古き者の管理者⑥
「んんんんんんん……よし! できたぞ!」
俺が魔術の訓練を初めて2日目。
苦戦するかに思えたが、1度睡眠を挟んだのが功を奏したのか、午前中に特訓を初めてから数回で創造魔術による物体の具現化に成功。
とはいえ、その精製速度は恐ろしく遅かったが。
ティナのように一瞬で物を作る、なんて芸当はできなかった。
「お、ちゃんと形を作るまでいけたね。えらいえらい。もうちょっとかかると思ったけど、筋がいいよ」
パチパチパチ、とティナが拍手をしてくれる。
どうやら、そこそこ筋はいいらしい。
「実践的に使うんだったら、もっと具現化までを早める必要はあるけど、その辺はやってるうちに慣れてくだろうから、あまり気にしなくていいと思うよ。それじゃ、次はこういうのを作ってみよっか」
初歩中の初歩ができたところで、次なるお題がティナから課せられた。
それは、えらく細かい意匠の施されたナイフだ。
刃の部分には精緻な文様が彫り込まれ、柄の方は鍔の部分がとても細かい意匠になっている。
「それが自然崩壊するまでに、完璧じゃなくてもいいからなるべく近いのを作ってね。もし、見本が自然崩壊したら、また新しいのを出すから」
そんなわけで、ティナが創造魔術で作った見本のナイフを渡され、それを色々な角度から観察しながら、俺がそれを模倣する、といった課題をこなしていく事に。
これがまた、えらく難航した。
これに関しては、俺の性格なんかも手伝っているだろうが、とにかく彫り込まれた模様などの細かい部分の再現に手こずってしまう。
先に刃の部分から作るべ、と作業していたのだが、刃の部分のおよそ半分を作るのに1時間を要し、さらにはティナから渡された見本のナイフが崩壊。
はっきり言ってぐだぐだである。
「はい、次はこれね」
俺の練習風景を見守っていたティナが、次なる見本を作ってくれたのだが、それを見て俺は固まった。
「さっきの見本と違う、よな?」
「そうだね。言ったでしょ。見本が自然崩壊したら新しいのを作るよって」
ニッコリとSの笑顔を浮かべたティナの手にあったのは、先ほどと違う見本。
細かい意匠やら文様などが多いのは変わらなかったが、今度は剣であり、しかも意匠や文様の方向性がさっきと全然違う。
要するに、応用が利く部分が少ないのだ。
「ほら、頑張って」
この時、俺は確信した。
ティナは絶対にSだと。
昼飯の休憩時間に入るまでに、俺は内心で泣きそうになりながらも、ティナの見本を複製する作業に邁進したが、ついに完成品を作るには至らなかった。
良くて8割くらいの進行度まで、といったところだ。
「はぁ~……全然終わらねえ……」
昨日と同じく、昼食のために食堂に移動する最中、俺は肩を落としてどんよりとした雰囲気を纏っていたが、少し先を歩くティナは足取りが軽く、ご機嫌そうである。
もしかして、俺が苦しむ様子を見て楽しまれているのだろうか。
移動している間は会話も無く、空いているテーブルについて、食事を始めるタイミングになるまで沈黙は続く。
「カイトは本当に筋がいいね。教えてて楽しいよ」
ぱくりと昼食のパンを頬張りながら、上機嫌そうにティナが声をかけてきた。
今日もいつの間にか制服姿になっており、いつ着替えてるんだろう、という疑問は飲み込みつつ、俺も重い動作で昼食を口に入れる。
筋がいい、と言われてはいるが、自分自身ではそんな気が全くしない。
「あ、言っておくけど、教えて2日でカイトほどできる人はそうそういないよ? 普通は簡単なものでも具現化させるまでに早くても2~3日はかかるし、今日の課題だって普通なら1ヵ月くらい練習させてからやるものだよ?」
「むしろそんな高度な訓練やらされてたの俺?」
しれっととんでもない事実を暴露されて、俺はさっきまで鬱屈としていたのがバカみたいだと思ってしまう。
むしろそりゃ完成までいけなくて当たり前じゃん。
「そうだよ? だから完成までいかなくたって落ち込む必要なんて無いし、むしろ全然誇っていいくらい。見てる感じ、スピードも精度もだいぶ上がってきてるし、何だかんだでかなり完成にも近付いてるしね。むしろ次はどんな課題を用意しようか、ちょっと悩んでるくらい」
本当に楽しそうな様子で話すティナを見て、本当に思った通りの事を言ってるんだな、と理解する。
さっきまでSの人かと思ってた俺が恥ずかしい。
「もっと自信持っていいよ。相当筋がいいし、飲み込みも早いから」
そんなこんなで昼飯休憩を終えて、複雑な形状の物を作成する訓練に戻り、ティナの見本を作り続ける事数時間。
「で、き、たああああああああ!」
もうそろそろ今日の訓練は終わるくらいの時間になった所で、俺はティナの見本を複製した物を完成させる事に成功した。
ちなみに、見本は細かい装飾のされた板金鎧である。
彫り込まれた模様を再現するのに、本当に禿げるんじゃないかと思ったくらいだ。
「どれどれ……うん、細部もかなり上手くできてるし、ほとんど同じだね。2日目でここまで完成させちゃうかぁ」
完成品を見たティナからの評価も上々で、俺は手放しで喜べた。
難しい課題をやり切ったという達成感もあり、充実しているな、という感じ。
「ティナちゃんお疲れー。カイトはどう?」
現状の生活拠点となっている学院長室に戻ると、スプリアが俺たちを出迎える。
昨日は俺の遺骸核の解析にかかりきりで、戻ってきた時にはいなかったのだが。
「かなり飲み込みが早いよ。創造魔術にしか適正が無いのが惜しいくらい」
「ほー。ティナちゃんが褒めるなんて、相当ね。そうそう、寮のカイトたちの部屋が準備できたわ。明日から移ってもいいし、今日これから移ってもいいけれど、どっちがいいかしら?」
ティナと話してから、俺に目線を向けたスプリアは、寮の部屋が準備できたと言う。
俺はすぐに部屋を移動する事にした。
何だかんだスプリアの部屋というのも、どこか気を遣うしな。
これで気兼ねなくゆっくりできるってもんだ。




