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第三十七章~敗北、格が違う二人の酒豪~

「どうしてこうなった……」


吐き気を堪えながら五郎は疲弊しきった顔から脂汗を大量流しながら呟く。

辺りは無造作に敗北者達が折り重なって倒れている、ある意味で壮観とも言えるだろう。勿論、悪い意味でだが。


「も、もう駄目だ……」


五郎がふらふらと倒れこもうとした瞬間、首根っこを掴まれて背筋を伸ばされる。


「五郎、まだまだいけるだろう?ん?」


残り三人になるまで飲み続けたというのに、勝家は全く顔色を変えずに飲み続けている、それは可成も同様であった。

五郎が気づいた時には生き残りは自分を含め、可成、勝家の三人。

ついでに言えば、五郎も生き残ったというより『気づいたら残っていた』という感覚である。


「さぁ、まだまだ飲むぞ。水だと思えばいいだけだ、グイグイいけ」


この繰り返しを何度やっているのか……五郎にもハッキリとわからない、勝家は五郎が潰れそうになって意識を手放そうとする瞬間、笑顔で起こしてくるのだ。

その表情は『俺の振舞う酒を残すわけないよな?』と笑顔で脅している。


「か、勝家さん……もう限界です……うぅ」


五郎は降参ですと声を発する、しかし勝家は見事にスルーして声を被せる。


「おいおい、折角お前の手柄を祝おうと労っているのに、酷いじゃないか?……ねぇ?可成殿」

「わっはっは!そうだそうだ!儂と勝家二人に酌させるなんてそうは無いぞ!」


五郎は二人の言葉に気が遠くなりそうになる。

気づけば隣に居たはずの一益は安らかな寝息を立てながら気持ち良さそうに寝ているし、いつに間にか成政の隣に居る利家は遠くから五郎を苦笑しながら見ている。

(お、俺だけが解放される気配が全くないなんて……!)

酔いのせいで上手く回らない頭でも分かる事がある、この二人に捕まったら……完全に潰れるまで地獄は続くという事だ。


「た、助けて……」


桁違いの酒豪二人に挟まれて、しかも両側からがっしり方を組まれているのだ、とても逃げ出せない。

一縷の望みをかけて信長に助けを求めようと顔を上げるが……。


「……(にやにや)」

「……(助けて下さい)」

「……(微笑み)」

「……(絶望)」


信長とアイコンタクトに成功した五郎は全く助ける気がない信長の反応に、『神様なんて居ないんだ!』と心の中で叫んだ。

背中に哀愁を漂わせて悲嘆にくれていると、勝家がそっと肩を叩く。


「五郎、何もいじめているわけではない、これからの事を考えると命を預けあう仲間とはとことん殴り合う位しておかないと嫌だろう?」

「それは利家殿や勝家殿位でしょう!?――ごほっ!ごほっ!」

「ほれほれ、無理に叫ぶな。勝家の言う通りだと儂も思うぞ」


五郎は二人の言葉に頭痛がしてくる、面倒になったら喧嘩したらいいと思っている節がある二人だ、五郎のようなひっそりと……あまり触れないで下さいと気配を消したい者と違って単純すぎるのである。

しかも五郎は既にKOしているはずなのだ、そろそろ楽になりたいのである。


「これも試練だ、お前がどれ程根性を見せてくれるか、それを見届けたいだけだ」

「酷い!?」

「わっはっは」

「笑い事じゃないですよぉ……それにもう俺達しか居ないんですよ?俺としては十分頑張ったと……」

「「駄目だ」」


二人は声を同時に発すると、可成が五郎の口を開け、勝家が酒を流し込む。


「!?!!!?」

「長秀、俺と勝家だけじゃいつも通り過ぎて面白くない、だが今日はどうだ?お前が居る」

「お前がどこまでついてこれるか……楽しみだ」

「ん~!ん~~~!」


がっしりと固定されて流し込まれる酒に息を詰まらせながら五郎はジタバタする、二人の目をよく見てみる、その目は本気だった、そこに冗談は少しも見えない。

(こ、この人達……俺を殺す気だよおおおおおおお!)

五郎は成政に忠告された事を思い出す、彼は言ったはずだ『一度捕まれば逃げられない』と。

流し込まれた酒をなんとか飲み干すと五郎はぜぇぜぇと息をつく。


「飲み干せたか、まだまだいけるな!」

「今夜は楽しめそうだ」


二人は楽しそうに五郎を見ると、軽々と盃を飲み干す。

未だにあの量を一気飲み出来る事が五郎には恐怖でしかない。

後ろで気持ち良さそうに寝る一益を恨めしそうに見ると、五郎は似合わない事はしない方がいいんだと心に決めたのであった。


「勝家、ご機嫌じゃないか」

「可成殿こそ、今日は調子が良く飲んでるじゃないですか」

「……何、鬼秀が居なくて柄にも無く寂しくなると思ったが、こいつを残して行きやがったからな」

「ふっ……あいつとは違う意味で今後期待してますよ」


二人は朦朧としている五郎を支えながら言葉を交わす、泣き喚きながらも自分達に一生懸命付き合おうとする、この頼りない男とこれからこの乱世を戦う事になるのだ。一応……二人なりに五郎を可愛がっているつもりである。

そんな二人の思惑がわかるわけもなく、五郎はこの苦行の終わりが見えない事に軽く絶望しつつ、地獄を甘受するしかなかった。




成政と利家はギブアップを許されない五郎を見て、流石に気の毒に感じたのか顔を見合わせて溜息をつく。


「相当嬉しいだろうが、ありゃ五郎じゃなくて俺でも地獄だぜ」

「珍しいですが、あれはやりすぎ……とお二方は思っていないでしょうね」


大人気ない可成と勝家の可愛がりに頭を振ると、二人は近くに居る小姓人に声をかける。


「さて、くたばった野郎共の片付けでもするか」

「先に始めてくれ、俺は一益を起こしてくる」

「さっきまで飲んでたんだろ?放っておいた方がいいんじゃねぇのか?」

「あいつも回復は早い、起きれば大丈夫だ」

「んじゃこっちは勝手にやってるぜ」

「あぁ」


二人は各々やるべき事をする為に行動を開始するのであった。

それから数十分後、五郎は自身も気づかぬうちに二人の酒豪によってKOされて呻きながら倒れこんでいるところを利家に引き摺られる事になる。完敗だった。

その後も可成と勝家は朝まで飲み続けていたが、結局信長がとめるまで決着はつかなかった。

日の出を合図に終了を告げた宴は気づけば参加者の半数は酔い潰れる結果となった。

しかし参加した者達は皆満足そうな表情を浮かべてたのであった。




「……つまり気づいたらここに居たと」

「は、はぃ」


揚羽の冷たい声に語尾が尻下がりになる、上司との酒の付き合いを断れないタイプの五郎は頑張ったつもりだが揚羽にはわかってもらえないようだ。


「はっきりと断ればよいのです」

「すみません……」

「いいですか?酒を飲むなとは言いませんが、まだ家督を継いで間もないのです、仕事は山積みなのですよ?わかっていいますか?」

「はい……」

「柴田殿が今朝お見えになりました、貴方の具合を聞いて悪かったと言伝を預かっています」

「勝家さんが……」

「因みに、宴会に参加した者達の中で酒に酔って休んでいるのは貴方ぐらいですよ」

「皆どんだけ化け物なんだ……」


五郎は揚羽の話に痛む頭を抑える、あれだけ皆飲んだのに今日も仕事をしているなんて信じられない。


「兎に角、今日はしっかり休んで明日からしっかり働いてくださいね?」

「は……はい!……っ~~~!」


揚羽に勢いよく返事をした声が頭に響く、頭を抱え込む五郎を見て溜息をつくと五郎に寝ておくよう念を押して揚羽は退室した。


「先行きが不安です」


あんな調子でこの先、生きていけるのだろうか?揚羽は丹羽家というよりも五郎自身が生き残れるか心配してしまう。


「なるようにしか……なりませんか」


考えても仕方ないと頭を振ると、揚羽は今日の予定を考えながら静かに五郎の部屋から離れていった。

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