居場所を求めて 2
「邪魔してごめんなさい!」
相手が貴族なら、平民は理由がなくても切り捨てられてしまうこともあるって聞いたことがある気がする。
どっちの世界でか分かんないけど。
草の丈が高めだったから、土下座じゃなくて腰を90度に折るお辞儀をしたまま、何事もなく馬車が走り去ってくれるのを待った。
(……なんで動かないの?これ、殺されちゃうパターン?)
馬車から誰かが降りてきて、歩いている音が聞こえてくる。
(嘘っ……本当に殺されちゃうの?)
足音は止まることなく近付いて来て、私のすぐ前で止まった。
大きな靴が見える。
大人の男の人だ。
「ああ、やっぱりアリーちゃんだ!」
(アリーちゃん?え?私のこと?アリサの愛称?……違う。アリサは前世の名前だよ。この世界の私の名前がアリー?記憶を失う前の知り合い?)
私は思わず顔を上げて声の主を見た。
(見覚えがあるような、ないような?)
声の主は、濃茶色の髪に白髪の目立つ、茶色い目の恰幅のいいおじさんだった。
服装はたぶんこの世界の平民としては普通の恰好だと思うけど、モノがよさそう。
シャツが生成り色で他は全部茶系。
靴も茶系。
「村で聞きました。大変でしたね。徒歩で村を後にしたと聞いて、追いつけるかもしれないとこちらに来て正解でした。おじさんも王都に行くので馬車に乗ってください。一緒に王都まで行きましょう」
「え……っと?」
私がおじさんの申し出に戸惑っていると、おじさんの顔が見る見る痛ましいものを見るような歪んだ表情になってしまった。
「もしかしておじさんのことが分からないのですか?何度もアリーちゃんの手作りの小物を食べ物と交換してもらった、行商のおじさんですよ?」
なんでか分からないけど、おじさんが泣き出しそうだ。
「ごめんなさい……あの、家族が亡くなったショックのせいか、記憶が欠落してしまったみたくて……」
おじさんは私の言葉が衝撃的だったみたいで、黙り込んでしまった。
「……少しここで待っていてくれますか。馬車にアリーちゃんの作った小物がいくつかあるので持ってきます。それに見覚えがあったら、おじさんにアリーちゃんを王都まで送らせてください」
人好きのするおじさんは私に無理強いすることなく、自分が私の知り合いであることを証明する手段を探すことにしたようだ。
私が頷くと、おじさんは馬車の幌付荷台に入っていって、すぐに戻ってきた。
そんなに急いで走らなくてもいいのに。
おじさんが手にしている籠には、巾着やパッチワーク風の布が山盛りに入っていた。
全部見覚えがあった。
「私の編んだ籠と縫った小物だ」
「覚えててよかった。気に入ったので自分で使っているんですよ」
おじさんは心の底からほっとしたように笑った。
小物たちが使われた様子はまったくないけど、大切にしてくれてるのは感じられた。
今見ると子どもの力のない小さな手で編んだ籠は不格好だし、小物の出来は良くても材料が酷い。
よくこんなものと食べ物を交換してくれたものだ。
ただの善意だったのか、お父さんかお母さんが後から食べ物の代金を払っていたのか。
「ありがとうございます」
おじさんの過去の厚意にお礼を言った。
おじさんから貰った食べ物は、普段食べているものと比べると格段に美味しかった……気がする。
覚えてることは多くないけど、味覚の記憶は私が忘れていても体が覚えているみたいだ。
突然の口の中の変化に、思わず両手で口を押える。
「いえいえ、本当に気に入っているんですよ。新品の材料で作れば立派な売り物になるのになぁっていつも眺めているんですよ。そうだ。王都に行ったらおじさんが材料を提供しますから、おじさんの店で売る小物を作ってみませんか?生活するのに十分なお金が稼げますよ」
「え?!」
罠かと思うほど、今の私には都合が良過ぎる話だった。
でもこの人から嫌な感じはしない。
気のせいかもしれないけど、こんな子どもに礼儀正しく接してくれてる。
胡散臭さも感じない。
何も持たないたった10歳の子どもの私は、きっと、これからずっと、一人で生きていかなければならないだろう。
これは最初で最後のチャンスかもしれない。
詳しい話を聞くために、私はおじさんの馬車に乗せてもらうことにした。




