第百一章~完成!墨俣城~
「お、おお……か、完成してる……!」
「ええ、皆の頑張りでこうして築く事が出来ました!」
「これで信長様も喜んでくれるね!」
「はい!」
「よし、早く報告を……」
「既に早馬を送っています、もう暫くしたら信長様から返事が来ると思います」
「なら、大人しく待った方がいいか……勝家さんも戻って来るようだし」
「敵もこの城を目にしたら一度退くでしょう」
「そうだといいなぁ」
五郎は藤吉郎と完成した城を眺めながら勝家が戻るのを待つ、それまで別の作業を行っていたのだが、藤吉郎が呼んでいると聞き駆けつけたのだ。
築城を始めて約一週間、斉藤軍の出鼻を挫いたお陰もあり思った以上に順調に作業が進んだのである。
「それにしても、本当に10日も掛からずに出来るなんて……」
「皆のお陰ですよ」
「でも、勝家さんが居なかったら大変だったね」
「ええ、あれだけ兵を失っても何度も進軍してきましたからね」
「勢いは無かったけど、俺達だけだったら斉藤軍を押し返すだけでも苦労していたかも」
「恐らくもっと時間が掛かったでしょうね、下手をすれば策が上手く成功しても完成まで持っていたかどうか……」
「辛く苦しい……戦いだった」
「五郎さん、すぐに美濃を取りに行く戦が待ってますよ……」
「……勝家さん、まだかな」
「……まだですね」
藤吉郎に言われて五郎は忘れかけていた美濃への進軍を思い出して気が重くなる。
五郎の記憶に拠れば……信長は確かこう言った筈だ『五郎、稲葉山城を落としに行くときはお前も連れて行く』と。
今回の戦で思い知ったが、重い甲冑を着たままあの山に聳え立つ稲葉山を攻める事を考えるだけで疲れてしまう。
「ね、ねぇ……藤吉郎も美濃へ行くんだよね?」
「それは……信長様のお考え次第でしょう、稲葉山城は堅城として名を轟かせている城、恐らく我が織田家臣の中でも勇猛な者達ばかりお連れになるのでは?」
「お、俺は? とても役に立ちそうにないんだけど……」
「五郎さんは……恐らく信長様が相談役として連れて行かれるのでは?」
「えぇ……」
「その為に俺と五郎さんに井之口の偵察を命じられたのでは?」
「そう言われれば……そうかもしれないけど」
「大丈夫ですよ、五郎さんの実力は信長様も御存知の筈、まさか先鋒など任せることはありませんよ」
「そ、それはそれで複雑だけど……そうだよね、うん」
五郎と藤吉郎が気が早く稲葉山攻略について話していると、いつの間にか戻ってきていた勝家が姿を現した。
「五郎、藤吉郎! 良くやったな!」
「か、勝家さん! 痛い! 力入れすぎですよっ!」
「あ、ありがとうございます」
珍しく褒められて嬉しい五郎だったが、勝家の万力で肩を握られたせいで悲鳴を上げる。
同じように肩を握られている筈の藤吉郎が涼しい顔をしているのが信じられないほど痛い。
勝家は五郎がら指摘されて『すまんすまん』と言いながら力を緩めると、改めて告げた。
「二人とも、良くやった。これで信長様もお喜びになられるだろう」
「勝家さんこそ、色々と助かりました」
「ええ、勝家殿が居なければここまで上手く行かなかったと思います」
「ははは! 俺も斉藤軍には苦汁を舐めされられたからな、思う存分借りを返すことが出来て満足よ!」
「活き活きしてましたもんねぇ……」
「ははは……」
「さて、話はまた後にして、この城は俺が留まっておく、お前達は先に清洲へ戻り信長様に報告をしてくれ」
「勝家さんが残るんですか?」
「当たり前だ、この城の築城を任されたのは藤吉郎だぞ? 俺や五郎が報告してどうする」
「あ~……」
「それに、斉藤軍も俺が居ると分かれば早々攻めては来ないだろう」
「では、五郎さんを連れて一度清洲へ戻ります。勝家殿には自分の兵を預けますのでお好きにお使い下さい」
「任せておけ」
「そ、それじゃ早く支度しよう!」
勝家に墨俣城の守りは任せる事にした五郎と藤吉郎の二人は急いで清洲へと戻る事にした。
藤吉郎の命で正勝や長康を含め川並衆も残してきたので、兵力は十分持つだろう。
「ところで……藤吉郎」
「何です?」
「どうやって帰るの?」
「どうやってって……馬ですよ?」
「や、やっぱり! ね、ねぇ……馬じゃないと駄目?」
「何か問題が……?」
「う、馬に上手く乗れない~なんちゃって……」
「…………」
「ちょ、ちょっと! 無言で馬に乗って出発しようとしないで!」
「妙な事言ってないで、早く行きますよ」
「まだ馬に慣れてなくて……上手く馬を操れないんだ」
「……仕方ありませんね、俺の後ろに乗って下さい」
「い、いいの?」
「その代わり、振り落とされないように気をつけて下さいよ? 飛ばしますから」
「ま、任せたまえ! しがみ付くのは大得意なんだ!」
「行きます!」
五郎が藤吉郎の後ろに飛び乗ってしがみ付くと同時に藤吉郎が馬を走らせる。
すっかりしがみ付きなれた五郎は、流れていく景色を眺める余裕があった。
「いやぁ~……早い早い……」
自分が手綱を握ってはこうも素直に走ってくれないのだ、五郎は清洲まで藤吉郎の後ろで観光気分のまま運ばれるのであった。
その頃、既に早馬から報告を受けていた信長は五郎と藤吉郎の帰りを待っていた。
二人が到着したらすぐに部屋に案内するように伝えてあるし、大役を果たした藤吉郎への褒賞も用意してある。
流石の信長もこんなに早く出城が完成すると思っていなかったのだ、そのお陰で急いで各所へ連絡をする為にバタバタと忙しく動くことになった。
「ふふふ、それにしても藤吉郎め、やるではないか!」
あの勝家や信盛が果たせなかった大役である、藤吉郎の活躍は大きな意味を持つだろう。
後は『墨俣城』を足掛かりにして稲葉山城を落とすだけだ、二人が戻ったら次の行動に移さなければならないだろう。
「若殿! 居るか~!」
「……入れ」
「何だ、居たのか」
「居たのか……ではない! 今日はどうしたのだ!」
「長秀と……え~っと……そうそう! 藤吉郎だったか、上手くやったようだな」
「うむ、今頃戻ってきている所だろう」
「それで、儂の出番はいつだ?」
「そう急かすな、二人が戻ったら皆を集める準備をする」
「勝家抜きでやるのか?」
「いや、藤吉郎には墨俣城の守備頭を任せるつもりだ」
「なるほどな、だが藤吉郎だけで大丈夫なのか?」
「墨俣には川並衆の蜂須賀や前野がまだ留まっている、あの者達には藤吉郎下に与力として仕えてもらうつもりだ」
「そうか、ならば問題ないな」
信長の返答に頷いた可成は脇に抱えていた酒を呷る。
目の前で酒を飲み始めた可成に『またこの男は』と信長は眉を顰めた。
この様子では可成が満足するまで居座る上に、信長にも酒を飲むよう絡んでくるのだ。
「おい、可成……今日は酒には付き合えんぞ! 飲むなら部屋を用意しておるだろう!」
「一人で飲むのも良いが、こんな日は人と飲んだ方が美味いだろう?」
「それなら俺でなくとも良いだろうが!」
「暇そうにしているのが若殿位しか居らんでな!」
「可成! お前は主君に対して無礼過ぎるぞ!」
「かーっかっかっ! 若殿が忙しかったら織田家もお仕舞いだよ!」
「……駄目だ、こやつに何を言っても無駄だ……」
信長の恫喝に全く動じずに飲み続ける可成。
怒るのも馬鹿らしくなった信長は大きく溜息をつく、だが可成は五郎と藤吉郎が帰ってくるまで信長に絡み続けるのであった。
「若殿! 一杯どうだ?」
「いらんわ!!」




