休息日のお出かけ③
「いやー案外釣れるもんだ」
自然の材料で作った釣り竿で釣りに勤しむ事30分。
なかなかの大きさの魚がユイと合わせて6匹ほど釣れた。
大体30~40センチくらいの、なかなか食いでのありそうな魚たちだ。
腹もしっかりと太っていて、栄養状態はかなり良さそうなので、これはなかなか味に期待できるだろう。
「うむ、今日は大漁だな。最初からここまでできるとは、釣りの経験があるのか?」
「ま、こっちの世界に来る前にちょいとな」
既にユイは俺が異世界から来たと知っているので、特に隠す事も無い。
なるほど、と納得しながら、ユイは手際良く手ごろな枝を拾い上げ、魚を焼く時の串になるよう刀で削り出す。
それならば、と俺は創造魔術で短剣と大きな桶を生み出し、魚の下処理を取り掛かっていく。
実はこれでも料理は結構得意だったりする。
シオンのやつが身の回りの事からきしだったから、必然的にできるようにならざるを得なかったとも言うのだが。
そのくせ、味にはうるさかったせいで、多分そこそこ店を出せるくらいの腕前はあると思っている。
桶に湖の水を汲んだら、魚のエラから刃を入れ、締めて血を抜く。
放血が止まったら、エラを外して汚れた水を捨て、新しい水を汲んで同じ工程を6匹繰り返す。
「ユイ、魚の内臓は食うのか?」
「いや、それなり以上の大きさのものは食べない。単純にまずいからな」
「OK。じゃあ内臓は外していいな」
ユイに確認を取ってから魚の腹を開いて内臓を外し、綺麗にしたら血合いを傷付けてそこも洗う。
こうする事で生臭さがかなり抜けるのだが、綺麗な淡水魚だからか、下処理をしててもそこまで生臭さを感じない。
何度か水を替えて6匹全てを綺麗にし、ウロコを取ったらあとは調理するばかりである。
「ふむ、随分と手慣れているな。これなら野外活動も心配いらなそうだ」
俺が魚の下処理を終えるのと、ユイが串を削り終えるのは、ほとんど同時だった。
そこそこの大きさがある魚なので、1匹につき数本の串を打って荷重を分散できるようにしていると、ユイが手際良く焚き火を熾しており、まるで長年組んでいたパートナーのようだ。
「よし、あとは焼くだけだな」
「そんじゃ半々と行くか」
「うむ、任されよう」
焚き火を囲うように串打ちした6匹の魚を並べ、あまり近付けすぎないようにしながらじっくりと遠赤外線で焼いていく。
あまり火に近付けて一気に焼こうとすると、焦げやすい上に中まで火が通らなくて生焼けになったりするからだ。
ユイもそれをわかっているのか、俺と同じようにじっくりと魚を焼き上げている。
「ユイくらいのランクになると、泊まり掛けの依頼とか増えるのか?」
妙に野外生活が手慣れている気がしたので、魚が焼けるまでの時間待ちがてら、ユイに聞いてみた。
「そうだな……無いとは言わない。だが、私は学生だからな。本分は勉強だ。だから、長期間になる依頼は避けている。連休の時には泊まり掛けの依頼をこなす事もあるがな」
「……もしかして、ユイって実は貧乏だったり?」
言ってから、しまったと思ったが、既に口に出してしまったものはひっこまない。
「貧乏……そうだな。貴族家としては貧乏だ。使用人の1人も雇えない。平民と比べれば裕福だろうがな」
俺の失言を気にするでも無く、ユイは普通に答えてくれた。
曲りなりにも貴族家だが、幼い頃に両親が他界し、多方面に援助を受けた結果、使用人を雇う余裕も無い貧乏貴族家になってしまったと。
今は1つ上の姉と2人でどうにかこうにか貴族としてやっているという。
政治面は姉が、資金面はユイが請け負っているとか。
うーん、苦学生かな、と思っていたら想像以上だった。
「そっか……まあ、なんだ。俺が試験でどんなランクになるかわからんけど、もし組めたら2人で組んで依頼を受ければ、今よりも効率良く稼げないか?」
何だかんだと、ユイには世話になっているからな。
返せる恩は返しておきたい。
「……そうだな。その時は頼むとしよう。結局のところ試験を受けてみないと結果はわからんがな」
「俺としても、色々知ってる先輩にイロハを教えて貰えるなら有難いしな。それじゃ、試験とやらを頑張るとするかね」
目指すはユイと組めるランク帯だ。
よくある創作物だと、1~2ランクくらいの差なら組めるという作品が多かった気がするから、最低でもCランクは目指したいか。
まあ、戦闘面に関しちゃそこそこやれる自信はあるけど、知識面に関してはだいぶわからんから、試験に何を要求されるかによるな。
っても、俺バカだから勉強できねーわ。
……空き時間にユイに教えてもらうか。
「なあユイ、試験って何があるんだ?」
とりあえず、ジャブとして俺が受ける試験について聞いてみた。
ユイの立場上、あまり詳しく内容を話せないだろうけど、彼女の性格上、なにかしらのヒントはくれるだろ。
「……あまり詳しくは言えないが、戦闘面と知識面の両方だ。戦闘面に関しては心配いらないとは思うが……うん、そうだ。寮に帰ったら私が使っていた初心者用のテキストをやろう。それで勉強しておけ。直接教えるのは問題になるが、教材を渡すくらいなら大丈夫だろう」
ユイに空き時間に指導してもらおう作戦は、実現しなかった。
変わりに、教材はくれるというので、頑張って勉強するしかねえか。
……勉強、やりたくねーなー。
とはいえ、あまりにも悲惨な成績だと、俺を推薦してくれたユイの顔に泥を塗る事になりかねん。
まあ、気合でどうにかするしかないか。
「……そろそろ焼けたんじゃないか?」
「そうだな。ちょうど良さそうだ」
あれこれ会話しているうちに、魚がいい感じに焼き上がっていた。
アツアツの焼き魚に食い付けば、適度な焼き目の付いた皮がパリッとしていて、その中にフワッとした白身の淡泊な味わいがある。
淡泊ながらも僅かに甘みがあり、たっぷりと脂が乗っているので、旨味もすごい。
塩があればなお美味かっただろうけど、そのままでも充分に美味い。
俺とユイで、3匹ずつの焼き魚を食い終わるのに、そう時間はかからなかった。
「いやー、美味かったな。自然の恵みに感謝感謝」
「君の適切な下処理のおかげだな。私もそれなりにできるとは思うが、こうはならないからな」
お世辞でもなんでもなく、ユイは俺の料理の腕を褒めてくれているのがわかる。
まだそこまで長い付き合いではないが、彼女の言葉はいつも真っ直ぐだ。
だからこそ、お世辞や嘘でないのがわかってしまう。
「俺と組んだら、美味い料理を食わせてやるぜ? 結構腕前には自信があるからな」
「……そうだな。楽しみにしておくよ」
俺が作った料理を食べている想像をしたのか、ユイは少しだけ柔らかい笑みを浮かべてから、それを誤魔化すように焚き火などの後処理を始める。
さすがにこれを指摘するのは野暮だろうな、と空気を読んで、俺も後処理を手伝うのだった。




