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第四十二章~信長VS濃姫 夫婦喧嘩開戦~

「の、信長様~!一大事!一大事です!!」

「何事だ!」

「はぁ、はぁ……!」

「五郎!水を出してやれ」

「あ、はい!」


信長は五郎に水を用意させると息を切らせる兵が落ち着くのを待つ。

五郎に一礼して水を飲み干すと兵は焦った表情を浮かべて信長に告げた。


「信長様!奥様が……濃姫様がお見えになりました!」


信長と五郎に衝撃が走る、ピタリと動きを止めた二人は錆びたロボットの様にゆっくりとお互いを見合う。

それから暫くの沈黙の後、二人は同時に口を開いた。


「やばい、やばいぞ!」「どどどど、どうするんですか!?」


二人は一斉に慌て始める、信長は兵に下がるよう命じると、後ろに飾ってある刀を手に取る。


「五郎!お前も持て!」

「え!俺もですか!?」

「お前は俺の家臣だろう?ん?」

「あいたたたた!ちょ、ちょっとお腹の調子が……」

「逃がすと、思うなよ?」

「うっうっ……!」


殺気を滲ませた笑みを五郎に向けると、五郎は泣きそうな顔で刀を受け取る。

まるで討ち入りのような雰囲気に城内が慌しくなる。


「……ごくっ」


唾を飲み込むと五郎はそわそわと落ち着きなく身体を動かす。


「落ち着け五郎、既に足止めを向わせている」

「足止め?」

「ふ、毎度毎度ここまですんなり通すものか……!」

「ちょっと!まさかいつも城内の皆さんを巻き込んでいるんじゃ……!」

「俺の命に関わるのだ、使える者は何者であろうと使う!」

「はた迷惑ですよ!」


五郎は突っ込まざるを得ず、立ち上がって叫んでしまう。

信長はにやりと笑うと、天井から姿を現した忍者っぽい男に耳打ちして何処かに向かわせた。


「ふ……流石帰蝶、あの程度の兵では止める事は敵わんか!」

「笑ってる場合じゃないでしょ!」

「まだ沢山策はある、たとえ帰蝶と言えどあの包囲網を……」

「信長様!第二布陣が突破されました!」

「……(ポロッ)」


信長は手から扇子を落とすと立ち上がって声を張る。


「次だ!次の策を実行しろ!兎に角時間を稼げ、その間に……逃げるぞ!五郎!ぼーっとしてないで支度をしろ!」

「俺も!?」

「まさか自分だけ助かろうなどと……思ってないよな?」

「……うーん(ぶくぶく)」

「あ、この野郎!気絶するんじゃねぇ!」


一瞬気を失った五郎は信長に叩き起こされると渋々支度を手伝う、先程から城内のあちらこちらからドタバタと大きな音が響き渡っている。

(一体何が起こってるのか、怖くて外を見れない!)

信長が報告と指示を交互に繰り返しながら支度を急いでいると、すぐ外で『ひぎゃ!』と叫び声が聞こえる。


「もうここまで来たと言うのか!」

「はやっ!」


信長が身構えて襖を睨みつけると、ピシャっと音を立てて襖が開く。

まるで最終戦闘のようなBGMが五郎の脳内で流れると、奥からゆっくりとその人物は姿を現した。


「えぇい!帰蝶!何用だ!」

「……何用?わざわざ会いに来た妻への一言目がそれですか?」

「俺は今忙しい、用がないなら家に帰れ!」


喧嘩腰の信長に五郎はあわわと口に手を添えて事態を見守る。

先日と雰囲気が全く違う濃姫に怖気を感じて後ずさると、信長の挑発的な態度に気が気でなくなる。

(何で喧嘩腰になるんだ!この殿様は!)

段々悪化しているとしか思えない状況に五郎の血の気は消えて行く。

どうしようかと視線を彷徨わせていると、濃姫の後ろに居た政秀は五郎を小さく手招いているのが見えた。

五郎はソロリソロリと緊張状態の二人から忍び足で政秀に近寄ると。


「よく気づきましたな」

「そんな事より、どうしたらいいんです!?」

「ここまで来たら二人の気が済むまで好きにさせるしかありませぬ」

「……放っておくんですか?」

「下手に仲裁しようとすると、首が飛びますぞ?」

「…………」

「兎に角、丹羽殿が気づいてくださり良かった。あのままあそこに居たら、危ないところでしたな」

「へ?」


政秀の話に間抜けな声を出した瞬間に物凄い音がして信長の方を振り向いた。


「おい!いきなり投げるんじゃない!殺す気か!」

「何度も何度も何度も何度も……!ま~~~~ったく反省しないなら一回死んでご自分の行いを悔い改めれば良いのです!」

「俺の金だぞ!俺が好きに使って何が悪い!」

「もっと他に使うべき用途があるでしょう!」


帰蝶は信長に向けて手近にある物という物を投げつけながら怒鳴る。

その迫力は信長にも引けを取らない威圧感がある。

政秀に気づかなければあの二人の間で挟まれていたと思うだけでぶるっと身体が震えた。


「丹羽殿、良いですか。濃姫様が若様に距離を詰めたらここから出て走りますぞ」

「えっ!逃げるんですか?」

「逃げないと命に関わります、良いですね?」

「いや、でも……」

「つべこべ言わずに……伏せなされ!」

「ひぃ!」


政秀の声に条件反射で伏せた五郎の頭上を何かが通り過ぎてパリン!と音を立てた。

伏せた状態で後ろを確認すると、そこには硬そうな陶器の破片が散らばっていた。


「あああああ、危なかった」

「分かったでしょう、早く行きますぞ」

「ハ、ハイ!ツイテイキマス!」


五郎は物が飛び交う危険な広間を匍匐前進で抜け出すと政秀に連れられて外へ飛び出す。

そこに待機していた小姓人が政秀に近寄る。


「平手様!皆の準備、完了しております!」

「宜しい、良いですか、あの夫婦が近づいてきたら迷わず逃げなさい。その為の連絡は終わっていますね?」

「はい!今回は濃姫様が予想以上に早く広間に到着されたので第五次防衛布陣を展開しております!」


小姓人の報告に深く頷くと政秀は五郎を連れて二人が暴れ始めた部屋を離れようと……。


「へ?」


バキッ!っと音がした方へ顔を向けると五郎の頬を掠めて短刀が通り抜けた。

つつ~っと垂れる血を拭って眺めると、五郎は手を震わせて倒れそうになる。


「これ!丹羽殿、しっかり立ちませぬか!」


政秀に叩かれてハッとすると、五郎は頭を振って政秀に尋ねる。


「こ、これからどうするんですか?」

「二人が落ち着くまで逃げますぞ」

「逃げるって言ったって……さっきの防衛布陣にですか?」

「そうです」

「安全なんですか?」

「その為の防衛布陣です、安全じゃなかったら困りましょう」

「行きましょう!今すぐ!!」


五郎が必死に言い寄ると、政秀はやれやれと言いたげな顔で嘆息する。

その時大きな音と共に襖を突き破った信長が姿を現すと……。


「ご~ろ~う~!逃がさんぞぉ~!」


目が血走った信長が五郎を捉えていた。


「いやああああああああ!」

「これ!下手に逃げると……」

「お前も俺と一緒に帰蝶と戦えぃ!!!」

「お助けぇえええええええ!」


五郎が走り去った方向に信長は猛ダッシュすると、その後から姿を見せた濃姫も手に握った小太刀を鈍く光らせて後追いかけて行ってしまった。


「仕方ない、丹羽殿の事は諦めて皆に指示を出すとしましょう」


城内の被害を最小限に抑える為にその場を離れると、政秀は忙しく城内を見回る事になった。




濃姫は五郎を追いかける夫、信長を追いかけると道すがらにある投げれそうな物を全力で投擲する。

しかし、後ろに目が付いてるかのような動きでその全てをかわす信長に悔しさを滲ませる。


「器用な人ですね!全く!」


五郎が走り回る順路が予測できない為、回り込もうにも見失う可能性を考えるとこのまま背中を追うしかない。

それにしてもあの身体のどこにそんな体力があるのか、五郎は信長から距離を詰められる事無く逃げ続けている。


「丹羽殿は、まだまだ未熟な方だと聞いていましたが……」


夫の動きを止める為には丹羽殿の動きを封じる必要があるもしれない、丹羽殿には申し訳ないが何か策を講じなければ。

このまま逃げられては反省する事もなく、夫は自分に内緒でまた浪費するかもしれない。


「少しは我慢してもらわねば、皆に示しがつきません」


濃姫は小憎らしい信長の背中を睨みつけると、懐から短刀を抜いて投げつける。

信長は紙一重でその短刀を避けると、顔を後ろに向けて叫ぶ。


「帰蝶!本気で投げるんじゃねぇ!危ないだろうが!」

「本気で投げてますから、危険も承知の上です!」

「女だと思って手加減していりゃぁ……!」

「普段から男と女も関係ないと喧伝しているでしょう!」


走りながら怒鳴りあう二人を先導するように走っている五郎は、二人の言い争いをBGMに大量の汗を流しながら全力疾走していた。


「吐きそう!きつい!……でも少しでもスピードを緩めたら殺される!!!」


死にたくない一心で走り続ける五郎は振り返る余裕も無く迷路のような城内を思うがままに走り続けるのであった。

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