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第二十八章~今川義元を探せ!~

「せぇい!」


利家は槍を振り回すと、相手の騎馬隊を乱す。

どうやら200~300程だろうか、単騎で突破するには骨が折れそうだ。


「とりあえず、足止め位しねぇとなっ!」


利家は向ってくる騎馬の攻撃を槍で受け流しながら、敵を釣り出そうと間合いを取る。

一応、五郎を乗せている状態だ、あまり無茶をすると五郎が振り落とされかねないだろう。


「五郎、あれだけ騎馬がいる。大将を見つけたらすぐ教えろ!」

「いやいやいや!幾らなんでも多すぎますって!」

「心配しすぎだって、弓も近くには居ねぇんだ!」

「あんなに沢山の騎馬に槍で突かれたら避けれませんよ~!」

「あれ位の騎馬になら負けねぇよ!」

「それは利家殿はでしょ!?」


五郎は思わず突っ込んだ、利家は戦いに集中して五郎の状態を把握してないのだ。

五郎は既にへとへとになっていた、初めての合戦で緊張しているのだ。

その緊張状態で、馬に慣れてもいないのに利家の駆る暴れ馬に乗らされているのだ、ジェットコースターより性質が悪い。

(気持ち悪くて吐きそう、しかも尻も腰も痛い……)

肉体的にも精神的にも大分ダメージを受けている五郎だった。

しかし、戦場ではそんな事などおかまいなしに敵はやってくる、今も視線の先から騎馬が数人此方へ駆けてきている。


「利家殿!来ます!」

「分かってる、五郎、いざという時はお前も刀で斬れ」

「無理言わないで下さいよ!片手じゃ振り落とされそうですって」

「なら槍を弾け!じゃないと突かれるぞ!」

「やればいいんでしょ!やれば!」


利家が先行してきた騎馬の攻撃を弾き、首を刎ねる。

その光景を見て顔色を青白くしながら利家が弾き損ねた槍に小太刀を振り下ろす。


「……っ~~~~!」


五郎はスピードに乗った槍と小太刀がぶつかり合う衝撃に腕がジーンと痺れた、危うく小太刀を落としそうになる。

(う、腕ごと持ってかれたと思った!)

こんな事を平気な顔してやってるのかと身震いすると、利家に声を掛ける。


「と、利家殿!なんとか出来ましたよ!」

「上出来だぜ!その調子で頼む!」


利家は五郎の声に馬の速度を更に上げると、そのまま複数の騎馬に突っ込む。

次々と敵を散すと、囲まれぬようにその場を離脱する。

何度も繰り返していると、後方から一際大きな声が響いてくる。


「来た!」


利家が声を上げると、馬廻が此方に駆けつけてくる所だった。


「利家殿!大将はどこだ!」

「今探している所だ!恐らく義元は馬廻を引き連れて逃げているはずだ!」

「つまり、早い者勝ちって事だな!」

「おうよ!誰が先に見つけられるか勝負だ!」


馬廻衆と軽く声を掛け合い、競うように走り出す。

五郎は密度を増した騎馬の行軍に圧巻させられながら、利家の背中から前方を覗く。

先程から敵の騎馬隊は一定の方向へ後退しながら此方を牽制してくるが、その動きはどうにも違和感がある。

(まるで誘導されてるみたいだ)

此方とつかず離れずの距離を保ちながら後退する敵に五郎は疑問を持つ。

その時五郎はずっと後方、大高方面に視線をふと向ける。

(まさか!)

五郎は利家に声を掛ける。


「利家殿!戻りましょう!」

「おいおい、何言ってるんだ?折角ここまで追い詰めにきたのに」

「時間稼ぎですよ!時間稼ぎ!」

「あん?」

「あの騎馬隊はただの囮ですよ!騙されました!……きっと今頃大将は林の中を大高に向けて走っているかもしれません!」


利家は五郎の言葉に驚くと、頭を掻いて馬の手綱を引く。

それから方向転換すると、急いで後方へと駆け出す。


「いまいちよくわかんねぇが、五郎の言う事が本当なら急ぐ必要があるな」

「信じてもらえるんですか?」

「このまま行けば他の母衣衆が片をつけるはずだ、だが義元が違う場所に逃げた可能性があるなら行くしかねぇだろ!」

「利家殿……」

「それにしても、五郎。何で義元はこっちに逃げると思ったんだ?」

「いや、その……実は」

「?」


利家は林の中に飛び込みながら五郎に尋ねる、しかし五郎は口篭ってしまう。

はっきりしない五郎に利家は首を傾げると、視線を前方に戻す。

今の所何かが通った形跡は特に見当たらない、本当にこっちに逃げたのだろうか?利家は半信半疑ながらも走り続ける。


「どこだ、どこに逃げた」


利家は内心焦りながらも、ひたすら林の中を突き進む。




信長は敵を斬り伏せながら、戦況を見る。

拮抗した両軍は未だに崩れる気配はない、伝令から聞いた情報によれば利家が敵の大将を護る馬廻衆を見つけたとの事だが。


「そう易々と見つかるか?」


奇襲によって兵力差を物ともせず拮抗した戦へと運べたのは良かった、だが義元の姿をはっきりと確認出来てはいない。

この戦で重要なのは[今川義元]を討ち取る事、それが必要不可欠なのだ。


「これ以上長引くと困るのだがな」


このまま兵を消耗すれば、それこそ先行している松平軍に押し込まれる事になりかねない。

出来れば迅速に義元を討ち、敵の戦意を奪いたいのである。


「むっ?あれは……利家と五郎か?」


悩む信長は前線に居たはずの利家と五郎が大高方面へ駆け抜けていくのを見つけた。


「あいつら、何をして……」


信長はハッとすると、自分の傍に従えていた馬廻に声を掛けると駆け出す。

(沓掛城へ逃げるのではなく、大高城へ逃げるか!)

もし大高城の松平軍の制圧範囲へ辿り着かれれば、挟み撃ちされる危険もある。


「勝家に伝令を寄越せ!こちらは任せたと!」


護衛の一人を勝家に向わせると、残りを連れて信長も林の中へ飛び込んだ。




勝家は信長が寄越した伝令から言伝を聞くと、頭を抱えた。


「任せたはいいが、もっと自分の立場を考えて貰いたいもんだ」


溜息をつくと、伝令に指示をだす。

戦況は動きが無いが、このまま押せばいずれ今川は崩れるだろう。

既に今川軍の有力武将は討ち取っている、兵達の戦意が失われるのも時間の問題だろう。

後は、総大将である今川義元の存在だけだが……。


「本当に大高へ向けて逃げているのか……」


考えても仕方ないと、頭を振ると、勝家は向ってくる敵を返り討ちにしながら兵の流れを見る。

今川軍の弓兵が多少やっかいではあるが、それも大分数を削る事が出来た。

そのお陰で馬廻衆が前線へと押し上げ、単騎で敵陣に突っ込んでいた利家の援護をする事が出来たのである。


「利家め、この戦が終わったら説教だな」


出陣前にあれ程前に出すぎるなと言っておいたのだ、その結果が先陣をきって突撃するという行動である。

五郎を任せると信長に言われていながら、まさか単騎で突っ込むとは思っていなかった勝家はその報告を受けて頬が引きつったのである。


「やはり、初陣には早かったと思うんだがな……」

「さっさと経験させておいたがいいだろ」

「……可成殿」

「この先厳しい戦になるかもしれないんだ、今の内に戦を味あわせておかんとな」


いつの間にか近くまで来ていた可成は勝家にそう言うと。


「一応、利家も長秀に配慮して抑え気味に突っ込んでたようだぞ」

「抑え気味であれじゃ困るんですよ」

「いいじゃねぇか、若い内は血の気が多いくらいが丁度いいだよ」

「なら可成殿はもう少し大人しくしてくれませんかね?」

「無理だ」

「……」


勝家が白い目を向けるが、可成は気にする様子もなく笑うと前線へ向けて駆け出す。


「もう一暴れしてくる!勝家、余裕が出来たら殿に兵を回せ!頼んだぞ!」


あっという間に見えなくなる可成の背中を見送ると、勝家は細かく指示を出す。


「五郎の奴、ちゃんと生きてるだろうな」


勝家はそう呟いて利家と五郎が駆けて行ったらしい林に視線を向けたのであった。

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