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ヒモになるため合成魔法で理想の合成獣(ヒロイン)を錬成してみた件  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 命をもてあそぼう!編

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第8話 フランandシュタイン

 朝の光は洞窟の入口から斜めに差し込み、床の石を水面のように照らしていた。その光の中に立つゴーレムマンたちは、まるで朝靄(あさもや)の中に現れた無言の彫刻群のようだった。動くはずなのに、どこか現実感がない。夢の中で見る駅のホームみたいな風景だ。


「さて、作業を始めよう」


 俺は指示を出す。掃除、警備、奥に溜まった土砂の撤去。


「そうじ します」

「けいび します」

「つち どけます」


 ゴーレムマンたちは短い言葉で応答し、ゆっくりと動き始めた。その背中を見ていると、なぜか遠い昔に見たベルトコンベア工場の映像を思い出す。人間が機械になり、機械が人間になる場所。世界はいつも境界線の上で曖昧に揺れている。


 やがて作業が進み、広い空間には静けさが戻った。残ったのは、俺とキメラとゴーレムマンAだけだった。


 Aは部屋の隅に立っていた。無表情で、無音で、ただそこに存在している。魔法のキャンディを食べた疑惑のある、元・野盗だ。Aは他のゴーレムマンとは違い、右腕が紅しょうがのように赤い。そのせいか擬人化した牛丼に見えなくもない。


 なぜこうなったのかには二つの説がある。一つはAは唯一魔法が使える野盗だったので他と人体構造が違い、合成失敗した説。もう一つは労働力が増えると思い、俺のテンションが上がり過ぎて合成失敗した説だ。後者でないことを願おう。常識人の俺にあってはならないミスだからだ。


「さて、キミ達二匹には聞きたいことがある。魔法のキャンディについてだ。キメラ、まずどういう物なのか説明してくれ」


 俺は椅子に腰を下ろし、静かに言った。


 キメラは右側だけ長い前髪を少しだけ左に寄せながら視線を()らし、それから淡々と話し始める。


「ここ数年で(ちまた)に流通し始めたアメよ。誰でも魔法が使えるようになる代物。普通、魔法は神具を持つ者か、神具の使い手に与えられた者しか使えない。そのアメは恐らく後者」


 彼女の声は静かだったが言葉の一つ一つはガラス片のように鋭かった。


「作っているのは“魔女フラン”。王立魔法研究所の元・研究員。十五年前、研究所と孤児院を焼き払って逃亡した大罪人よ。理由は公表されていないけど、国家存亡に関わる重要な何かを盗んだって(うわさ)があるの」


 俺は(うなず)いた。物語は、いつも噂という形で世界に広がる。真実は大抵その影の中にいる。


「国を挙げてフランを捜索したけど捕まらなかった。そして数年前から魔法のキャンディを配る魔女が現れたの。国はそれをフランだと断定して、再び賞金をかけて探しているのよ」


 空気が少しだけ重くなった。まるで見えない雨が降り始めたみたいに。


 俺はゴーレムマンAに視線を向ける。


「A。そのアメはどこで手に入れた?」


「きんのくに えるどらど です」


 その言葉が部屋の空気を切り裂いた。


「……エルドラド!?」


 キメラの声が跳ね上がる。


「どこだそれは?」


 俺が聞くと、彼女の顔がさらに(けわ)しくなる。


「はぁ!? そんなのも知らないの!? 燃やされた王立魔法研究所がある場所よ!」


 彼女の感情は急に熱を帯びた。氷山の下から溶岩が噴き出すみたいに。


「フランのやつ、わざわざ戻ってきて悪事を働いてるのよ! 許せない! 殺してやるわ!」


 キメラは出口へ向かおうとした。


 俺はノータイムで合成針を刺す。


「うぐっ……!」


 彼女の身体が石化したように止まる。


「凄いだろう? 片方だけ刺していれば動きを止めることもできる」


「ふざけっ……解放しなさいよ……!」


「落ち着けキメラ。ただの正義感にしては高ぶりすぎだ。理由があるんじゃないか?」


 沈黙。しばらくして彼女は低い声を出す。


「……別に。あんたに話すことなんてない」


「ふむ。では脳みそに直接聞くとしよう」


「ま、待ちなさい! ……話すわよ」


 合成針を抜くと彼女はベッドに腰掛けた。疲れた猫のような姿勢になる。


「……私、エルドラド出身なの。しかも燃えた孤児院で暮らしていたわ」


 声が少し震えている。


「フランは母親みたいな存在だった。孤児たちに分け隔てなく接してくれて、いつも気にかけてくれていたの。お菓子をいつも持ってきてくれてた。私は嫌いだったから食べなかったけど、代わりに人形をくれたわ。ご丁寧に生殖器までついてて、今思えば気持ち悪いけど、その時は喜んでたわ」


 生殖器の話必要か? と思ったが、話の腰を折るほどでもないので無表情を貼り付けた。


 キメラは視線を落としながらも語り続ける。


「でも、事件の起きたあの日は様子がおかしかった。私に何か言ったの。何を言われたかは覚えていない。思い出したくないのかもね」


 暗い顔をするキメラ。


「その後に火事が起きてフランは失踪(しっそう)。私は生き残ったけれど死んだ人もたくさんいたわ。それから私は他国の貴族に引き取られたの。その時は幸せだったけれどフランのことを忘れることはなかったわ」


 キメラは悲嘆(ひたん)嫌悪(けんお)を含んだ瞳で遠い目をする。


「十五年後、大人になった私はわがままを言ってフランを捜しに旅をしていたのだけど、この近辺でヘマをして狼の魔獣に殺されかけて、変人であるあんたに捕まったってわけ」。


「俺に出会ったのだけは幸運だったな」


 キメラは音を出さずに舌打ちの口の形を作って反抗の意を示した。


「最悪だけど、フランを殺すチャンスでもあるからその点では感謝してる」


 紅と銀の視線が俺を射抜く。覚悟を決めた者の瞳だ。


「殺人はやめておけ」


「合成して殺してるあんたが言う?」


「??? 殺していないが」


「はぁ? 人格や体を(いじ)ってるんだから実質殺人でしょ。ていうか止めようとするなんて人の心が少しはあったのね」


 あー、復讐は何も生まない的な話か? そういうことじゃないんだが。まったく、異世界人は常識がなくて困る。


「いいか、殺すとだな——労働力が減る」


「……は?」


「人間は労働力になるまで二十年近くかかり、実に効率の悪い生命体だ。この世界の文化レベルなら最低でも七、八年で働かされることになるだろうが、それでも遅い。となると、気に食わない者を次々に殺していたら世界が回らなくなってしまう。それは俺からすると安定したヒモ生活を送れなくなり非常に困る」。


 俺の完璧な理論を聞いて、キメラは出目金(でめきん)のような表情で口をパクパクさせる。なんだ? もしかして変顔のつもりか? ここは笑うべきか、と思った瞬間。


「ばっっかじゃないの!?」


 止めたと思った目覚まし時計が突然鳴り出したみたいな大声に、さすがの俺も(まゆ)をわずかにピクつかせた。


「ヒモ男を目指す俺にとっては重要な問題だよ。……そうだ! 全人類を全肯定botにすれば、ずっと寝てても許される! 理想の花嫁を創ったらそうしよう! いや、並行して行うべきか!?」


 俺は、パンがなければお前がパンになるんだよ!と言うちょっと邪悪なマリーアントワネットのように満面の笑みを浮かべた。


 キメラは(あき)れた顔で俺を見る。


「……ごめん、言葉が見つからないわ」


 俺は嬉々(きき)として立ち上がった。


「そうなると金策が必要だ。地位、権力、兵力、それらを得るための資金。金の国エルドラド……いかにも金が稼げそうじゃないか。すぐ出立(しゅったつ)するぞ」


 眉間(みけん)を揉むキメラを尻目に準備にかかる。そして俺は数歩進んだところで振り返り、何かを思いついたように手を叩く。漫画なら頭上に電球が浮かんでいただろう。


「ああ、それと、魔女フランも捕まえるか。賞金首だから良い金稼ぎになる」


 俺の白々しい言葉にキメラの瞳のハイライトが強まった気がした。


「あんたといると、自分がおかしいのかと思う」


 少しだけ間を置いて、彼女は小さな声を発する。


「……でも、今だけは感謝するわ」


 その言葉は、部屋の中に静かに落ちて、音もなく消えた。


 まるで水面に落ちた一滴の雨のように。



【第1部 命をもてあそぼう!編】 —終—

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