魔力と魔術に慣れよう①
「そうそう、いい感じ。そうやって、全身に巡る魔力を意識して動かせば、身体強化ができる」
魔術を習い始めて1週間が経過した。
創造魔術の方は実体化速度を上げるだけとなったので、今は他の魔術や魔力を使ってできる事の応用を習っている。
身体強化もその1つで、ティナ曰くとんでもない魔力量の俺がそれを使いこなせば、それだけで武器になるとか。
実際にティナと創造魔術で作った木剣で打ち合いながらレクチャーを受けているのだが、ここ数日でようやく形になってきところだ。
要するに、身体に巡らせる魔力量を増やして筋肉とかに作用させれば身体能力が上がり、身体を魔力で覆えば防御力を上げられる。
ざっくり言えばそんな所だろう。
とはいえ、ティナの剣は早く鋭く、そして重い。
俺の付け焼刃な身体強化では追い付けず、なおかつ剣術でも負けている。
まだ全然実力を出していないであろう彼女に、どうにかこうにかついていけているのは、俺のイカレた反射神経と勘でどうにかしているからだ。
「剣術は自己流っぽいね! でも、悪くないよ!」
「こうも簡単に捌かれてると、言われてるほど褒められてる感じはしねえ、よっと!」
強烈な一撃を、かろうじて木剣で防いだものの、あまりの威力にそのまま後ろへ滑っていく。
転ばないように踏ん張ってみれば、ティナが目を丸くしてこちらを見ていた。
「今の、よく防げたね。一発入れて気絶くらいはさせるつもりだったけど」
特に構えを取るでも無く、意外そうにこちらを見る彼女の反応を見るに、その言葉に嘘は無いのだろう。
あまりに綱渡りの連続だったから、既に汗だくだった全身に、ブワッと汗が噴き出る。
さっきの一撃を食らっていたら、意識を刈り取られていたと思うと、肝が冷えた。
そもそも実力が離れているのだから、そうなって当然ではあるのだが、どうにか気合いと根性で食らい付けているのが、奇跡のようだ。
「少し休憩しよっか」
俺の様子を見たティナが木剣を消したので、俺はその場で仰向けに寝転んで大の字になった。
集中力が切れた事で、俺の手にあった木剣が魔力の燐光となって霧散していく。
相当に精神を削るような集中をしていたので、疲労感が凄い。
それでも、ティナほどの実力者を相手に、どうにかその猛攻を凌ぎ切ったのは、確かな手応えを感じている。
「休憩したら、今度は槍でやろっか」
「望むトコだ……けど、もうちょい休ましてくれ。さすがにきちぃって」
ニコニコと嬉しそうな表情で俺を見るティナだったが、言っている事はスパルタそのものだ。
自己流とはいえ、色々な武器の心得があるって言ったからか、ティナは面白がるようにあれこれと試してくる。
ちなみに、剣でやり合う前は素手格闘と短剣での打ち合いもした。
当然、勝てる要素はゼロなのだが、気合いと根性でギリギリ気絶させられない程度には、何だかんだで抵抗できているな。
危ない一撃を凌ぐたび、ティナが目を丸くして嬉しそうな表情をするので、俺もどうにかやれている、という実感はあるのだが、いかんせん精神を擦り減らすようなギリギリのやり取りが続くので、集中力がすごく削れるのだ。
「いやー、カイトは本当に筋がいいねえ。創造魔術の速度もだいぶ上がったし、強度に至っては意識しなくても私と打ち合えるくらいにはなったし。そんで、創造魔術を維持しながら身体強化もできるようになって……こっちも教え甲斐があってついつい厳しくしちゃう」
汗だくで寝転がる俺の方に、ティナがてくてくと歩いてくる。
そのまま俺の頭の近くでしゃがんだと思うと、デコの辺りを優しく撫で始めた。
恥ずかしいやら嬉しいやらで複雑な気持ちだったが、とりあえず言えるのはご立派な胸部装甲で上が見えねーって事。
役得だと思っておこう。
というか、無駄に喋りたくないくらいには疲れてるし。
「スプリアの方はちょっと苦戦してるみたいだけど、君の相棒と楽しそうにああでもないこうでもないって議論してるし、そのうち上手くいくんじゃないかな」
「俺、そんなに不安そうな顔してたか?」
ティナの指摘に思う所が無いわけじゃない。
けど、どのみち時間がかかるだろうし、最終的には時間が解決してくれるだろう、と思っていた所だ。
それでも表情に出ていたのだとしたら、あまりに隠すのが下手すぎんか俺。
「んーん、そんな事は無いよ。訓練も真剣に取り組んでるし。でも、逆に真剣すぎるような気もしたから」
「それはティナの察しが良すぎだ。ま、間違いじゃねーけどさ」
美人でスタイル抜群で気遣いもできるとか最高かよ。
今は本当にそういう相手として見られてないだろうけど、いつか絶対に意識させてやるからな。
「自分たちで望んでこの世界に来たって聞いたけどさ、やっぱり不安はあるよね」
「まあ……そうだな。相棒以外に知り合いがいるわけでもねえ、頼れる後ろ盾があるわけでもねえ。自分たちで道を切り開く気概は持ってたけど、相棒がいきなりあんなになったからな。正直、ここに来るまでは最悪の事態ばっか考えてた」
侵略的外来者とかいう魚野郎に酷い目に遭わされて、たまたまティナに助けられて。
最悪の事態は免れたけど、先行きはとてつもなく良くなかった。
あれからユイを通して、スプリアとティナが俺たちを保護してくれたワケだけど、本当にここに来るまでは、いつシオンが消えちまうかと、気が気じゃなかったんだよな。
けど、今はある程度道筋が見えて、希望も出来たし、相棒が新しい肉体を得られれば、もうあとは異世界ライフを楽しむだけだ。
「そっか。ごめんね。もっと早く保護してあげられれば良かったんだけど……私たちにも色々と事情とかやる事があったからね」
「そこは別に責める気もねーよ。感謝こそすれ、文句言うのはお門違いってモンだろ」
「……ありがと」
最後のお礼は、消え入りそうな声だったけど、確かにティナは嬉しそうだった。
そんな雰囲気を誤魔化すように、ティナは勢い良く立ち上がる。
その拍子に、彼女のご立派な胸部装甲が大きく揺れた。
うむ、ごちそうさまです。
内心で拝んでおこう。
「さて……それじゃ、そろそろ休憩終わりにしよっか。もう動けるでしょ?」
眼福眼福、と内心で乳揺れを拝んでいたら、ティナが想像魔術で素早く手元に槍を生み出し、俺の顔面目掛けて突き立てようとしてくる。
訓練用の穂先が丸いものだが、当たれば痛いなんてもんじゃない。
慌てて跳ね起きながら一撃を躱し、俺も手元に槍を作り出して構えた。
「やっぱりね。今度は、どれくらい踊ってくれるかな!?」
「言うに事欠いて踊るとか、ナメやがって!」
俺が勝てないって確信した言い方しやがって!
実際勝てないけどさ!!
それでもただ泣き寝入りするのは悔しいので、どこかで一矢報いてやる、という気概を持って、俺はティナへと挑むのだった。
なお、この日ティナに勝つ事が無かったのは言うまでも無い(n敗)。




