第45話 魔女フラン戦2・攻防
森の中で対峙するキメラとフラン。その様子は、ゴーレムマンHの首につけたミミックの目を通して俺の網膜に焼き付いている。
「フラン! 顔を貸しなさい! ぶん殴ってやるから!」
キメラが叫びながら踏み込む。銀色の髪が風に踊り、地面が砕けた。ノームの力だ。岩盤を蹴り台にして一気に距離を詰める。
「…………」
フランは無言で避けた。最小限の動き。戦いの最中とは思わせない滑るような回避。直後、キメラの背後に蜘蛛の糸が張られる。ぶ厚いそれは、糸というより綱だ。神の智歯をつけたアラクネが放ったものである。
「……チッ!」
キメラが舌打ちする。ウンディーネの力で水を放出し、糸を押し流すが完全には消えない。絡みつくように彼女の動きを鈍らせる。だがキメラはノームの武器生成の力を使って体中に剣を生やして糸を断ち切った。
フランは相変わらず黙ったまま、アラクネの背中に乗っている。
アラクネが八本足を規則正しく動かして近づく。上に乗るフランは微動だにせず様子をうかがっている。ただ、その口元だけは不気味に歪んでいた。
「ほんっと、ムカつく。ここで殺してやるわ!」
キメラが叫びながら駆けた。
対してアラクネが動く。蜘蛛の糸が何重にも展開される。当たれば拘束、切断、圧縮のどれかだろう。
キメラは歯を食いしばり攻撃に備える。
誰もが血を見ることを覚悟した刹那。
「えんご します タカ!」
ゴーレムマンHが小型の斧をぶん投げた。蜘蛛の糸が乱れる。
「助かるわ!」
その一瞬でキメラは糸の間をくぐり抜けて距離を詰め、風の刃でフランごと真っ二つにしようと試みる。が。
土から出てきた新手の蜘蛛が肉壁となり、彼女の攻撃を防いだ。
蜘蛛の体液が飛び散り地面につくまでの時間に敵の追撃が来る。
キメラは仕方なくといった様子で距離をとった。
「戦い方までムカつくわね。あんたの陰湿さを体現したようで頭が下がるわ」
キメラの皮肉にもフランは反応しない。
そして互いに決定打を欠いたまま睨み合う。
俺はそれを見届けた後に一旦タブレットから視線を外す。
「任せるしかないか」
俺には俺にしかできないことがある。映像を切り替えた。研究所正面。その他の蜘蛛アラクネの第一波が外周の森を抜け、俺の城、いや、実験場に踏み込んできた。
「……さて、上手く行くかな」
ゴーレムマン達はすでに退避させてある。無駄な消耗は避ける主義だ。彼らは貴重な労働力であり資産。
だから代わりに壁が動く。研究所の通路、その側面。
石壁に埋め込まれたそれが目を覚ました。
“殺人鬼の魂”と“木型魔獣トレント”を合成した実験体。名前はない。必要ないからだ。
木の年輪のような模様が刻まれた壁が歪む。そこから無数の目が開眼した。
殺人鬼の魂なので命令は聞かない。だが壁に埋め込むことで行動を制限すればトラップとして使える。
通路を進む蜘蛛の脚が壁の前を通過した瞬間。
木の繊維が槍のように突出して蜘蛛の脚を貫く。同時に壁そのものが肉を噛み砕くように蠢き、蜘蛛の胴体を引きずり込む。断末魔はない。
「ふむ、成功だ」
殺人鬼の殺人衝動を上手く利用したトラップ。近づくものを殺す。自分や仲間も近づけないのが難点だが今は必要ないため最強の罠だ。
感嘆していると、次の罠が起動した。
先ほどのトラップとは別の壁が大口を開くように牙を剥き出しにした。
ミミックを改造したものだ。床と壁に擬態させ、完全に通路として認識させていた個体。蜘蛛が上を通った瞬間、その口が咀嚼を開始する。
歯列が閉じ、甲殻を噛み砕く音が響く。だが蜘蛛もただの獲物ではない。毒液を吐いて内部からミミックを侵食しようとする。
「……ふむ、少し相性が悪いな」
その罠達を突破した蜘蛛が広間に差し掛かる。
音に反応して広間中央にいる植物のツルの生えた鎧が目を覚ました。“羊植物型魔獣バロメッツ”と“鎧型魔獣リビングアーマー”を合成した個体だ。
バロメッツの羊部分を鎧に変えたことで戦闘特化の個体にした。排他的なバロメッツは誰か近づくと攻撃するのだが、逆に言えば近づかなければほぼ無害であり、罠に最適だった。しかもツルが千切れたら一定時間で壊れるようにしたので研究所を徘徊することもなく、これまたトラップとして優秀なのである。
鎧達が蜘蛛の軍団と衝突する。鎧達は枝をツルに変えたことで柔軟に移動できるので地に足をつけて敵を上手く捌けている。
「ククク、素晴らしい。全て成功だ」
順調ではあるが、うかうかしていられない。数が多い。罠は強力だが無敵ではないし、アラクネ達は学習する。いずれ犠牲を前提に突破口を探してくるだろう。
思考を巡らせていると、蜘蛛達の第一波がおさまった。
「さて、今しかないな」
第二研究室。神具・口寄せの門がある場所。俺は解剖台に寝かせている女の人形の前へ立つ。
ここが最大の山場だ。
俺は二本の合成針を構えた。




