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異世界に渡りてヒーローとなる  作者: 黒白鍵


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古き者の監視者②

「この前は自己紹介もしていなかったね。でも、スプリアも交えての方が話がわかりやすいと思ったから、君をここに連れて来るのは任せる事にしたんだよ。私は君が捕まるまでに、ちょっと野暮用をこなしてたってワケ」


 謎の少女はダル絡みするスプリアの脇腹に肘を入れて黙らせてから、彼女の隣に腰を下ろす。

 横で悶絶しているスプリアを一瞥すると、やれやれと肩を竦める。


「それじゃ、私も自己紹介しておこうか。私はティナ。ただのティナだよ。元より、身分なんて無い、平民の生まれだからね。でもって、私も神としての一面がある。そっちは軍神アレスティナ。ま、ティナでいいよ」


 よろしく、と差し出されたティナの手を、俺は恐る恐る掴む。

 すると、思いの他しっかりとした力で握手を返され、それでいて女の子らしい柔らかな感触に、内心でドギマギしてしまう。

 だってしょうがないじゃない、男の子だもの。

 ましてや、俺好みのとびっきりの美少女である。

 神としての面が云々とか言ってるから、見た目通りの年齢じゃない可能性が大いにあるが、それはそれだ。

 見た目が若けりゃ全然セーフという事で。


古き者の監視者エンシェント・ウォッチャーについて、少し説明しておこうかな。私たち、見た目はこれだけど、もう万単位の月日を生きてる存在なんだ。その昔、色々あって結成された組織なんだけど、目的はただ一つ。この世界を外敵から守るため、世界を監視する。必要とあれば、戦う。そんな組織さ」


 まさしく、秘密結社というわけだ。

 いいねいいね。

 ヒーローとしての条件、満たしてるじゃん。

 まあ、基本的には表に姿を見せず、秘密裡に問題を解決するタイプの組織みたいだけどな。


「で、君たちをここに呼んだ理由としては、不確定要素だから監視下に置きたかったっていうのが1つ。もう1つの理由としては、私たちに協力する気はないか確認したかった、っていうのが本音だね。偶発戦とはいえ、侵略的外来者(インヴェリアン)を倒せるだけの能力があるみたいだし」


「インベ……何だって?」


 耳慣れない言葉に、思わず聞き返してしまう。

 ただでさえこの世界の事柄には疎いってのに。

 いきなり専門用語を出されてもわかるかってんだ。

 開き直るようだけど、俺は頭が悪いしな。


「君の相棒を殺した、怪物のコト。それが侵略的外来者。この世界とは別の世界から攻めて来る侵略者だよ」


 あの魚野郎が、侵略的外来者。

 別世界から攻めて来る侵略者、か。

 そういや、先遣隊がどうとか言ってた気がするな。

 恐らく、ティナたちの警戒網を掻い潜って潜伏してた所に、俺たちが踏み込んじまった、という事だろう。


「で、君が私たちの協力者になるなら、君の相棒の身体を取り戻す手伝いをする。それが交換条件。君の持つ遺骸核(ロウェルコア)の能力ありきなのか、生身でも強いのかはわからないけど、戦力として期待はしてるよ?」


 とりあえず最低限の説明は終わり、とティナが小悪魔っぽい顔でウィンクする。

 うん、可愛い。

 計算してやってるかわからないけど、やはり素材が極上ならどんな表情でも絵になるな。


「もちろん、常時何かあるわけじゃないから、あなたたちに抵抗が無ければ、平時はこの魔術学院で学生として過ごして、この世界の事を学べばいいわ。適正があれば魔術を使ったりもできるようになるでしょうし」


 脇腹に肘を入れられて悶絶していたスプリアが再起動を果たし、俺たちの身の振り方に関しても補足をくれる。

 普段は学生として過ごして、いざとなったら組織の一員として戦う、か。

 いいね、それっぽい。

 どちらかというと仮〇ライダーっぽいか?

 とはいえ、だいぶ俺たちに譲歩しているようにも感じるので、何か裏があったりもするかもしれない。

 手放しに喜んでいいとは言えない気がするな。


「だいぶ俺たちに有利な条件に聞こえるな。俺たちがもらう方が多い。少なくとも対等と言える取引じゃねーな?」


『君、内心では鼻の下を伸ばしたりしてたのに、変な所で鋭いね』


 呆れたような相棒の指摘は華麗にスルーしつつ、俺はスプリアとティナの顔を交互に見る。

 別に俺だって警戒してないわけじゃねーっての。

 それはそれとして、欲望に忠実なだけだ。

 俺の問い掛けに、ティナとスプリアは1度お互いに顔を見合わせてから、改めて俺の方に向き直った。


「私としては、君の世界の話を聞きたいね。異なる世界の文化なんて、面白そうじゃん。もしかしたらこの世界に活かせるものもあるかもしれないし」


「私はあなたの遺骸核と身体に興味があるわ。異世界人の身体なんて、とても貴重なサンプルじゃない」


 異世界の知識、異世界の人間サンプル。

 どちらも知識欲に相当するものではあるが、後者の方が圧倒的にマッドっぽい。

 要するに、俺という異世界人そのものに価値を見出してるから、ここまでの条件を出してる、っていう話だ。

 まあ、変に捕らえて強制解剖、みたいな真似をしないだけ良心的か。

 俺としちゃあこの提案、乗ってもいいと思うんだが、シオンはどうだ?


『僕もこの提案は乗るべきだと思う。想像以上に強力な後ろ盾だ。この世界では根無し草な僕たちにはうってつけだろう』


 賛成多数、という事で、俺とシオンの中で2人の提案を受ける事が決まった。

 とはいえ、ただ養われるのも気分が悪い。

 それなりに返せるようにはしないとな。


「ありがたく、そっちの提案を呑ませてもらおうと思う。ただし、生きたまま解剖とかはナシだぜ?」


「そんな事しないわよ。失礼ね」


 俺が疑いの視線でスプリアを見ると、彼女は不満そうに頬を膨らませる。

 見た目が美人だから、ギャップ萌えが狙える仕草なのだが、あまりにも体型がすとーんとしているからか、俺はスプリアをそういう目では見れない。

 ティナくらいむっちり叡智ボディなら、いくらでもそういう目で見れるんだがなあ。


『君、本当に欲望に忠実だよね』


 おう、褒めんな褒めんな。

 何ならティナとあんな関係やこんな関係にならないかと思ってるくらいだぞ。


「それじゃ、ヴァイゼ魔術学院の生徒として登録しておくから、後で色々と調べさせてもらうわ。今日はもう疲れたでしょうし、隣の部屋で休んでちょうだい」


 一旦、難しい話は終わり、となって、スプリアは学院長室の一角を指差した。

 そこには入口と違う扉があり、何かの部屋がある。

 スプリアの口ぶりからして、仮眠室のようなものかもしれない。


「そうだね。それがいい」


 ティナも賛成するように頷いたので、とりあえずこの場はお開きだな。

 拒否する理由も無いので、俺はソファから立ち上がって示された扉を開く。

 すると、そこには想像の倍以上はすごい部屋の光景が、目に飛び込んできた。

 広さは1LDK(風呂、トイレ別)くらい、ベッドからキッチンから風呂トイレまで全てが揃った部屋だ。

 内装はシンプルで飾り気は無いが、確かに生活感があり、ほんのりと薔薇のような上品な香りがする。


「そこ、私の生活スペースだから、適当に寛いでちょうだい。明日か明後日にはあなたたちの寮の部屋を用意しておくから」


 なるほど、スプリアのやつ、学院にそのまま住んでるわけね。

 んで、そのスペースを俺たちに貸してくれると。


「スプリアはどうすんだ?」


「別に数日寝なくたって変わらないわ。人間じゃないもの。あなたたちがその部屋を使ってる間は、適当に事務仕事でも捌いておくから気にしなくていいわよ?」


 神様ともなると俺みたいな一般人に部屋を使われても何とも思わない、と。 

 まあ、俺もスプリアのすとーんとしたボディには何も感じないので、過ちは起き得ない。

 つまりはそういう事だ。


「んじゃ、ありがたく使わせてもらうぜ」


 そんなわけで、俺は得に抵抗も無くスプリアの部屋に入り、扉を閉じる。

 今日はもう、汗を流して寝てしまおう。

 そう思った最初の旅の終わりだった。

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