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異世界に渡りてヒーローとなる  作者: 黒白鍵


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魔術と魔力に慣れよう③

「ほら、こっちこっち!」


「くっそぉ……余裕かましやがって……!」


 本日の訓練は、いつものバトル系とはうって変わって、魔力による身体能力強化のみでティナと鬼ごっこである。

 字面にすれば単純な話なのだが、そもそもの話で魔力による身体強化の習熟度が、俺とティナではまるで違う。

 それによって何が起こるかと言えば、ティナは後ろ向きで俺がギリギリ追い付けない位置をキープしながら、器用に移動しているわけで。

 露骨に手加減されていて、少しばかりイラっとするが、実はいい面もある。

 ティナが俺に対して正面を向いているので、その大層な胸部装甲が揺れまくりで大変眼福。

 ワンチャン、ティナの手の平の上で踊らされている可能性もあるが、こんな状況なら全然踊ったっていい。

 まあ、それはそれとして露骨に手加減されてるのは腹立つので、全力でティナを追いかけているわけだ。


「ほーら、頑張れ♪ 頑張れ♪ もう午前中終わっちゃうよ?」


「言ってろ! すぐに捕まえてやんよ!」




……

………




「クッソ……捕まえらんねえ……」


 本日の訓練が終わりを告げたタイミングで、俺は大の字になって床に寝転んだ。

 昼休憩以外はほぼノンストップで走り回っていたから、全身汗だくである。


「あはは、残念だったねー? でも結構いい線いってたよ。今日のスタートから比べると倍くらい早くなったし」


「全然本気じゃなかったクセに……」


「私だって一応神様だしね? たった1日で人間に捕まってちゃおしまいだよ」


 言われてみればそりゃそうか、となりはするものの、やはり悔しいものは悔しいわけで。

 逆に考えてみれば、神様を嫁にしたいなら、神様に匹敵する実力を付けないといけないという話。


「いつか絶対捕まえてやっからな!」


「気長に待ってるよ。さて、ここの所ずっと訓練し通しだったし、明日はお休みにしようか。たまには身体を休ませるのも必要だからね」


 俺が地面から跳ね起きるのと、明日は休みと告げられたのは同時だった。

 休み、ね。

 とはいえ、外出はしないし、ヒマなだけじゃね?


「あ、明日は自主トレも禁止ね。もし勝手にやってたら、もう稽古つけてあげないから」


「何ぃ? そりゃ休むしかねーな……」


 間違い無く、ティナに教わる事が強くなる近道なのだ。

 それを閉ざされるわけにはいかない。


「わかったら今日はもうご飯食べて汗流して寝るんだよ? 私はちょっと野暮用で留守にするけど」


 じゃあね、と言ってティナは姿を消した。

 言われた通り、今日はもうメシを食って汗流して寝よう。

 明日をどう過ごすかは明日考えるとして、寮に戻って食堂へ。

 気分で食べたいものを注文していたら、見知った顔に出くわした。


「カイトか。久しいな」


「よう、久しぶり。寮で会うのは初めてだな」


 料理の提供待ちの列で会ったのは、この学院に俺を送り届けてくれたユイだった。

 相変わらず、武人然とした立ち振る舞いと言葉遣いだ。


「前に会った時から比べて、相当に腕を上げたようだな」


 ちらりと俺の顔から爪先までを見て、ユイは何か納得したように頷く。


「おっ、わかっちゃう? いやー、やっぱ溢れんばかりの俺の才覚は誤魔化せないかー」


 相手が相手(神様という名のバケモン)だったので、上達の実感は薄かったが、他人が見ればすぐにわかるほどとなれば、それは相当なものなのだろう。

 そんな状況で調子に乗ってみれば、ユイはジト目でこちらを見ていた。


「……まあ、いい。ここで会ったのも何かの縁だろう。一緒に夕食を摂らないか?」


「おっ、いいね。1人じゃ味気ないと思ってたんだ」


 俺が調子に乗っていたのは一旦流して、ユイが一緒に夕食を摂ろうと提案してきたので、二つ返事で頷く。

 1人でパパッと終わらせても良かったのだが、知り合いと一緒に話せるならその方が楽しいに決まってる。

 美人だし、スタイルも抜群だけど武人然としてるからか、ユイはあんまり女の子って感じがしないんだよな。

 いや、並の女よりもよほど女らしくてスタイルいいけどさ。

 変に異性を意識しすぎずに済むというか。

 ちょうどいい友達くらいの距離感で話せるんだよな。

 待っているうちに注文が出来上がり、料理を受け取った俺たちは、空いている席で向かい合って座った。


「ここに来てから、君は何をしていたんだ? 無論、話せなければ話さなくてもいいが」


 武人然とした彼女らしく、おかずも主食も大盛りのユイが、食事を頬張りながら別れた後の事を問うてくる。

 ティナとの特訓の件は、勝手に話していいかどうかわからんし、ちょっとぼかしとくか。


「とりあえず、スプリアと話して、色々と世話してくれる事になってな。とりあえず、寮に入って今は特別訓練中、って感じだな。俺、魔力の使い方とか、そういうの知らなかったし」


 俺がスプリアを呼び捨てにしているのを聞いて、ユイは一瞬だけ眉を顰めたが、すぐに元に戻った。

 彼女の性格的に、上下関係とかは結構厳しそうだが、本人は全然気にしてないしな。

 それがわかっているからか、何か言いたげなのを飲み込んだのだろう。


「そうか。君は流れ人だったものな。言われてみれば道理というものだ。そうして制服を着ているのを見るに、君は学院に入学するのか?」


「その予定だ。が、まだ基礎ができてないから、まだいくらかはかかるんじゃねえかな。その辺が追い付いたら、どっかに編入になると思うぜ?」


 具体的にいつ入学、という話はまだ聞いていない。

 そもそもの話、まだ覚える事があるだろうし、シオンの身体の件も解決してないし。

 スプリアも学院の仕事以外はシオンの身体の件に付きっ切りみたいだしな。

 まあ、こないだ様子を見たら似た者同士でマッドで高度な会話をしてたが。

 ちなみに内容はサッパリ理解できんかった。

 が、普通に考えたらヤバそうな事を話していたのは何となくわかる。

 ちょっと倫理観に抵触する感じのやつな。


「なるほどな。そちらの状況は概ね理解できた。何か困った事があるなら言ってくれ。微力ながら力を貸そう」


 いい人かよ。

 ユイの性格的に、俺みたいなのはあまり好かれなそうと思っていたが、思いの外嫌われてはいなさそうだ。

 まあ、もしかすると社交辞令だったり、逆に誰に対しても変わらないっていうタイプかもしれないが。

 とはいえ、助けになってくれるというのなら、早速頼ってみようじゃないか。


「じゃあ早速、困り事があってな。明日、休息日なんだけど、何をして過ごせばいいかわからないんだ。この世界の娯楽とか知らねーし」


「ふむ、心得た。君を楽しませられるかはイマイチ自信が無いが、微力を尽くそう。明日は朝から暇なのか?」


 明日の朝か。

 まあ、朝飯を食いっぱぐれるのも面倒だし、朝寝坊はしないでおこう。


「朝飯食ったら暇だな」


「では、朝食後に一緒に出掛けるとするか。ついでに外出申請のやり方も教えよう」


「お、助かるわー。持つべきは友人だな」


 うん、多分ユイは根っからの善人なんだろう。

 きっと恐らくメイビー。

 まあ、悪人は容赦無く斬殺するくらい容赦無いけど。

 ともあれ、明日の予定は急遽決まったのだった。

次回、ユイとデート会!

(になるのか?)

お楽しみに!

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