魔術学院に向かって③
「さて、着いたぞ。ここがこの国の王都だ。それでは、手続きをしてくるから手筈通りにな」
俺が最初に流れ着いた街を出ておよそ1週間。
あの街とは比べ物にならないほどの、大層立派な都市へと辿り着く。
王都、というだけはあるな。
「こちらはヴァイゼ魔術学院の学長の客人だ。私は迎えを頼まれたユイ・イサハラ。照合を頼みたい」
ユイが懐から書状を取り出すと、門番にそれを渡して話し込んでいる。
なお、俺は事前に少し離れて黙っているよう言い含められているので、遠目からその様子を見守っているのだが、ただジッとしてるのもヒマだ。
何となく、王都とやらを覆う立派な防壁を眺めてみれば、高さ3メートルは余裕である。
もしかすると4メートルくらいあるかもしれない。
魔物除けだとかなんだとか、色々と意味はあるのだろうが、頑張れば乗り越えられない事も無いなー、という感じ。
もちろん、わざわざそんな事をする意味は無いし、あくまでヒマだから周囲を眺めていたにすぎない。
「ユイ・イサハラ……確かに、通行申請が出ている。連れは問題無いんだな?」
「ああ。多少常識を知らない所はあるが、問題を起こすような者ではない」
「あの魔術学院の長が直々に迎えに行かせるくらいだ。よほど何かがあるんだろうな……よし、これで手続きは終わった。通って良し!」
さほど待たされずに王都入りの手続きを終え、ユイに連れられて王都の門を潜る。
そこには、大きな広い道の先に立派な城が見える、立派な都市の姿があった。
パッと見でわかるくらいに綺麗に区分けされている街並みは、景観を損なわないよう建物の配置が計算されてるんだろうな、というのが何となくわかる。
きっと、この都市を作ったデザイナーはかなりセンスが良かったんだろうな。
「ふふ、凄すぎて声も出ないか?」
なぜかドヤ顔で横を歩くユイだったが、なぜこんなに得意げなのかはよくわからない。
まあ、可愛いから眼福ではあるが。
「綺麗な街並みだと思うぜ。正直、圧倒された」
「そうだろう。王都は大通りを中心として、4つの区画に分かれているんだ。北に王城を含む貴族区、西に魔術学院のある商業区、東は生産職の人間のいる工業区、南に一般市民が住む居住区がある。他にも……」
俺が素直な感想を口にすれば、ユイは気分を良くしたのか、あれこれと王都について語り出す。
まあ、その中で俺が理解できたのは、北の方に偉い人が集まってて、目的地は西、東と南はとりあえず用事が無さそう、って感じ。
その他の説明は全く興味が無かったので、適当に返事をしながら聞き流した。
「よし、では早速学院に行こう」
俺が適当な相槌を打っていたのにも気付かず、ひとしきり説明をして満足したのか、ユイは足取りも軽く学院へ向かって歩き出す。
俺もその後に続いて西の商業区を歩いていく。
商業区、といっても区の中でもある程度区分けはされているようで、食料品なら食料品、道具なら道具、といった感じで纏まっている。
これなら目的の店も見つけやすそうでいいゾーニングだと言えるな。
1人でここに来ても、早々迷う事は無いだろう。
「ここがヴァイゼ魔術学院だ。大きいだろう?」
そうして、西区の奥へと歩いていくと、広大な敷地を塀で囲った学院の威容を目にする。
校舎らしき建物の他に、恐らくは地球で言う体育館的なポジの建物なんかがあるのが外からでも見て取れた。
全身を鎧で覆った門衛もおり、警備状況は万全、といった様相だ。
「ユイ・イサハラ。学院長の命を達成して帰ってきた」
そんな中、ユイが全身鎧の門衛の胸の辺りに手の平を押し当てると、金属でできた門がひとりでに開く。
恐らく、これも魔術だの魔法だのという類のものだろう。
「もしかして、それって中に人入ってない?」
俺が全身鎧の門衛を指差すと、ユイは無言で頷く。
その後、サッサとこっちに来いと手招きをされたので、俺はそろそろと門を潜る。
すると、ひとりでに門は重苦しい音を立てて閉じられた。
『これは非常に興味深い。ぜひとも解体して調べてみたいね』
相棒の方も魔術だか魔法だかに触れられるとあって、なかなかにテンションが上がっていらしゃる。
とはいえ、多分解体したら怒られるだろうから、それは勘弁してくれ、とシオンの入っているペンダントトップを軽く叩く。
人がいる時に意思疎通をするために、どういう触り方をしたらどういう意味、というのを旅しながら色々と話し合ったのだ。
ちなみに、今のはうるせえから黙ってろ、である。
「このまま学院長室に案内する。私が一緒に行くのはそこまでだ」
「了解。よろしく頼む」
もう別れの時間が近いぞ、と言外に伝えてから、ユイはすいすいと学院の中を歩いていく。
それにくっついて歩いていくうち、校舎の中に入り、長い廊下をグネグネと曲がりながら移動していくのだが、これは恐らく意図的に迷わせるための作りだろうな、と推測。
確か、秘匿性の高い情報を扱うような建物なんかは、地球でも意図的に道を覚えにくいように作っているとか聞いた事があったりするような気がする。
うろ覚えだけど。
「ここだ」
コンコン、とユイが学院長室の扉をノック。
特に返事が聞こえる事は無かったが、少しだけ扉が開く。
「学院長、ユイ・イサハラです。客人の迎えから、ただいま戻りました」
「長い間ご苦労様。あとは戻っていいわ」
少しだけ開いた扉の隙間から女性の声が聞こえ、ユイを労ってから戻っていいと声がかかったため、彼女は俺に小さく会釈をして、元来た道を戻って行った。
「入ってらっしゃい。相棒の身体、復元したいでしょう?」
すぐに入っていいものどうか、俺が行動を決めあぐねていると、扉の隙間から煽るように声がかかる。
そうだ。
もうここまで来たんだ。
敵地のド真ん中かもしれねー場所に。
これ以上、変な警戒は不要だろう。
決心して、俺は扉に手をかけ、グッと押し開けて室内に踏み込むのだった。
次回、いよいよ学院長とご対面。




