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第百三章~勝家の帰還~

藤吉郎と五郎が清洲へ戻って数日後、墨俣城の守備に出発した藤吉郎と入れ替るように勝家が帰ってきた。


「勝家さん! お帰りなさい!」


今日は朝から清洲城に登城していた五郎は、勝家が戻ってくると耳にしてそのまま城に留まっていたのである。

五郎が声を掛けると、信長の居る広間から退室したばかりの勝家は少し驚いた表情を浮かべて五郎に近寄ってきた。


「どうした五郎? まだ城内に居たのか?」

「ええ、勝家さんが戻られると耳にしたので」

「そうだったか」

「藤吉郎の様子はどうでした?」

「む……?」

「いや、気合十分で清洲を出発したので」

「大丈夫だ、俺が連れて帰ってきた兵達も主に負傷した兵達ばかりだ、残った者達はまだまだ士気も高い」

「そうですか……」

「それよりも……五郎、お前は相変わらず暢気にしているな」

「え? あ……ま、まぁ……俺が慌てても仕方ないかなぁと」

「ははは、別に悪いと言ってるのではないぞ」

「あ、あはは……それなら良いんですけど」


五郎が慌てて弁明しようとしたが、その姿を見た勝家はバンッと肩に手を置くと口を開いた。


「それより、お腹が空いたと思わないか?」

「そういえば……俺もお腹が空きました……」

「城下町に飯でも食いに行くか」

「おっ、いいですね! 行きましょう!」


勝家の提案に喜んだ五郎は鼻歌交じりに歩き出す、それを見た勝家は苦笑しながら五郎と供に城を後にした。

城下町でぶらぶらと飯屋を探していると、二人の正面から見たことがある姿が目に入ってくる。

相手も此方に気づいたのか、あっという間に駆け寄ってくると声を掛けてきた。


「勝家さん! 五郎! おいっす!」

「利家じゃないか、こんな朝からどうしたの?」

「どうしたのって……飯だよ飯!」

「あぁ……利家も朝食を食べに来てたのか」

「おうよ! 偶には待ちに食いに来ようと思ってな!」

「なるほどねぇ……それにしても、一人なの?」

「…………」

「…………」

「……なんだよ、悪いのか?」

「い、いや……そんな事は無いんだけど、成政殿とかさ……」

「けっ! 折角朝早くから出向いて誘ってやったのに『朝早くから騒がしいぞ、ワンワン騒ぐのは迷惑だから他所へ行ってくれ』とか言いやがったんだ!」

「あ、あはは」

「一益はまだ帰ってこねぇし、皆付き合いが悪いぜ」

「そういえば……一益はまだ伊勢に?」

「そうなんだよ、一応使いを送ってやり取りはしてるが忙しいらしいぜ」

「そ、そうか……良く考えたら誰かにお使いを頼めばいいのか……」


暇があれば会いに行きたいものだが、今の状況が状況なだけにそんな余裕など無い。

そう思っていたのだが、自分も使いの者を送れば良かった事に利家の言葉から気づくと……。


「まさか利家に気づかされるだなんて……」

「あん?」

「いや、なんでもないよ……なんでも……」

「それより、勝家さんと五郎は何してるんだ?」

「いや、勝家さんが帰ってきた事だし労いも兼ねてご飯でも一緒しようかと思ってね」

「ふむふむ」

「それで何処に行こうかぶらぶらとしてたんだよ」

「なるほどな! つまり俺も一緒に行けって事か!」

「……あ~、うん、そうだね……」

「五郎、そろそろ利家を大人しくさせて食べに行くぞ」

「あ、はい」

「よし! 沢山食うぜぇ……!」

「はいはい、沢山食べていいから大人しくね」


朝から元気な利家を加えて二人は暫く城下町を歩く、利家が『お腹減ったぜー早く飯ー』とぶつぶつ言うのを聞き流しながら探していると、丁度店先に居る女性に気づいた五郎は声を掛けた。


「おっ! 初ちゃん! 今から開けるの?」

「あら、五郎さんじゃない……今日も相変わらずね」

「それは褒められてるのかなぁ……」

「勿論よ、ふふふ」

「いや、ふふふって笑われて言われても……」


五郎とやり取りをする女性が立っているお店は、五郎が丹羽長秀となる前から密かに通っていた店である『閑古鳥』だ。

名前からして繁盛する気が全く無いが、常連客が日中必ず居るので恐らく潰れる事はないだろう。

手頃な値段でボリュームもあるので大分お世話になっているお店である。


「初ちゃん、今から開けるなら入ってもいいかな?」

「はいはい、中に入ったら厨房に声を掛けてね、姉さんはまだ厨房で準備してると思うから」

「分かった、それじゃ失礼するよ~」


初と呼ばれた女性の了解を得た五郎は勝家と利家を連れて中に入る。

五郎は座敷に二人を案内すると厨房へ近づいて声を掛けた。


「春さん~、お~い」

「はいはい! どちら様で……」

「俺だよ! 俺俺!」

「あら……ふふふ、いらっしゃいませ五郎様」

「店を開けたばっかりの所にお邪魔させて貰うよ」

「はい、どうぞごゆっくり」

「取り合えずお茶を三つ貰っていいかな? 俺が自分で運ぶからさ」

「私がお持ちします」

「いいからいいから、春さんの準備が出来たら注文をお願いしたいからさ」

「分かりました、え~っと……お茶を三つ……どうぞこちらです」

「ありがとう! じゃまた後で!」


五郎はお茶を三つ載せたお盆を抱えると二人が待つ座敷に戻る。

二人は五郎が居ない間に品定めをしていたようだ、顔を突き合わせるようにお品書きに目を向けている。


「勝家さん、利家、どうぞお茶です」

「すまんな」

「おう、ありがとよ!」

「注文の品は決まりましたか?」

「この焼き魚定食とやらに俺はしよう」

「俺は……うむぅ、これも気になる……しかしこっちも……」

「勝家さんは焼き魚定食か……俺もそれにしよ」

「五郎はこの店によく来るのか?」

「ええ、安くて量も多くて良く食べに来てます」

「お前が贔屓にしているのならば、教えてくれても良かっただろうに」

「いやぁ……勝家さんや利家を連れて行くには少し勇気が……」

「そういう所だけは妙に気弱な奴だよ、お前は」

「あ、あはは……」

「五郎! これはなんだ!」

「はい? どれどれ……これは…………」

「何だ? この『焼きご飯』とかいうやつ!」

「ふふふ、利家はいい所に気づいたね……それは俺が提案した自信作だよ!」

「!?」


焼きご飯、所謂チャーハンである、要は無性にチャーハンが食いたくなった五郎が頼み込んで作って貰った事が切っ掛けでお品書きに載っているのである。

だが、今の所五郎以外にこの料理を頼む客はほぼ居ない、残念な限りだ。


「一度、食べて見て欲しい。美味しいよ?」

「へぇ~、ならこれにしよう!」

「うんうん、これを機会に広めてくれたら俺が嬉しい」

「美味かったらな!」

「ふ……食べれば分かるさ……」

「おい、二人とも注文が決まったら頼むぞ」

「あ、そうですね」


勝家の言葉に立ち上がろうとした五郎だったが、いつの間にか店内に戻ってきていた初がこちらに歩いてきていた。


「五郎さん、注文は? あの焼きご飯にするの?」

「焼きご飯は頼むけど、生憎今日は俺じゃないんだなぁ~これが」

「えっ? 五郎さん以外に頼む人がいるの?」

「い、いや……稀に居るじゃないか、稀に……」

「食べたお客さんには中々好評なんだけどねぇ」

「もっと広まってくれてもいいと思うんだけど」

「まぁ、いいじゃない。それで、焼きご飯と何を頼むの?」

「えとね~、焼きご飯を一人分と焼き魚定食を二人分お願い」

「はいはい、焼き魚定食と焼きご飯ね。出来たら急いで持ってくるから、ゆっくり待ってて!」

「はーい」


注文を済ませた五郎は二人に向き直る、それからお茶を一口啜るとホッと息を吐いた。

料理が届くまで暇になった三人はお茶を口にしながら雑談をして過ごす事にした、話題は美濃侵攻である。


「それにしても、猿……じゃねぇ、藤吉郎が墨俣に出城を築いちまったもんdなから今頃斉藤軍も慌ててるんじゃねぇか? 攻めるなら今だろ」

「そうだな、だが準備を怠っては逆に返り討ちにある可能性もある」

「そうですねぇ」

「ですが、今までとは状況が違いますぜ? 墨俣城から侵攻できる今なら前のようにやられる筈がないですよ」

「だが、美濃には三人衆と呼ばれる実力者と竹中半兵衛と呼ばれている軍師がいる」

「うんうん、確かに」

「竹中半兵衛ねぇ……どんな策を使ってきても纏めて潰せばいいんじゃないですか?」

「……はぁ」

「あ、あはは……」

「?」


二人は利家の言葉に溜息と苦笑を漏らす、相変わらず利家は猪突猛進な性格をしている。


「全く、もう少し頭を使え、頭を」

「成政みたいな事言わないで下さいよぉ……」

「あ~……目に浮かぶな、その光景」


五郎にはくどくど成政に説教される利家の図が頭にハッキリと浮かべる事が出来る。


「でも、あまり時間を掛けるのは勿体ないですぜ」

「信長様もそれはご承知だろう」

「ふむ」

「安心しろ利家、今日信長様から近々評定を行うと伺っている、その時に存分に意見すればいい」

「本当ですか!」

「ああ、直接信長様から伺っている」

「よっしゃ!」


利家が勝家からの伝えられた情報に喜んでいると、元気な声と共にに料理が届いた。


「おまちどおさま! 焼き魚に焼きご飯! ご飯は大盛りにしといたよ!」

「あ、気を遣って貰ってごめんね」

「いいのよ、いつも五郎さんには贔屓にしてもらってるからね!」

「……今後も贔屓にさせて頂きます」

「お願いね! では、ごゆっくりして下さい~」


にこにこ笑顔で五郎とやり取りを済ませると、初は厨房へと消えて行った。

五郎は料理を各自の前に置くと二人に声を掛ける。


「では、いただきましょうか」

「うむ」

「待ってたぜ!」


三人は手を合わせて合掌すると、雑談を交えながら料理に箸を伸ばすのであった。

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