古き者の監視者⑧
今回はシオン視点になります。
マッド×マッド=混ぜるな危険。
「……スプリア、僕はいつまで生きられるんだい?」
カイトと共に異世界にやって来て、ひょんな事から肉体を失い、魂だけの存在となった僕は、今は遺骸核なる物に入り、生き長らえている。
カイトはここ数日、僕の入った遺骸核をスプリアに預け、この世界に存在する魔術の修練を行っているらしい。
話を聞く限りでは、なかなかに筋がいいとか。
相棒が順調に異世界生活に順応していっているのを嬉しく思う反面、僕の方はどうかと言えば、もしかすると消滅が近付いているのではないか、と仮設を立てている。
考えてみれば、肉体を失った事で、おおよそ生命活動というものを行っていない状態だ。
消費するリソースを補充できる要素が無い状態で、果たしてどれほど生きられるというのだろう。
僕自身は何かできる立場には無いけれど、せめて消滅する時くらいは知っておきたい。
そんな心持ちで、僕はスプリアに問い掛けてみた。
「うーん、何とも言い難いわね。今この瞬間に消えるかもしれないし、未来永劫消えないかもしれない。魂を何かの器に入れて、意識を保っているという事例は、殆ど無いの。前例の無い事は、比較検討のしようが無いから、私から言える事は何も無いと答えるしかないわ。一応、私の知る事例では、1万年くらいの期間、肉体を失っても自我を残していた存在は知ってるけど、元々が人間でもなかったから、参考になるとは言えないかしらね」
僕の入っている遺骸核を、顕微鏡のようなものであちこち確認する手を止めずに、スプリアは僕の疑問に答える。
決して適当な事を言っているわけでもなく、ただただ事実を述べているだけ、といった感じだ。
「けれど、敢えて私の経験則と分析から言わせてもらうのなら、このままでもあなたは問題無いと思うわ。根拠としては、あなたの魂がとても安定している事ね。普通、肉体を失った後の魂は不安定で脆い存在なの。だから、肉体が死ぬと程なくして魂も消えてしまう。けれど、あなたは遺骸核にその存在を宿すという形で、不安定な状況から脱却した。だから、この遺骸核そのものに何かしらの変化でも起きない限りは、このままで問題が起こる可能性は限りなくゼロと言っていいわ」
つまりは、遺骸核が僕の肉体の代わりを果たしている、と考えるべきなのかもしれない。
「……あなたの肉体を生み出すという事そのものは、実はもう可能ではあるのよね。ただ、新しい肉体にあなたの魂が馴染む確証が無いの。これが適当な実験用生物なら、雑に実験してもいいのだけれど、そういうわけにもいかないのよね。カイトが理性を失って暴れでもしたら、被害がバカにならなそうだし、せめて成功率が8割を超えるまでは、このまま我慢してもらう事になるわ」
クローン、かどうかはわからないけれど、彼女の言葉を聞いている限り、肉体そのものを生み出す事そのものは可能らしい。
この辺りは、僕の知らない魔術という要素が絡むのだろう。
「思ったよりもカイトの事を買っているんだね。意外だよ」
それよりも、彼女が思ったよりカイトに対して慮っている部分がある事が意外だ。
彼女たちからすれば、僕たちは余所者で、厄介者ですらあるかもしれないというのに。
「そうね。こちらにも思惑が色々とあるのは否定しないけれど、世界があなたたちを受け入れている以上、こちらの都合だけであなたたちを消すわけにもいかないの。その辺りはまあ、神様やってると色々としがらみというか、規則みたいなものがあるのよ。詳しくは教えてあげられないけれど、ね」
世界が僕たちを受け入れているから、か。
侵略的外来者の件もあるし、もしかすると、僕たちも一歩間違えれば消されていたかもしれない。
彼女の話を聞いている限り、世界に意思があるかのような言い方だ。
「どころで、肉体を取り戻すに当たって、あなたは希望があるかしら?」
「希望、とは?」
唐突に肉体を取り戻すに当たっての希望を聞かれ、僕は困惑した。
思わず、即座にオウム返しで聞き返してしまう程度には。
「そうね……ほら、色々あるじゃない。男なら筋肉たくさん付けたいとか、顔を良くしてモテるようになりたいとか。あまりにも行き過ぎたものは叶えてあげられないけれど、ちょっとした希望くらいなら聞いてあげるわよ?」
なるほど。
どうやら僕の思っている肉体とスプリアたちの肉体の扱いが、全然違うようだ。
僕としては、あくまで魂から読み取れる情報で、クローンに近いものでも生み出すものだと思っていたのだが、スプリアたちの認識では、肉体を作るついでに細かい所を弄って理想の肉体にするものらしい。
そこで、僕は彼女になら、心の底に秘めた思いを叶えられるのではないか、と希望を見出した。
それが可能であれば、という前提にはなるが。
「ちょっとした希望には、こういう事は入るのかな?」
万が一にも、誰かが聞き耳を立てていると面倒なので、僕は音声と同時に念話をスプリアに送る。
すると、彼女は一瞬だけ呆けたように手を止めたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「できるに決まっているじゃない。何なら、もう少しくらい希望を出してもらっても構わないわよ?」
なるほど。
思ったよりも新しく作られるであろう肉体は融通が効くらしい。
そこで、僕は思いつく限りの理想の肉体をスプリアに打ち明けていく。
結構細かい注文を付けたと思うが、彼女からすれば、さして難しい事ではないようで、その全てを請け負ってくれた。
「なるほどね……それじゃあ、1度見本を作りましょうか。それを見て、細かい部分を微修正して、それを完成とするのが良さそうだわ」
「よろしく頼むよ。僕の希望が反映された肉体なら、魂がより定着しやすい可能性も考えられる」
「あら、面白い仮説ね。けれど、意外に侮れない視点だわ」
ああ、途中からずっと感じていたけれど、僕とスプリアの相性はとてもいい。
彼女は、僕と同類だ。
そうとわかれば、色々とやりようはある。
ふふ、待っていてくれカイト。
僕が肉体を取り戻した暁には、あっと驚かせてあげるからね。




