ハンター試験に向けて①
「ユイ、昨日はありがとな」
昼飯を終え、王都に戻ってからは、ユイに商業区にある店を色々と案内してもらい、オススメや気を付けた方がいい所などを教えてもらった。
夕方には学院に戻り、一緒に寮の夕食を摂り、解散。
一晩明けて翌日の朝食時に再度顔を合わせる。
「気にするな。私もいい気分転換になった。これが昨日約束していた教本だ。これの中身が理解できればそれなりの結果は出せるだろう」
朝食を摂る前に、彼女から使い込まれた様子の本を受け取った。
皮の装丁だが、かなり使い込まれているようで、かなり擦れた後が目立つ。
「だいぶ使い込まれてんな」
「私の中古で悪いが、中身はしっかりしてるから安心してくれ」
「それについては心配してねーよ。やっぱこういうのって持ち主の性格が出るなと思っただけだ」
きっと、駆け出しの頃は毎日のように繰り返しこの教本を読んだのだろう。
彼女の真面目さを考えると、ある程度のランクになっても慢心しないように小まめに読み返すくらいしてそうだ。
「……私はそんなにわかりやすいか?」
俺の反応に、ユイは困ったように眉を寄せた。
もしかして、自分の事ポーカーフェイスだと思っていらっしゃる?
「俺からすりゃユイほどわかりやすい相手もそういないぜ?」
「そうか……私はわかりやすいのか……」
ず~ん、と効果音がしそうなくらい項垂れるユイ。
そんなにわかりやすいって言われるの嫌なのか?
「俺は裏表が無くて付き合いやすいからいいけどな。変に腹の探り合いとかしなくていいし」
ポーカーフェイスで腹の中で何考えてるかわからんヤツは面倒だから好きじゃない。
一応、シオンもそれ系統だけど、あいつは付き合いがバカほど長いから例外。
「……そう言ってもらえるとありがたいが、わかりやすいというのは貴族としては赤点なんだ」
俺の本音を聞いて少しだけ気分が持ち直した様子のユイだったが、やはりその表情は暗い。
まあ、貴族は常に笑顔で何かを隠すイメージはあるわな。
そして、それをユイができるかと言われれば……悪いけど無理そう。
「ま、そこは俺じゃ力になれんけど、ランクが決まったら稼ぎの足しにはなるだろうぜ」
「そうだな。そこはアテにさせてもらうとしよう」
その後もユイと適当に話しながら朝食を終え、食器を返したらユイと別れて俺はティナとの訓練場所へ向かう。
一応昨日は休みって話だったけど、今日は訓練でいいんだよな?
そんな疑問を感じつつも、行ってみればわかるだろうと勝手に納得し、俺は建物の扉を開く。
「あ、いた」
「おはようカイト。ふぁ……昨日はなかなか片付かなかったから、ちょっと眠いや」
ティナは所定の場所にいたが、俺に会うなり欠伸を漏らして目をしょぼしょぼさせている。
いつもキリッとしてるのに、今日は珍しいな。
「ティナがしんどいなら、俺は今日も休みでいいけど?」
一応勉強もしないといけないしな。
本当はやりたくねーけど。
「……うん? それってハンター試験の教本?」
目をしょぼしょぼさせていたティナだったが、俺が手にハンター試験の教本を持っているのを発見して、目を丸くする。
「なんだかんだで金を稼ぐ手段は多い方がいいと思ってな。一応、自分たちで生計を立てる努力くらいはすべきかなって」
「なるほど……確かに、悪くない。もうちょっと基礎を覚えたら、外の魔物で実戦させるのがちょうどいいかも」
今後の展望を思い付いたのか、ティナの目がいつもの感じに戻った。
俺を鍛える時の、鬼教官の顔だ。
「よし、今日から実技と座学を半々にしようか。試験はいつの予定?」
「昨日1週間後って言われたから、あと6日じゃねえかな?」
あと6日と考えると、結構日数が無いかもしれない。
幸いにして、教本はそこまで分厚いものではないが、俺の残念なおつむではどこまで頭に入るか怪しいものだ。
「あと6日ね。まあ、何とかするよ。相当詰め込みになるけどね」
「お手柔らかに頼むぜ?」
ギラリとティナの目が光る。
一応、お手柔らかに、なんて言ってはみたものの、ティナが手加減してくれそうな雰囲気は欠片も感じられない。
「そこはカイトの覚え次第かな。ほら、それじゃ始めるよ」
それからというもの、午前中はハンター試験の座学。
午後は基礎の訓練というメニューをひたすらこなす事になった。
なお、ティナは勉強を教えるのも上手く、俺の残念なおつむでも何とかついていけたのだが、いかんせんテストに対する基準が明確に厳しい。
具体的には9割5分が目標に設定されている。
多分だけど、そこまで合格基準は厳しくないと思う。
けど、模擬試験で基準点を上回れるくらいの理解度が無いと、本番でミスや引っ掛け問題に引っかかる 可能性があるから、その辺りも加味していると思われる。
ハンター試験まで、あと6日。
俺は果たして、ティナのしごきに耐えられるのだろうか?
体力的なしごきはいくらでも頑張れる自信があるけど勉強面は本当に勘弁してほしい。
クッソ、シオンさえ念話で話せれば、あいつに内容覚えさせて楽勝なのに……。
なお、座学で精神をこってり絞られた後、実技の方もこってりと絞られた(体力的な意味で)のは言うまでも無い。
試験に向けて勉強開始。
なお、試験会場で念話なんてしたらバレて失格になる、と普通なら思うでしょうが、生憎とシオンの魂が宿る遺骸は特別性なので、バレません。
その辺りは一応設定が前に出てます。




