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第四十九章~癒されて岡崎、交流・下~

「今日はちゃんとついてきてね!お兄ちゃん!」

「分かってるよ」

「絶対だよ!じゃないとまた怒るからね!」


念を押してくる千代助の頭を撫でながら宥めると、五郎は裾を握ってくる千代助に歩幅をあわせて先日の区域を見て回る。

先日は康政と出会って頼まれ事を受けたが、その人物像を想像しながら千代助に案内された店を覗く。

(低い背丈、童顔ね……他にも色々聞いたが分かりやすい特徴はこの二つかな)

康政情報によればここ数日、城下町に抜け出しては楽しそうに城へ戻ってくるとの話である。


「一体何してるんだろうな……」

「どうしたの?」

「いや、こっちの話」

「?」


不思議そうに見上げてくる千代助を撫で回したくなる衝動に駆られるが、自制して千代助が勧める商品を手に取る。


「この髪飾り……いいねぇ」

「うん、女性に人気なんだって」

「え~っと幾らだろう」

「ここに書いてあるよ」

「…………ふむ」


この位の値段なら全然余裕がある、食べ物は日持ちしないので無理だが、この髪飾りなら揚羽に似合いそうだし、お土産によさそうだ。


「よし、ありがとう!これ買おう」


思い切って購入する事にして、髪飾りを包んでもらう。

女性への贈り物に慣れていない五郎は千代助が居てよかったと思うのであった。

お土産を買った以上特に目的が無くなったので、二人でのんびり町を歩く。

楽しそうに隣で歩く千代助の元気よさに元気を貰うと、五郎は岡崎に来て良かったなと信長に感謝する。


「そういや、千代助は何処に住んでるの?」

「……内緒!」

「え~教えてくれないのかい?」

「その内お兄ちゃんを呼んであげる!」

「ははは、それじゃその時を楽しみにしてるよ」


岡崎に居る間に機会がくればいいかなと思う程度に千代助に返事をする。

この町に長期間居るわけではないのだ、折角仲良くなったこの少年とも別れは来るだろう。

ちょっと寂しい気がするが、五郎にも帰る家が一応あるのだ。


「悩ましいねぇ」


五郎の呟きは人々の喧騒に紛れて消えた。岡崎に来て既に数日、のんびり出来る時間も少しずつ無くなってきていた。

松平元康との謁見、そして書状を届ければ清洲まで戻る事になるだろう。

のんびり千代助と歩くのも後僅かになりそうだと思っていると、前方から声が掛かる。


「おーい」


おや?っと顔を向けると、康政がにこにこと五郎に寄って来る。

康政の姿を見た千代助は五郎の後ろに姿を隠すと、何故かそっと様子を窺っているようだ。

人見知りなのだろうか、さして気にもせず康政に会釈すると。


「康政殿じゃないですか、今日もまさか……」

「あっはっは、いや~参ったね」

「一昨日もそうでしたけど、意外と余裕ありそうですね?」

「なぁに、抜け出してもちゃんと戻って来られるからね。それに腕っ節は強いんだよ」

「そうなんですか」

「で、そっちは相変わらず散歩かい?」


康政と五郎が二人で話していると、千代助は決して康政の視界に入らぬよう五郎の背中に張り付いている。

五郎がそんなに人見知りなのか?と不思議に思っていると、康政が五郎に問いかける。


「五郎は聞いていた通り子供に好かれるみたいだね、早速手篭めにしたのかい?」

「手篭め……あんまりですよ~」

「ははは、ごめんよ」

「全く、意地悪しないで下さいよ」

「どうだい?暇なら今日は昼飯でも、その子供も一緒にご馳走するよ?」

「本当ですか!あんまりお金使うと後が怖いんで助かります!」

「まぁ、今の所は友好関係を築かないとね?」

「あ、あはは……」


『今の所は』を強調する康政に苦笑いを浮かべると、五郎は背中に隠れたままの千代助に声をかける。


「千代助君、このお兄さんがご馳走してくれるらしいから、行こうか?」

「……千代助?」

「あぁ、一昨日たまたま出会ったんですよ、千代助君って名前の親切な子なんで……」

「あっ!」


康政が叫ぶと千代助は素早い動きで人々の流れに紛れて走り去ってしまう。


「へ?」

「ご、五郎!追いかけるよ!」

「あ、は……え?」

「いいから!早く!」


康政に引っ張られながら走り始める五郎、突然逃げ出した千代助は既に遠くまで離れているようだ。

訳も分からず混乱していると、康政が困ったように五郎に告げる。


「参ったね、本当に参った。……まさか元康様が五郎と居るなんてね」

「え”っ!で、でもっ!小柄で童顔な……それに千代助君は子供ですよ?」

「いや、教え方が悪かったね、元康様は小柄なんだよ『子供と同じ位』のね」

「どう見ても子供にしか見えませんよ!」


五郎が突っ込むと康政は『あっはっは』と頭を掻きながら千代助の後を見失わぬよう人々の中を抜けていく。


「しかし、私の顔を見るなり逃げ出さなくもいいでしょうに」

「てっきり人見知りで俺の背中に隠れているものだと思っていたんですけどね」

「あぁ、それは間違ってはいないですよ」

「……人見知りなんですか?」

「元康様と会った時を思い出したらいいかと」

「う、う~ん。確かにそんな傾向があったような……」


二人は追いつけない背中を見逃さないように走りながら話していたが、千代助……元康が三叉路を曲がった所で『あっ!』と声を上げて走る速度を上げる。

二人が三叉路に差し掛かった時には既に元康の姿は消えていた、先ほどより疎らな人並みだが、康政は五郎の肩に手を置いて首を振る。


「普段はお城に閉じこもっているのに、何故か町の抜け道やらに詳しいんですよ。一度見失ったら見つけるのは難しいですね、この区域は狭い路地も多いので」

「はぁ……はぁ……、つまり……走り損…………ですか?」

「そうなりますね」

「ふへぇ~」


五郎は息を切らしながら民家らしき建物に背中を預けると大きく深呼吸を繰り返す。

康政はさして疲れをみせずに五郎の息が整うのを待っている。

暫く目を閉じて休憩すると、落ち着いた五郎は困った顔で康政を見て尋ねる。


「これからどうしましょう」

「そうですねぇ……五郎が俺と顔見知りと知った以上、接触できる可能性は低いでしょうね」

「ですよねぇ……今日は色々とお礼を考えていたのに……」

「ごめんね、悪いことをしちゃったかな」

「いや、康政殿もお役目でしょうから……俺もまさか千代助君が、えと……松平のお殿様だなんて予想外でしたし」

「いや、元康様はあんな感じだから、子供だと勘違いされる事を頭に入れておくべきだったよ」


すまなそうに五郎に謝る康政を手で制すると、五郎は話を続ける。


「でも、探さなくて大丈夫なんですか?」

「一応、連絡は入れるよ」

「康政さんはどうするんです?」

「うーん、どうしよう」

「俺は千代助君を探そうと思いますけど」

「ふむ、そうだね……そうしてくれると助かるかな。もし見つけて話を聞いてくれるようだったら、無理に連れ戻す気はないので逃げないで下さいと伝えてくれないかな?」

「見つけれたら……伝えますけど」

「不思議なほど五郎に懐いていたみたいだし、五郎だけなら姿を現すかも」

「なんか、野生動物みたいですね……」

「ははは、可愛いだろう?」

「た、確かに…………可愛いかもしれません」


茂みから小動物のように顔を出す元康を想像して二人は苦笑する。

それからこの後の予定を考えながら話しを続けていると、康政が手を叩いて声を上げた。


「そうだ、いい事を思いついた」

「?」

「五郎、もう一つだけ言伝を……元康様に『今日は重大な話があります、早く帰ってきてください』とお願い」

「わかりました」

「まぁ、いつもお城にはちゃんと戻られるので心配はしていないけどね」


康政はそこまでで話を区切ると、五郎に顔を寄せて耳打ちしてくる。


「五郎、まだ岡崎に留まる余裕……あるよね?」

「えぇ、の……こほん、岡崎に予定より早めに着いたのでまだ暫くは留まれると思います」

「それじゃ、五郎を利用させて貰ってもいいかな?」

「俺を……ですか?」

「一昨日は、我侭で城を抜け出したんだけど、昨日と今日は五郎と遊ぶために抜け出したみたいだからさ」

「つまり俺を餌に……?」

「そういう事になるかな、もう正体は知ったんだし、私が場を用意するから書状を渡すついでに元康様の相手をして貰いたいんだよね」


康政の提案に流石の五郎も考え込む、信長からの連絡も無しに、果たして勝手に謁見して良いのだろうか。

そんな心配を感じ取ったのか、康政は五郎を安心させるように続ける。


「大丈夫だよ、一応、私の判断で謁見出来るように話はついているんだ」

「それならいいんですけど」

「正直、五郎が相手をして元康様がお城で大人しくしてくれるなら此方としても楽なんだよ、後は元康様が話しに乗ってくれればだけどね」


肩をすくめながら言う康政に五郎も苦笑する。

それから康政は五郎に決まったら直接伝えに来ると言って去って行った。

五郎はその背中を見送りながらこの後どうしたものかと頬を掻く。

流石に警戒されているかもしれないのだ、容易に見つかるとは思えないが。


「……走ったら疲れたし、取り合えず茶屋で休憩しよう」


先に何か食べようと茶屋に向かう、もしかしたら千代助も茶屋に居るかもしれないと少し期待しながら。

結果的に、茶屋で一人ゆっくりした後町を歩き回って見たが、千代助らしき姿を見ることは出来なかった。

歩きつかれた五郎は宿に戻ってすぐに就寝の支度をすると、康政の案に期待する事にして眠りにつく。

思わぬ形で千代助の正体を知った五郎は、康政の事といい、妙な縁を感じながら意識を深く沈めていった。

翌日、朝早くに宿を訪れた康政に寝ぼけたまま岡崎城に連れて行かれる五郎であった。

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