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異世界に渡りてヒーローとなる  作者: 黒白鍵


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19/22

古き者の監視者①

「顔を合わせるのは初めまして、ね」


 学院長室の中に入ると、そこには大きな執務机でゲ〇ドウさんのポーズをしている1人の女性。

 怜悧で、細い目を興味深げな色に染めながら、こちらを観察している。

 こちらを観察しているのを隠しもしないのは、逆に好感が持てるかもしれない。


「わざわざ迎えを寄越すなんてご丁寧なこった。俺の事は、黒髪の女の子から聞いたんだろ?」


 さすがに、俺という存在を知る相手が少なすぎるので、情報源は探らずとも検討が付く。

 敵かもしれない相手だが、そもそも敵地に乗り込んでいるに等しいし、わざわざへりくだった所で何かが生まれるとも思えない。

 そんなわけで、俺は相手の出方を伺いながら軽口を叩く。

 念のため、何かあったらすぐに動けるよう警戒は怠っていない。


「あら、ティナちゃんってば名乗ってなかったのね。それじゃ、あまりこちらの事も知らないでしょう?」


 推定学院長と思われる女性は立ち上がり、こちらへと歩いてくる。

 特に警戒している様子は無く、恐らくは何かしても余裕で対応できる、と思っているのだろう。

 入口の所で立ち止まっていた俺の近くに歩いて来ると、学院長室にあるソファを指差す。


「立ち話も疲れるでしょうから、座るといいわ。別に取って食ったりしないわよ?」


 俺が警戒しているのが丸わかりだったのか、ソファに座るよう促すと、自分からソファの方に歩いていって腰を下ろす。

 小さめのテーブルを挟んで対面のソファに、視線で座るよう引き続き促してくる。

 俺の警戒を意識しているのかどうかはわからないが、入口に近い側の席を勧めている辺り、よほど余裕なのか、言葉通りにこちらにどうこうする気はないのか。

 イマイチ判断は付かないが、このままでいるのも意味が無い。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。

 俺は意を決してソファに腰を下ろした。

 思いのほか柔らくて、それでいてしっかりとした感触のソファーである。

 これなら長時間座っていても疲れないだろう。


「ふふ、いい子ね」


 満足げな笑みを浮かべ、長い脚を組む女性だが、先ほど近くに来た時に気付いた。

 この女性、だいぶ背がデカい。

 俺が180センチちょいの身長だけど、並ぶくらいには長身だ。

 下手すると俺よりも上背があるかもしれないな。

 そんな身長で、足長の体型をしているから、脚がまあ長い。

 短足気味な日本人としては羨ましい限りである。

 幸いな事に、俺は日本人でも足長の部類ではあるのだが。

 髪型は紫色の髪を腰辺りまで伸ばしたストレートヘアーで、これまたサラッサラのツヤツヤだ。

 顔つきは女狐、と言えばピンとくる感じの細い目つきで線の細い美人だ。

 前に会った金髪の少女とはまた別な美人の感じ。

 身体つきは驚くほどすとーんとしていて、驚くほど凹凸が少ない。

 一応女性っぽい骨格ではあるのだが、以前会った金髪の少女といい、ユイといい、俺の知り合った人はかなり女性らしい身体つきをしていたのだが。

 街にいた時も、平均して女性の身体つきはかなりレベルが高かったので、かなり希少種、と言っていいだろう。

 残念ながら、俺は貧乳はステータスだ、と言える性癖をしてねーけど。


「……何か失礼な事を考えてないかしら?」


 細い目をスッと細め、冷たい目でこちらを睨む女性だったが、俺は取り合わずに早く本題に入るよう促す。


「気のせいだろ。それで、迎えを寄越してまで俺をわざわざ呼び寄せた理由は何だ?」


「……まあいいわ。あなたを呼び寄せた理由は、ティナちゃんからお願いされたのと、色々とこちらにとって都合が良さそうだったから、かしらね」


 持って回ったような言い回しだが、こちらが相手を信用しきっていないのと同様、向こうも俺を信用しきってはいないのだろう。

 彼女の言うティナちゃん、というのがあの日会った黒髪の少女の事だろう。


「都合が良さそう、ね。大方、実験動物か何かとしてってトコか?」


 わざと斜に構えた発言をしてみれば、女性は面白そうに笑う。


「ふふ、実験動物、とまでは言わないけれど、色々と試すのにちょうどいい、とは思っているわ。心配しなくても、危険な事はしないし、嫌がる事は無理強いしないと約束するわよ?」


「そうかい。で、いい加減に俺を呼び寄せた理由をちゃんと話してくんねーかな? それ次第でこっちもアンタが信頼に値するか判断できねーからさ」


 いい加減、迂遠な言い回しにも飽きたとせっつけば、女性は苦笑いを浮かべてソファの背凭れに身体を預ける。


「それじゃ、自己紹介といきましょうか。表の顔はリアリム王国ヴァイゼ魔術学院の学院長、スプリア・マギストルよ」


 表の顔は、とわざわざ前置きをして名乗った女性——スプリアは、不敵に笑う。

 どこか、彼女から底知れぬ圧のようなものを感じ、自然と全身に力が入った。


「で、真の顔は古き者の監視者エンシェント・ウォッチャーの創始者の1人でありながら、魔法術の女神、スプリアムってわけ。もっとも、この世界について何も知らないあなたからしたら、何を言っているのか、ちんぷんかんぷんでしょうけれどね」


 自称女神とか……こいつ、頭大丈夫?

 話を聞いた感想としては、まず第1にそれだ。

 とはいえ、意味も無くこんな酔狂な自己紹介をしても、信用を得られるはずもない。

 だが、先ほどから感じる底知れなさが、女神だからという理由なのであれば、納得できなくもないか。


「やっぱり、なかなかの逸材みたいね。私の神気に当てられても、ちょっと緊張するだけで済むなんて。よほど肝が据わっているじゃない」


 ふっ、と先ほどから感じていた底知れない感覚が消え、最初に会った時と同様の、一般的な女性らしい感覚に戻ったのを見て、半ば先ほどの女神という自己紹介が冗談でも何でもなく、事実なのだと納得。

 それくらいに、底の知れない感覚だった。


「ようやく捕まえたんだね」


 聞き覚えのある声と共に、俺たちの近くで燐光が弾ける。

 すると、以前会った謎の少女が、スプリア側のソファ横に突如として現れた。

 前にも見たが、恐らく転移魔術だとか、そういう類のものなのだろう。


「あ、来てくれたのね、ティナちゃん」


 いきなり現れた少女に驚くでもなく、自然と接するスプリアを見て、想像通り、彼女らが知り合いだという事実を確認。

 何なら、ティナちゃん、と親しげに名前を呼ぶスプリアを、少女は鬱陶しそうな目で見ている辺り、どうやら想いは一方通行のようだが。

 何やら、話が思っていた以上にスケールの大きなものになったな、と思いながら、ティナちゃんと呼ばれた少女にダル絡みするスプリアの様子を伺うのだった。

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