第百二十七章~鬼ごっこ再来~
「はぁっ! はぁっ! 利家、撒けたと思う?」
「ふぅ~……取り敢えずは……な」
「だけど、この感じだとすぐ見つかるよね?」
「近くに気配もあるしな、早く動かないと見つかるだろうな」
「うひぃ~疲れたから少し休憩したいんだけど……」
「そんな悠長な事してられねぇぜ? ってか、まだ竹中は起きねーのかよ」
「いや、もしかしたら起きているのかも……」
「……(びくっ)」
「あっ……」
「ん? どうした?」
「重治殿、諦めて案内して下さい」
「起きてんのか?」
「……どうしても?」
「どうせ見つかったら重治殿も怒られるんですよ? 何とか安藤殿の所へ転がり込んで取り成して貰いましょうよ!」
「……そ、そうですね」
「やべっ! その前に走るぜ!」
「おっと、お出ましか!」
「ま、前田殿! このまま真っ直ぐ駆け抜けて下さい!」
「おいおい、敵が待ち構えてるぜ?」
「大丈夫です! その先は入り組んでいるのでそう多くの兵を配置できない筈、一度撒けば暫く時間が稼げます!」
「分かった! 聞いたな五郎!?」
「おっけー! 頑張って利家を追いかけるよ!」
二人は重治の言葉を信じて目の前に居た数人の兵達へ突撃する、まさかこっちへ向かってくると思っていなかったのだろう。
「おらぁ!」
利家の突撃に『ぎゃあ!』と叫び声を上げて跳ね飛ばされた兵達が床に倒れこむ。
その光景を目の当たりにした五郎は『さ、流石……恐ろしい子!』と思いながら兵達を踏みながら駆け抜ける。
「ぐえっ!」
「ごめんよっ!」
「あぎゃっ!」
「本当にごめんっ!」
申し訳ない気持ちになりながらも踏み越えると、確かに入り組んでそうな廊下が見えてくる。
五郎が追いつくまでゆっくりと駆けていた利家に追いつくと、抱えられている重治が顔を此方に向けて話しかけてきた。
「五郎殿! 前田殿! 取り敢えず奥へ行きましょう!」
「どう行けばいいんだ?」
「分岐に着いたら指示します! なるべく兵に見つからぬよう気配を感じたら教えて下さい!」
「分かった! 行くぜ五郎!」
「お、おう!」
重治が目覚めるまで散々走って足が悲鳴を上げているが、ここでもう一踏ん張りすれば何とか休める筈。
それまでは何とか走りきるしかない!と自身に言い聞かせて足を動かすことにした。
五郎はまだまだ元気が有り余っている利家の背中を必死に追いかけるのであった。
「重虎様!」
「どうしたのです?」
「重治様と前田殿、それと染井殿は入り組んだ廊下に入り込まれたとの報告が」
「入り組んだ? ……なるほど、あそこに逃げ込んだのですね兄上」
「如何なさいましょう?」
「そうですね……出入り口になりそうな場所を見張るよう伝えなさい」
「見張るだけで宜しいので?」
「ええ、兄上の事です……きっと安藤様に会いに行かれる筈。下手に逃げ回られるよりも誘導して一気に攻めます」
「はっ!」
「兄上達が動く時には包囲が完成するよう急ぎます、城内を探している他の者達をすぐ集めて下さい」
「直ちに」
「お願いします」
重虎の命令を受けて兵士は急いで部屋を去る、一人になった重虎はふふふと笑いながら呟いた。
「さて、兄上がどう動くか……」
この世で一番重治を理解しているのは自分だと自信があるのだ、つまり重治がどう動くかは何となく予想できるのである。
きっと安藤様に助けを求めるだろうと予想しているのは間違いない筈、だが既に手は打ってある……後は餌に掛かるのを待つばかりだ。
「兄上達がどんな申し開きをするのか……今から楽しみです」
重虎はきっと罠に掛かるだろうと笑いながら部屋を出た。
「う~ん、おかしい……」
「何がおかしいんだよ?」
「いや、やけにあっさり撒けたな~っと……」
「ふむ」
「単に見失ったんじゃねーのか?」
「そうかな……」
「それよりさっさと安藤殿の所に行こうぜ」
「え~っと何処かに紙と筆が……」
「紙と筆ですか……どれどれ」
「何に使うんだよ?」
「図を描いた方が分かりやすいでしょう?」
「らしいよ?」
「なるほどな!」
「おっ、あったあった……」
「こっちには墨がありましたよ」
「では……」
まっさらな紙に重治がさらさら~っと簡単な図を描く、あっという間に目的である守就が居る可能性が高い部屋までの経路が描かれた。
それは五郎と利家にも分かりやすいようにシンプルに描かれている為、何処をどう通れば良いのか一目瞭然である。
「つまり、此処を出たら……あっちに行けば良いんだな?」
「そういう事ですね」
「でも……もし封鎖されていたらどうするんです?」
「いえ、恐らく重虎もそこまで手が回せないでしょう。それにこの道は狭いので配置されているとしても一人や二人程度しか無理な筈です」
「それ位だったら軽くぶっ飛ばせば良いな!」
「ええ」
「い、良いのかなぁ?」
「後は……此処を抜けて……この分岐を此方に曲がって……」
重治の丁寧な説明が続く事数分、目的の部屋までの経路を確認した三人は顔を見合わせて頷いた。
「全く、ちょっと退屈してただけなのに大変な目に遭ったぜ」
「「それはこっち(此方)の台詞だよ(です)!」」
「うおっ! 二人して叫ぶんじゃねーよ!」
「利家が妙な事言うからでしょ!」
「全くです……こんな事で重虎に叱られるなんて御免蒙りたいものですよ」
「うんうん」
「何だよ、二人してあんな女に怯えてるのかぁ?」
「「…………」」
「な、何だよ! その目は!」
「いや……ねぇ?」
「ええ、重虎に怯えて私達に助けを求めたのは何方だったかと……ねぇ?」
「う、うるせぇ!」
「はいはい、利家が重虎さんに怯えてないのは分かったから早速動こうよ」
「そうですね、前田殿が重虎に弱腰である事は気にせず安藤殿の下に向かいましょう」
「お、お前ら……!」
「ん? どうしたんだい?(笑顔)」
「前田殿、一体どうなされたので?(笑顔)」
「お、覚えていろよっ! 絶対に忘れねぇからなっ!」
「勿論だよ~……ねぇ? 重治殿~」
「そうですねぇ~五郎殿~」
「こ、殺す!」
「おっと、これくらいにしておきますか」
「それが宜しいようですな」
「がるるるる!!」
「利家、悪かったと思ってるからそう威嚇しないでくれよ~」
「悪かったと思うなら最初から言うんじゃねぇ!」
「…………ちょっとからかっただけじゃないか(ぼそり)」
「あん!?」
「まぁまぁ、いつまでも此処が安全とは限らないし……利家も早く安心出来る場所に行きたいでしょ?」
「……あぁ」
「安藤殿が居られる場所なら流石に重虎も迂闊に手を出せないでしょうから、先ずは身の安全を確保すると致しましょう」
「意義無し!」
五郎が重治の言葉に同意している横で利家は若干拗ねた表情で頷いた、色々と言いたい事があるようだが飲み込んだようだ。
まぁ五郎としても騒動の原因は利家なのだから少しは反省して貰いたい。
城下町での騒ぎ、そして今回のような騒ぎも散々自分が注意したのに起きたのである、少しは嫌味も言いたい。
それに信長様に自分達の状況が知れた以上、帰ったらお叱り確定なのだ……きっとその流れで屋敷に帰れば揚羽のお叱りも……。
「あぁ~……嫌だなぁ、重虎さんもそうだけど揚羽も怒ったらおっかないんだよなぁ……」
五郎が一人物憂げな表情をしていると重治が声を掛けてくる。
「五郎殿? 五郎殿!」
「えっ? あ、はい!」
「どうなされたのです? 何か心配事が?」
「ええ、それは沢山……」
「そ、そうですか……それは確かに憂いたくもなるでしょうが、先ずは動きましょう」
「そうですね……」
重治の言葉に頭を振った五郎は先程まで考えていた事を振り払う。
『よしっ!』と頬を叩いて気合を入れた五郎は今か今かとうずうずしている利家に近寄って準備は出来た事を伝える。
利家は重治と五郎を見てから小さく頷くと、先に外の様子を窺って静かに部屋を出て行く。
残された二人も利家からの合図を受けて目的地へ向かって隠密行動に移るのであった。




