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ヒモになるため合成魔法で理想の合成獣(ヒロイン)を錬成してみた件  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2部 金策編

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第29話 カーバンクル狩り5・魔女フラン

 地下水道を抜けた先の広間には、研究者としては夢のような世界が広がっていた。


 鎖。人間。魔獣。子供。老人。まとめて地下展示即売会。しかも主催者は、よりにもよって。


「コボルド商会長に会えるとはね。随分(ずいぶん)陰気(いんき)な応接室ですが、ここは何をする場なんですか?」


 皮肉は健康にいい。そう信じて俺は軽く肩をすくめた。


「……見ての通りだよ。奴隷(どれい)を管理しているのだ」


 コボルドは疲れた犬みたいな顔で、だがどこか誇らしげに発した。


 俺が二の句を()ごうとした瞬間。


「嘘だ!」


 (くさり)に繋がれた男が叫んだ。声が裏返り、必死さが生々しい。


「コイツは魔女フランの手先だ! 俺達を監禁して魔法の菓子を食べさせる実験をしてるんだ!」


 ……ああ。やっぱりそういう方向か。俺の直感は無駄に当たる。


「黙れ!」


 コボルドが足元の石を拾って投げた。軽く、雑に。


 (にぶ)い音。男の頭が潰れた。スイカ以下の耐久力にみえた。


 静寂(せいじゃく)。俺は一拍置いて感想を述べる。


「その腕力……あんたもアメを食べたのか?」


 コボルドの口元が(ゆが)む。


「……ふはは! そうだとも!」


 笑い声が地下に反響する。実に楽しそうだ。人を殺した直後とは思えないテンションである。


「おかげで魔法が使えるようになった。力も、活力も、視野も広がったよ」


「なるほど。だが不思議だな。あんたほどの財力があれば魔法なんて不要だろう?」


 俺は首を(かし)げた。


「人間とは欲深い生き物でね。富、名声、地位。それを手に入れた者は、次に“力”を欲しがる。私はずっと神具を探していたのだ。だが、どれだけ待っても神は私を選ばなかった」


「神様も人を見る目があるらしいな」


 俺の皮肉を受け流して、コボルドは演説口調のまま話し続ける。


「そんな時だ。フランが現れた」


 魔女フラン。名前が出た瞬間にキメラの空気が変わる。殺気が温度として感じられる。


「フランから与えられた魔法の菓子。見た目はただのパイだった。もちろん胡散臭(うさんくさ)いと思ったが……使用人を実験に使い、実際に魔法を使用するのを目の当たりにした。だから私も怖気(おぞけ)を感じていたが食べることにしたのだ」


 アメ以外もあったのか。それとも中に仕込んだか。


 コボルドは陶酔(とうすい)した目で語り続ける。


「その瞬間に世界が一変(いっぺん)した。若き日の自分を思い出すどころか、それを凌駕(りょうが)する力が全身に(みなぎ)った。言葉では形容しがたい万能感。どんな願いであろうと、いとも容易(たやす)く叶えられる、本気でそう思った。ゆえに私はフランの野望に手を貸すことにしたのだ」


「野望?」


「魔法兵を創り、魔獣を殲滅(せんめつ)することだ。国の発展、いや世界の進化を阻害(そがい)する最大の異物、それが魔獣だ。連中は理不尽に湧き、人類の(いとな)みを踏みにじる。あれを一掃できるなら、それは祝福に等しいとは思わないかね?」


 壮大(そうだい)だ。が、どこかきな臭い。


「隠れてやる理由は? 菓子を食べるだけで魔法が使えるなら堂々とやった方が賛同者も支援者も集まるだろう?」


 一瞬コボルドは言葉に詰まった。


目敏(めざと)いな……悪いが貴様に語ることはもうない」


「悪党の癖に種明かしを最後までしないとは、つまらない。だが、見当はついている。……もう後戻りできないんだろう?」


「…………」


 沈黙、か。言語化しないとは児戯(じぎ)にも(おと)るつまらなさだ。


 俺はゆっくりと肩を回した。


「商売人が語れなくなったら終わりだ。出入口を教えてくれ。このことは内密にしておくから安心していい」


 ま、嘘だけどな。


「……そうか。案内しよう」


 コボルドが何事もなかったように笑う。さすが歴戦の商売人。猿芝居が上手い。


 俺は密かに(そで)の中から合成針を出して指に挟んだ。


 一瞬の間。


「誰!」


 いきなりキメラが叫んだ。


 コボルドの動きに警戒しつつ振り返ると、俺達が出てきた地下水道の出入口にフードの人影。鷲鼻(わしばな)がわずかに見える。


「フラン! 待っていたぞ!」


 コボルドが嬉々(きき)として叫んだ。


「フランですって……!」


 キメラの声が刃になる。


「やっと見つけたわ! 殺してやる!!」


 飛びかかるキメラ。だがフランは杖を地面に叩きつけて砂煙を巻き上げた。


「油断したな! 死ね! シュタイン!」


 俺の背後のコボルドが()える。


「バカだな。声を出したら意味がないだろう」


 俺は振り返らずに合成針を投げる。ダーツの矢が刺さったような軽い音。


 見ると、しっかりと頭部に命中していた。


「な、こ、れは……!?」


 コボルドの動きが止まる。合成針は片方だけ刺すと動けなくなる。以前にも使ったがちょっとした裏技だ。だが。


「シュタイン! そっちにフランが!」


 視線を移すと、砂煙を引きながらフランが(せま)っていた。


「チッ!」


 俺は咄嗟(とっさ)に転がって回避。その瞬間に(にぶ)い音。


「ぐげっ」


 コボルドの頭がフランの杖で潰された。


 糸の切れた人形のように後ろへ倒れるコボルド。フランはそれを確認もせず、フードをはためかせながら出入口へ走る。


「待て!」


 キメラが銀線を描きながら追う。


 俺は即座にコボルドへ合成針を刺し、もう一方を(くさり)の男の死体へ。合成だ。しかし。


「……くそ」


 すでに魂がない。遅かった。合成魔法は死んだものの魂を呼び戻すことはできない。


 仕方なく合成針を回収し、キメラを追って走り出した。

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