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第百九章~嫌な時に限って目覚めは早い~

「あぁ……嫌だなぁ~……行きたくないなぁ~……」


利家が信長に使者の役目を与えられた翌日、五郎は朝早く起きたものの布団の中でゴロゴロと転がってぐずっていた。

こういう日に限って目が冴えて朝早く起きる事になるなんて全く嬉しくない。


「このままゴロゴロと二度寝して、登城しない訳には……」


五郎は暖かい布団に包まれた状態でサボった後の事を想像する。

信長に『忘れるなよ』と念押しされた事を加味すると……。


「駄目だ、首を刎ねられそう……ぬああああ~~~」


どう考えても怒られて済みそうにない、五郎は今日の呼び出しを回避出来無い事を悟って悶え転がる。

ゴロゴロゴロゴロと転がり続けていた五郎だったが、何かにぶつかったような衝撃に布団からにゅっと顔を出す。


「……あっ」

「朝から騒がしいと思えば……何をなさっているのです? ご・ろ・う・ど・の」

「あ、いえ……そのぉ~……」

「いつまでも布団に包まって遊んでいないで、早くお目覚めになったのなら少しは家の手伝いでもして下さい!」

「は、はぃ……すみません……」


どうやら五郎の部屋が騒がしくて様子を見に来ていたらしい揚羽に朝から叱られてしまった。

五郎はいそいそと布団から抜け出すと揚羽の前で正座した。

揚羽は覇気が無い五郎を見て小さく息を吐くと声を掛ける。


「五郎殿、今日は珍しく朝早くに目覚めたのです、私はこれから食事の支度をしますが……五郎殿は何が食べたいですか?」

「え、俺が食べたい物を作ってくれるの?」

「一品だけですよ」

「お、おお! じゃ、じゃあ大根の味噌汁が飲みたいなぁ……」

「……分かりました、それでは食事の支度が出来るまでにその顔をスッキリさせておいて下さい」

「はーい」


揚羽は五郎の返事を聞いてさっさと部屋を出て行ってしまった、揚羽が居なくなった事を部屋の外を覗いて迄確認すると、五郎は部屋の戸を閉じて布団の上にダイブした。


「あぁ、この布団の気持ちよさはたまらんのぉ~」


分かっているのだが布団の誘惑から逃れられずに居ると、部屋の戸がスッと開け放たれる。

五郎が『へっ?』と声を漏らし間抜けな顔を晒していると、部屋の外から揚羽が入ってきて……。


「五郎殿、そういえば聞いておかねばならない事が……」

「…………」

「…………何をなさっているのです?」

「え、えっと……ふ、布団を畳もうかと……」

「ほう、布団を畳むのに何故布団に埋もれる必要があるのですか?」

「そ、それは~……気持ち良さそうだったから?」

「聞いているのはこちらです! 全く!」

「ごごご、ごめんなさい!」

「目を離すとすぐこうなんですから! 早く布団を畳んで付いて来なさい! いいですね!」

「は、はい!」


あと少し、あと少しとだらだらしていた所を見つかった五郎は結局揚羽に監視されながら布団を畳むと、部屋から連行される羽目になるのであった。




「五郎殿、そちらは如何です?」

「うん……良い感じに煮えてると思うよ」

「ならば、次はこちらの葱を刻んで下さい」

「へ~い」


部屋から引きずり出された五郎は揚羽と並んで朝食の支度をしていた。

一応それなりに料理が『出来るように』なったのである、手伝いくらいならお茶の子さいさいだ。

ただ油断出来ないのは火加減である、この世界にガスもIHヒーターもあるわけが無い為、薪をくべながら火力を調節しなければならない。


「火の加減は……大丈夫?」

「ええ、この位なら大丈夫でしょう」


因みに五郎も偶に薪割りをしている、ただ薪割りをした後は腰に蓄積ダメージが残るのが問題点だが。

元々腰が強くないのだ、ぎっくり腰にならないよう注意しているが、薪割り等の仕事を疎かにすると家で自分がやれる貴重な仕事が減るのである。


「え~っと、この位の大きさで良いのかな?」

「……まぁ良いでしょう」

「その間は何? ねぇ、本当に良いの?」

「五郎殿、それよりも次の作業に取り掛かって下さい」

「次? え~っと、次は……」

「旦那様、御手すきでしたら御手伝い頂いても?」

「ちょっと待ってね、揚羽に聞いてから……」

「良いですよ、後は私がしますので五郎殿はそちらで皆の手伝いをして下さい」

「はーい」


あらかたやる事は終わったのだろう、揚羽にこれ以上の手伝いは必要ないようだ。

揚羽の許可も得た事だし、遠慮なく呼ばれた方を手伝うとしよう。

五郎が自分を呼んだ家人の下へ足を運ぶと『こちらです』と案内される。


「で、俺は何をすれば良いのかな?」

「実はこれから山菜を取りに行こうと思いまして」

「え、今から?」

「はい」

「山菜か……」

「あぁ、ご安心を。今の時期ならよく見かける物ですから時間はそれ程掛かりません」

「それならすぐ終わるのかな?」

「はい、それで旦那様にも御手伝い頂ければと思いまして」

「おっけーおっけー」

「きっと山の空気を吸えば旦那様も気分が晴れますよ」

「……三助、俺の心配をしてくれたのかね」

「あ、いえ……どうやら昨日お帰りになってから気分が優れないご様子でしたので……」

「う、うぅ……なんて優しい心を持っているんだ君は」

「旦那様、俺だけじゃなく皆心配しておりましたよ」

「…………俺は良い人達に恵まれているな! くそぅ! 今夜は宴会だ、宴会!」

「旦那様落ち着いて下さい! 奥様に聞かれたら危ないですよ!」

「…………(こくこく)」

「取り敢えず山に向かいましょう、このままではお食事に間に合いませんので」

「よし! 俺に任せておきたまえ!」


二人は和気藹々と籠をからうと山へ向けて屋敷を出発した。

その後姿をこっそり見送った揚羽は『仕方の無い人ですね』と溜息をついたのであった。

あれだけ大声で話していれば聞こえもする、揚羽も昨日城から帰ってきて落ち着きの無い五郎を心配してはいたのだ。


「あの人がああして落ち着きが無い時は碌な事がありません」


いつものほほんとしている夫が慌ててる時は大抵信長様から重要なお役目を頂いてる場合が多い。

きっと今回も大変なお役目を頂いたに違いない、嬉しい反面心配でもあり複雑な心境なのだが。


「せめて荒事で無ければ良いのですが」


まだまだ安心して戦や荒事関連のお役目に送り出せる様な腕ではないのだ、五郎が戦に出る時は顔には出さないが毎日祈るような気持ちで過ごしている。


「あら、そろそろ見に行かなければ……」


あんまり目を離すと折角の料理が台無しになってしまう、揚羽は足早に厨房へと戻るのであった。




「自然は良いね、自然は」


所変わって山に来ている五郎と三助は澄んだ空気を吸いながら山菜を集めていた。


「で、山菜って何を取るの?」

「え~っと、恐らくこの辺りに……あっ! 旦那様、あれをご覧下さい!」

「ん? どれどれ……どれだ……?」

「あちらに枯れた蔓が見えませんか?」

「ん~……見えるような、そうでもないような」

「近くに行きましょう、ささっ!」

「あいよっ」


五郎は三助に連れられて枯れている蔓があるという場所に案内される。


「確かに枯れてるね、これ?」

「ええ、この蔓はヤマノイモの蔓なのです」

「ヤマノイモ? (山芋の事かな……)」

「ここは丁度斜面になっていますのでこの鋤を使って横から掘ってみましょう」

「お、おお……その為の道具だったのか」

「きっと奥様も喜ばれます、手早く掘り出して帰りましょう!」

「はっはっはっ、穴掘りなら任せなさい!」


二人はヤマノイモを掘り当てるべく早速行動を開始した、斜面なので転げ落ちないように気をつけながらの作業である。

暫くの間せっせと注意しながら掘っていると、三助が声を上げた。


「旦那様、流石ですね! 見事当たりのようです!」

「は~っはっはっ、任せなさ~い」

「では注意しながら掘り起こしましょう、結構時間が掛かりましたがもう少しです」

「そうだね、揚羽に怒られそうだったらこのヤマノイモで許してもらおう」


結局それから数十分格闘し、五郎と三助はヤマノイモを屋敷へと持ち帰ったのであった。

勿論、帰った五郎を迎えた揚羽に『何処まで行ったのです? 全く』と怒りはしなかったものの呆れた表情で言われた。

五郎はごめんごめんと謝りながら収穫してきたヤマノイモを見せる、すると揚羽はヤマノイモを三助に運ばせると五郎に言った。


「もうお食事の支度は済んでいますよ、あのヤマノイモは今夜にでも使いましょう」

「楽しみにしておこうかな!」

「五郎殿はさっさと身体を綺麗にして来てください、お食事にしますよ」

「急いで着替えてきます!」


揚羽にこれ以上小言を言われる前に五郎は一目散に部屋へと駆けて行った。

何度目か分からない溜息をついた揚羽はやれやれと頭を振るのであった。

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