第11話 金の国エルドラド2・斡旋所
職業斡旋所の扉を開けると鐘の音が鳴り、こちらに気付いたタヌキ顔の受付嬢らしき人物がにこやかに笑う。
「ようこそ! エルドラド職業斡旋所へ!」
笑顔が眩しい。愛嬌がある女はいいな。素材にして合成したいが、流石に看板娘が消えたら騒ぎになるだろうし、今は諦めて頭の片隅に置いておこう。
受付の横にある掲示板には賞金首が並んでいた。人相書きというより、死亡フラグ集だ。ふと、新しめの紙に描かれた燃え盛るような鳥の絵が目に入る。
視線に気付いたのか、受付嬢が仕事熱心に説明してくる。
「最近、炎の魔獣の噂がありまして。十日ほど前、北の村が大火に見舞われたんですけど、その時に目撃されたのが炎の魔獣なんです。鳥の形をしていたとかなんとか。生死を問わず捕まえていただけたら褒賞金が出ますよ」
「ほう、その魔獣……ホシイ!」
思わず声が弾んだ。火を吹く魔獣。俺の思い描く理想の花嫁に必須装備だ。
「……ばっかじゃないの。火なんて吐きたくないわ」
キメラはもう合成される気でいる。俺の思考を読むとはさすが俺の嫁だな。
「それより受付嬢さん、何かオススメの仕事はないかしら?」
キメラが透明な猫を何枚も被ったスマイルと猫撫で声で問いかけた。
「ありますよー! まず最近追加された賞金首に“カーバンクル”という魔獣がいるんですけど、これがなんとですねー、額に宝石が埋まっているんです! その宝石を持ち帰るだけで家が買えるだけの報酬がもらえるのです!」
家が買える。凄いな。が、簡単に手に入るものではないだろう。
「へぇ、悪くなさそうね。どこに居るかはわかっているの?」
「エルドラド上級坑道で目撃されています!」
「そこって誰でも入れるやつかしら?」
「すみません! 無理です! 入るには王様か、鉱山管理者のコボルド商会長さんの紹介状が必要です!」
キメラの被った猫がライオンに変わりかける気配を感じたが、どうにか抑え込んでいる。
「はぁ、それは簡単に貰えるもの?」
「いいえ! 信用のあるものにしか渡されません!」
「はぁ? じゃあなんで言ったの?」
キメラの眉が吊り上がる。雷雲形成中だ。
「あなた達なら信頼を勝ち取れるような気がしたんです。わたし、受付を長年やっているので大成しやすい人を結構見抜けるんですよ」
「そう、お世辞ではないと思っておくわ。他に新参者でもすぐ出来そうな仕事はないかしら?」
「でしたら、露店市で何か物を売るか、初級坑道で魔獣狩りですね。どちらも大金を稼ぐのは難しいですけど」
キメラがこちらを見る。
「だってさ。どうする?」
「ふむ、金自体はどうなっている? 採掘できないのか?」
受付嬢は少し困った顔をした。檻に捕獲されて先行き不安なアライグマみたいで愛らしい。
「採掘はできますけど、道具代と入山税がかかります。それに素人が掘っても石しか出ないことがほとんどで……大きな声では言えないですけど、もう掘り尽くされて人の手で届くところにはもう無いとか」
「なるほど」
すでにレッドオーシャンというわけか。ゴールドラッシュの末期ともいえる。無知では搾取される側に回るのみだろう。
俺はキメラの腕を引いて受付から離れる。受付嬢が他の客の応対を始めたのを見て俺はキメラに話しかける。
「すぐに大金を稼げそうもないし、宿をとって下級坑道とやらに行ってみるか。有益な魔獣がいるかも知れないしな。時間が余れば国もまわりたい」
「もっと受付の人に情報を聞かないの?」
「ここは人の出入りが激しいからな、あまり長居して俺達の情報を与えたくない。初対面でべらべらと情報を喋る女だし、俺達のこともすぐに広まる可能性が高い」
「うーん、警戒しすぎじゃない?」
「こういうところから足を掬われる。情報の管理は重要だ。大金を稼ぐためだけでなく、魔女フランを捜すためにもな」
「フランを? 関係あるの?」
「当然フランは捕まりたくないから、探っている奴が多くなれば警戒を強めて雲隠れするだろう。そうなると、かなり回り道になる」
「なるほど。今更感はあるけどね。誰もが探しているし」
「ともかく行くぞ。まずは宿だ。いいとこ知らないか?」
「うーん、まだ経営してるか分からないけど、いくつか知ってるわ。予算はどれくらい?」
「……いや、キミが払ってくれるんじゃないのか?」
「え、私、お金持ってないけど……あんたが管理してたんじゃないの?」
そういえばキメラを拾った時に荷物はなかった。狼魔獣が食料と共に持ち去ったのかも知れない。
「一枚ぐらい硬貨を持ってないか?」
キメラはユキウサギのようにその場でピョンピョン跳ねた。
「どう? あなたの贈り物の音は一つでもしたかしら?」
嫌味の言い方が上手くなってきたな。順調に似たもの夫婦になっているようだ。それよりも。
「ふむ、詰み、か」
「ど、どうすんのよぉ!」
「野宿すればいい。キミの膝枕があれば安眠できるだろう」
「死ね!」
こうして俺達の旅は終わった。




