「はい、お待ち!」

「来たああああ!」

「威勢のいいお客さんだなぁ」

「ありがとうおやっさん!」


このまま怯えさせたままだと自分が悪い人みたいなので、五郎は団子を一つ手に取ると、千代助の前に差し出した。

こうして五郎はこの千代助と出会ったのである、どうやらお互い行く宛もないようだし、保護するついでに岡崎について聞いてみようと考え五郎は千代助と交流を深める事にした。

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