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第四十三章~鬼ごっこ+かくれんぼ in 清洲城~

「ひぃ~~~~!」


五郎は一心不乱に走り続けていた、城内を手当たり次第に曲がり、階段を駆け上り、飛び降りる。

アスレチックを遊びまわる子供のように休みなく動き回る五郎は、立ち止まったら命に関わる気がして今まで見せた事のない速度で駆け抜ける。

普段なら既に倒れこんでひぃひぃ言ってる所だが、死の危険を感じた五郎の脳内に溢れるアドレナリンが作用しているのか体がいつもより軽く感じる。


「五郎!待たんか!」


待てと言われて待てるわけがない、追いかけてくる信長は鬼だが、その信長を追いかける濃姫もまた鬼なのだ。

自分が捕まれば、信長は濃姫に捕まるだろう。そうなれば確実に刃傷沙汰に巻き込まれる確信がある。

(絶対に、嫌だ!)

なんとしても信長を振り切って、夫婦だけで思う存分喧嘩して欲しい五郎はどうやって撒くか城内に忙しなく視線を巡らせる。

政秀が防衛布陣だかなんだかを指示していたのだ、きっと他にも使えそうな道や隠し通路的な何かがあると思いたい。


「せめて隠れる場所があれば……!」


先程から注意深く探してみたが、怪しげな場所は見当たらない。

五郎の個人的なイメージとしては、忍者屋敷みたいなからくりがあってもいいんじゃないかなと思っていたのだが、当てが外れたようだ。

実にスリリングな鬼ごっこから既に数十分、いくら精神状態がハイになっていても流石に身体がだるくなってきている。


「どこか……いい場所は!」


今は距離を稼げているが、この清洲城の主は信長である。下手な場所に逃げても見つかる可能性が高い。

せめて『そこかよ!』と思われるような場所に隠れなければ、捕縛されてしまう。


「げっ!この通路はまずい!」


目の前に映った長い廊下に冷や汗が吹き出る、隠れる所じゃない、こんな場所で追いつかれたら……。


「くくく!くくくくく!」


寒気がするような低い笑いに振り返ると、信長が勝利を確信した目で五郎を見据えていた。

信長も疲れが溜まっているのか、少し息を荒くしてじりじりと距離を縮めてくる。

その動きに応じるかのように五郎も後退りをしながら信長に平和的な交渉を行うべく口を開いた。


「お、落ち着いて下さい、信長様。俺を捕まえるより、濃姫様に謝ってこの場を収めましょう?ね?」

「何を言っている!お前も見ただろう!?帰蝶が大人しく俺の言い分を聞くわけがないだろうが!」

「そ、それは……信長様の普段の行いが……」

「あぁん……?」

「ひっ!怖い顔をしないで下さいよ!」

「いいから大人しくしろ、なぁに……悪いようにはせん」

「なら俺を捕まえてどうするんですか!」

「どうする……だと?家臣が主君を守らずしてどうすると言うのだ、名誉だろう?」

「盾ですね!?俺を盾にする気なんですね!?」


にた~っと笑う信長に身の毛がよだつと、五郎は走ってくる間に信長が避けた投擲物が何度も身体を掠めていったのを思い出す。

あの優しそうな濃姫が手当たり次第に投げていたのだ、自分が例え盾になっても手加減などしてくれるのだろうか?そこはかとなく不安である。


「……帰蝶もお前に怪我をさせてまで俺を攻撃してこんだろう」

「その一瞬の沈黙は、なんですか……」


二人はゆっくりと距離を保ったまま長い廊下を進む、五郎はいつ駆け出そうか隙を窺うが……少しでも妙な動きを見せたら信長が一瞬で距離を詰めるだろう。

お互いの隙を探っていると、そこに本命の鬼が現れた。


「見つけましたよ!大人しくなさい!」

「げっ!もう来おったか!」

「今だああああああ!」

「あっ、待て!」

「待つのは貴方です!大人しく罰を受けなさい!」


長い廊下を駆け出した五郎は、廊下の先が行き止まりでない事を祈るしかない。

後ろから響いてくる激しい音を聞く限り二人は打ち合っている可能性がある。


「なんて物騒な夫婦なんだ、濃姫様が怒るとあんなに怖い人だったとは……俺は怒らせないようにしよう」


流石に手加減はしていると思うが、あの信長と打ち合ったりする実力があるという事は、五郎にとっては決して逆らってはいけない強者だという事になる。

記憶領域の少ない脳内にしっかり刻みながら長い長い廊下を走っていると……。


「良かった!分かれ道だけど、先がある!」


いつ二人がこちらを追いかけてくるのか分からないのだ、この分かれ道を使って少しでも時間を稼ぎたい。


「ぶーーーーー!!!」


思わず吹き出す。分かれた道は両方とも行き止まりになっているのだ。

逃げ場を失った五郎は二人の様子を確認するために振り返る、姿こそまだ見えないが……木材が折れるような音や、金属がぶつかり合う音は着実に近づいている。


「隠れるしかない!」


意を決して一部屋に飛び込む、その部屋は六畳程の広さの平凡な部屋だった。

恐らくどれも似たような部屋に違いない、部屋の主が留守にして間もないのか畳の上に置きっ放しのお茶がある。


「今度はかくれんぼか、しかもこの状況だと見つからないようにするのが至難の業じゃないか」


愚痴っても仕方がない、いつ鬼がやってくるかわからないのだ。

押入れらしき襖を開けてみるが、布団らしき物が入れてあるだけの状態になっている。

この中に居てもどうしようもないだろう、五郎は部屋内を隈なく探してみるが何も発見できなかった。


「掛け軸の裏とか……ないな」


完全に手詰まりになった五郎は違う部屋の方がいいかもしれないと思って襖をそっと開けて外を覗いてみた。


「!?」


咄嗟に顔を引っ込めると、片手で口を押さえてそっと襖を閉じる。

静かだったので油断していた、丁度分かれ道でこちらの反対側に顔を向けていた信長が居たのだ。

(あの人、服がボロボロだったんですけど!)

揉み合ったのか、服がボロボロの状態の信長がどうして一人だったのか考える余裕も無く、心臓の動悸が早くなる。

そっと襖に耳をつけて聞き耳を立ててみると、信長らしき声が聞こえてくる。


「帰蝶の奴め、暫くは動けまい……あの仕掛けはそう簡単には抜けれんだろう」


仕掛け?五郎は信長が口にした仕掛けの単語に反応する。

やっぱり色んな仕掛けがあるんじゃ?そう考えると隠し通路がある可能性も……。


「五郎の奴め、大人しく捕まっておけば良かったものを……まずは見つけて命令に背いた罰を受けてもらうしかあるまい……くくくくく」


ビクっと襖から耳を離す、信長はまず反対側の部屋から探し始めたのか何かが散らばる音が聞こえる。

今のうちになんとかしないと……信長が言った仕掛けで思い出した五郎は押入れをそっと開けると、天井を調べ始めた。


「やった!暗いけど、どこかに通じていれば……」


カタッっと小さな音を立ててずらす事が出来た天井を見てガッツポーズをする。

昔住んでいた木造建築の家、その押入れにあった屋根裏に通じる仕掛け扉を思い出した五郎はもしかしてと思い調べてみたのだ。

どこに通じているかなんて考えるのは後回しにして、静かによじ登ると音を立てないようにそっと板を戻す。


「気をつけないと、結構音がするな……」


真っ暗闇でまだ目も慣れていない状態だ、もし何かに躓いたら天井を突き破って下に落ちるかもしれない。

埃っぽさに咳き込みそうになるが我慢しながら周囲を手探りで確認する、所々蜘蛛の巣が張っているのだろう……纏わりつく糸が煩わしい。


「なるべく頑丈そうな所を……」


少し慣れてきた暗闇を両手両足をつけて慎重に進む、軋みそうな箇所に触れないようそ~っとだ。

ガタッ!っと音がして身体がビクっと跳ねる、どうやら鬼が五郎の居た部屋に来たのだろう。


「ここにも居ないか!どこに隠れやがった……」


間一髪だったかもしれないとホッと息を吐く、このままこの場を離れようと顔を上げると……。


「キー」


目の間に鎮座している鼠を見て声を上げそうになる、必死に堪える五郎を見た鼠は威嚇しようと鳴き声を上げた。


「キー!」

「や、やめ……」

「誰だ!」


信長が怒鳴り声と共に突き上げた刀の刃先が鼠と五郎の顔の間を通過する、少しずれていたら刺さっていたと思うと五郎は叫び声を上げそうになる。

鼠は突き破ってきた刀に怯えたのだろう、大きな鳴き声をあげながら物凄い速さで逃げ去った。


「ちっ、鼠か……まぁ草でもない五郎が天井裏に居るわけもないか」


実は天井裏で涙目になっているのだが、信長は刀を抜いて荒々しく部屋を出ると隣の部屋に向かっていった。

信長の気配が消えたような気がした五郎は、この場に留まるのは得策じゃないと行動を開始する。

まるで映画のワンシーンのようにどこに通じるか見当もつかない道を、五郎は静かに進むのであった。

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