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ヒモになるため合成魔法で理想の合成獣(ヒロイン)を錬成してみた件  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2部 金策編

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第26話 カーバンクル狩り2・リビングアーマー

 坑道の奥へ進む四人の足音は、まるで心臓の鼓動みたいに規則正しく無遠慮(ぶえんりょ)だった。仲間の死体を一つ通過した後の沈黙というのは湿った布で耳を(ふさ)がれたように重い。普通なら。


 だが、その重さを鼻歌で粉砕する女がいた。


 キメラだ。彼女は先頭に立ち、まるで散歩道でも歩くかのように軽やかな鼻歌を坑道の壁に反射させている。その音は鉱石に染み込み、反響して場違いな明るさを増幅させていた。


「人が死んだのに楽しそうだな」


 俺が肉の絨毯(じゅうたん)くらい平坦な声で言うと、彼女は振り返りもせずに肩をすくめた。


「しつこいわね。切り替えも大事なのよ」


 死を過去形に変換する能力。ある意味で最強の防御魔法だ。


 後ろからルエガが、ひそひそ声で割って入る。


「仲が良さそうで(うらや)ましいよ。でも静かにしないとカーバンクルちゃんが逃げちゃうかもねぇ」


 キメラは少し考えるように歩調を落とし、首だけをこちらに向けた。


「そうかしら? 今まで捕まえられていないってことは血眼(ちまなこ)になって探すより、リラックスしてる方が油断して出てくるかもしれないわ」


 理屈としては意外と筋が通っている。獲物は殺気を嗅ぐ。


 直後。


「……あ!」


 キメラの声が跳ねた。


 視線の先、闇の中で赤い妖光(ようこう)が糸を引く。(ひたい)にルビー色の宝石が埋め込まれている魔獣——カーバンクルが岩陰からこちらを見ていた。右頬(みぎほほ)に一本、引っかき傷のような縦線。


「わお、ホントに出てきやがった」


 ルエガが感心したように明るい声を出した。


「チチチ」


 カーバンクルは点火前のコンロみたいに一鳴きして逃げた。


「待ちなさい!」


 キメラが飛び出す。


 俺達も追う。理性も恐怖も置き去りにして、ただ角を曲がり、影を踏み、坑道を駆けた。


 いくつか曲がった先で風船が割れたかのごとく空気が裂ける。


「うわあああああ!!」


 男の悲鳴。残響をたどるように行き先にあった広間へ飛び込んだ、瞬間。俺は光景を理解するのに一拍遅れた。


 広間中央に全身鎧の人間がいた。いや、人ではなく鎧そのものが生きている。そいつの剣が男の腹を(つらぬ)いていた。床には既に三つ、命の抜け(がら)


「……あれは、リビングアーマーか!?」


 ルエガの声が緊張を(はら)む。


「魔獣、でいいのか?」


 俺の問いにルエガは静かに(うなず)く。


「ああ。この辺りにはいないはずなんだが……まぁ、魔獣は暗闇があればどこにでも湧くし、決めつけは良くないかねぇ」


 リビングアーマーは剣を引き抜き、次の獲物を見定めた。視線がこちらに固定される。


 突撃してきた。鎧が地面を蹴る音は墓石を引きずるように重い。


「ふむ」


 俺は反射的に棒手裏剣を投げた。


 鉄の棒は空を裂いたが剣に(はじ)かれて床に転がる。それでも足は止まった。


「へぇ、面白い武器を使うね。なんだいそれは?」


「棒手裏剣だ。俺のいた国にあったものだよ」


 合成針は使えない。神具持ちだと知れれば狩られる側に回る。ここは合成魔法使いとしてではなく、ちょっと手裏剣を投げるのが上手い忍者を装う場面だ。にんにん。


 俺はキメラにアイコンタクトを送る。彼女は鼻で笑って返事をした。どうやら通じたようだ。


「私が引きつけるからルエガは隙を見て石にしちゃいなさい!」


「了解理解ッと」


 キメラが前に出る。その動きは猛獣というより舞踏家だ。蹴りが鎧を叩くたび、金属音が火花のように散る。リビングアーマーは翻弄(ほんろう)されて重心を見失う。


 その隙をルエガは逃さなかった。


「さぁ(きん)になる時間だぜッ!」


 右手が光り、世界が一瞬、銀色に凍る。白と黒の絵の具をパレットの上で混ぜるように敵の形が(ゆが)む。


 パレットを水で洗い流す程度の時間が過ぎると、リビングアーマーはそのまま石になっていた。


 ルエガが金色の石を手のひらで(もてあそ)びながら息を吐く。


「ふぅー、ちょいと危なかったねぇ。でもキメラちゃんのおかげで助かったよ。……ただ、その身体能力の高さ、まさか——フランのお菓子を食べてないよねぇ?」


 探るような目。鋭い。伊達(だて)に神具使いではないか。


 もちろんキメラはアメを食べていない。だが、俺の合成魔法で身体を強化しているのは事実だ。ここで俺が口を挟めば火に油だろう。キメラに任せることにする。


「そんなわけないでしょ」


 彼女は万能感に(あふ)れたペンギンのように胸を張った。


「私は“ツンデレ一族”だから、身体能力が高いのよ」


 ……は?


 俺とあろうものが危うく噴き出すところだった。日頃、俺が使っている単語をここで即興設定に昇華させるとはな。詐欺師としても一流だ。


 その効果は抜群だった。ルエガが味の染みていないおでんの大根みたいに目を丸くする。


「ツンデレ一族……? なんとなくだが凄く(とが)っていそうだ。キメラちゃんみたいな神秘的な女性が多いのかい?」


 キメラは一歩前に出て踊り子のようにくるりと回る。


「ひ・み・つ」


 妖艶(ようえん)な笑み。


 胸がほんの少しだけ跳ねた。まるで気になる女の子が食人鬼だった時のようなトキメキだ。こんなことで高ぶるとは、なんたる不覚。


 恐るべし、ツンデレ一族。

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