第34話 今後の方針
金の国エルドラドの北西。金の匂いが薄まり、岩と風が正直になるあたりに俺の家がある。正確には家というより洞窟をそれらしく改装した研究所だ。門札も看板もないが故郷と呼ぶには充分である。
「おかえり なさいませ しゅたいん せんせい と きめら さん」
入口で元野盗のゴーレムマンが律儀に頭を下げた。石の関節が擦れる音は妙に懐かしい。
「留守中の異常は?」
「まじゅうが しんにゅうを こころみて きましたが せんめつ しておき ました」
「素晴らしい。先生は優秀な生徒を持てて幸せ者だ」
「えへ えへへ」
ゴーレムマンが照れたように後頭部をさする。
従順なモルモットは本当に愛おしいな。
一方で反抗的な銀色ネズミのキメラは、俺のお涙頂戴な茶番をみて、北風のように大きなため息を吐いていた。夏にはクーラーとして使えそうだな。
研究所の中に入ると、床は磨かれ、薬瓶は背筋を伸ばして並び、作業台は余計な感情を残さず拭き上げられていた。
「びっくりするくらい綺麗ね」
キメラが銀髪ロングポニーテールを揺らしながら発言した。俺のあげたピンクのリボンが映えていて美しさに磨きがかかっている。
「研究所は清潔が一番だ。感情は汚れていてもな」
「自覚はあるのね」
「キミのだよ」
「あんたよりは綺麗よ」
おしどり夫婦な会話を交わしながら部屋に戻って荷を下ろす。上着をフックに掛けて、“ツギハギ”だらけの自身の体を視界に入れつつ、椅子に腰を落とす。
「今後どうするの? あんたの話だと魔女フランが目を血走らせながら遊びに来るらしいけど……」
彼女が銀と赤の瞳を泳がせてソワソワしている。孤児院を焼かれたという因縁がある以上は気になるのも仕方ない。
「魔法兵を大量に創る計画の邪魔をされたからな、今後も障害になり得る俺達を是が非でも殺しにくるだろう。気長に待とうじゃないか」
「まさか無策で挑む気?」
「いや、この研究所を強化する。邪魔が入らないように要塞にしよう」
「資金は潤沢だから簡単そうね」
キメラは眉をひそめながら、手のひらに金貨もどきを生成した。金を生む魔獣マッピングアリを合成したのでできる離れ技だ。
「無限に手に入るとはいえ換金が面倒だ。一度に大量に変えれば目をつけられる」
「人間社会って面倒ね」
「いずれ引き篭もれるからそれまで我慢だ」
「それも最悪だけど」
文句の多い嫁だな。
「話を戻すが、フランがどういう策を練ってくるか分からないし、拠点放棄も視野に入れておこう」
「あんたと逃避行は勘弁願いたいわ」
「駆け落ちみたいで胸が躍らないか?」
「悪趣味。そんな浪漫を語る人間じゃないでしょ」
「望むならいつでも語るけどな。キミにはずっと笑顔でいて欲しいからね」
「相変わらず胡散臭さだけは一流よね」
褒め言葉として受け取っておこう。
俺は、細工をしていたのがバレたイカサマ師のようにお茶目な顔を浮かべた。
「他に質問は?」
「ふかふかの一人用ベッドが欲しい。かわいい服も。部屋もあんたと別にして」
「贅沢な嫁だな」
「少しぐらいいいじゃない。あ、嫁じゃないけどね」
「いずれは火を吐ける嫁にするぞ。そうすればいったん理想の嫁の完成だ。家事は……保留だな」
「家事くらいやろうと思えば出来るけれど」
シャドーボクシングをするキメラ。
まな板で元気に飛び跳ねる鯉みたいで愛おしい。
「とにかく行動だ。要塞を作るために条件が合致する魔獣を探すぞ」
設計図は頭の中にある。足りないのは部品だけだ。
「何の魔獣?」
「まずは鳥のような飛べる個体だ。なんなら普通の鳥でもいい。キミに合成した鷹をまた捕獲するか。偵察、哨戒、探索と用途が広いからな」
「まさかまた私に合成する気じゃないでしょうね?」
「キミに着けるなら天使の翼がいい。だから安心しろ、それっぽいのが見つかるまで合成しない」
「悪魔のようなあんたが言うと滑稽だわ」
俺は返答せずに鼻で笑って外套を羽織る。
研究所は静かに息を潜めて次の実験を待っている。まずは空から始めよう。




