古き者の監視者③
「良く眠れたみたいね」
「おかげ様でな」
ヴァイゼ魔術学院に到着して翌日。
俺は学院長室で再度スプリアと向き合っていた。
なお、昨日のベッドはめっちゃ寝心地が良かったので、普通に熟睡できた。
「それじゃ、まずはこれ」
そう言って、スプリアが俺の方に押し出すようにしてテーブルに置いたのは、1冊の手帳。
いわゆる、生徒手帳ってヤツだろうか?
「これがヴァイゼ魔術学院の生徒である証明になるわ」
「ふーん」
とりあえず、手帳を手に取ってみる。
サイズとしてはスマホくらいの手帳だ。
一番最初のページを開いてみれば、そこにはどうやったのか、俺の顔写真が映っていた。
名前もちゃんとフルネームで記載されてるし、ちゃんと本人確認書類になるな。
他のページを見ると、規則云々が細々と記載されていたので、思わず顔をしかめて手帳を閉じてしまう。
こういうのはシオンの領分なんだよなあ。
「これが制服ね」
続いて、折り畳まれた制服をスプリアがテーブルに置く。
至って普通の、ブレザータイプの制服のみたいだ。
昨日は他の生徒を見ずに来たから、男子の制服は知らなかったけど、男子は普通なんだなーという感想。
女子はやたら胸強調するデザインなのに。
「あっちで着替えてみて。サイズは合ってると思うけれど」
「ん、ちょっと待ってろ」
一度制服を受け取り、隣の部屋で着替えてから学院長室へ戻る。
スプリアの言う通り、制服のサイズはピッタリで、窮屈さも無い。
かなり動きやすく、通気性も良さそうだ。
今までの安物の服とは快適度が段違いである。
「いい感じだ」
元いた場所に戻りつつ、スプリアに声をかけると、彼女は一つ頷く。
「その制服はある程度の温度調節を勝手にやってくれたり、自動修復機能があるわ」
「さすが魔法のある世界。便利機能モリモリだな」
説明を受けてみれば、その機能は魔法がある世界のものだなあ、という感じ。
自動修復機能がどの程度かは不明だが、手入れがあまり必要無いというのはありがたい。
「それじゃ、遺骸核を見せて。心配しなくても、変な事はしないわ。あなたもこれから遺骸核を使っていく上で、その機能とかは知っておきたいでしょう?」
遺骸核を見せろ、と言われた瞬間、俺は思わずスプリアを睨み付けてしまったのだが、その後に続く説明に、どこか納得してしまう。
今までロクに知識も無く、直感だけで扱っていた道具の使い方を知れるかもしれない、となれば、今後の事も考えるとスプリアの言う事はもっともだ。
「……絶対に中のシオンを傷付けるような真似はすんなよ」
とはいえ、中にいる相棒が大切な事に変わりは無いので、くれぐれも丁重に扱うよう、圧をかけておく。
神様相手に、俺の威圧がどれほどの効果を持つかは甚だ不明だが。
俺がネックレスになった遺骸核を外してスプリアに渡すと、彼女はそれを持ち上げて色々な角度から見たり、空いている方の手を翳したりして、色々と調べているようだった。
どのくらいの時間、そうしていただろう。
多分、実際には長くても10分くらいなものだったろうけど、待っている間は30分以上かかったような気がするな。
「はい、とりあえず返すわ」
解析とやらが終わったのか、スプリアが遺骸核を返してきたので、俺は再度ネックレスを首にかけた。
シオン、大丈夫だよな?
『やれやれ、全く心配性だね、君は』
今まで、脳内に直接声をかけてきている感じだったはずの、シオンの喋りが、普通に外部出力で音を出している。
すわ、何かしたのか、とスプリアを見れば、彼女は苦笑いを浮かべていた。
「少し状態を整えてあげただけだから、そんなにカリカリしないで。細かい話は今からするから」
「……悪い」
どうも、シオンの事となると熱くなりがちだ。
異世界に来て初日に肉体を失うような事件があったせいか、ちょっと神経質になりすぎていたかもしれん。
「で、その遺骸核の話に戻すけど、今は力の大部分を失ってる……ううん、封じられてる状態ね」
力の大部分が封じられている、と。
それにしては、随分ととんでもない力を持ってるように感じたが。
変身前は歯が立たなかった魚野郎を、ブチ切れていたとはいえ瞬殺だったくらいだし。
「知らないとは思うけれど、遺骸核ってどういう物か、知識はあるかしら?」
念のため、と確認された質問だったが、知識なんぞ何一つ持っていないので、俺は無言で首を横に振った。
ただでさえ小難しい話は苦手なんだ。
「遺骸核っていうのは、過去の力ある存在が死んで、その身体……要するに死骸が力を持った物を指すの」
「じゃあ俺の持ってるコレも、元を辿れば何かの死体、って事か?」
「そういう事ね。もっとも、遺骸核となった時点でかなり変質する事が多いから、その状態から元の存在を割り出すのは不可能に近いけれどね」
変質、か。
確かに、元を辿ればこのネックレスの形状も、最初は謎の光る石って感じだった。
もしかすると、俺という持ち主に合わせて変質した、って事なんだろうか。
「そんなわけで、遺骸核の能力って、元になった力ある存在の影響を大きく受けるの。どういった存在が元になっていたかまでは読み取れなかったけれど、あなたのそれが、相当に力のある遺骸核で、今は主要な機能の大半を失っている、という事だけはわかったわ」
「機能の大半、ってどのくらいだ?」
「稼働率で言えば1割あるかどうかくらいね。多分だけど、中にあなたの友人の魂を入れたせいで、部分的に力の流れに影響が出ていたみたい。だから、私はその中の流れをいい具合に調節してあげただけよ」
稼働率1割で、あれだけのパワーが出るのか。
これはまたとんでもない代物だ。
『確かに、言われてみれば僕の状態も少し安定した気がするよ』
今まで黙っていたシオンが、普通に会話に参加してくるの、事情を知らん人からしたらだいぶホラーだな。
迂闊に人前で話せなさそうだ。
「多分、今までのやり取りの仕方もできると思うわよ? こうして実際に声が出た方が便利な事もあるでしょうけれど」
『ふむ……こう、だろうか? カイト、聞こえているかい?』
今までのやり取りもできる、と言われて、シオンがやり方を変えたのだろう。
今度は前までと同じ、直接脳内に語り掛けてくる感じ。
「上手く使い分けられるみたいね。ちなみに、私だからあたなたちが何かやり取りをしていると感じ取れるけれど、基本的には他の人間にはバレないと思ってもらっていいわ。中には感じ取る人も何人かいるかもしれないけれどね」
色々と理解が進んだのはありがたいが、こうして小難しい話ばっかしてると、脳みそ沸騰しそうになるんだよな。
ともあれ、相棒の肉声を再度聞けたのは、俺にとってはかなり嬉しい事だ。
失われた機能とやらがどうやったら戻るかは不明だが、その辺りも今後調べていくといいのかもしれん。
とりあえず、早く小難しい話が終わらないかなー、と思いながら、俺は引き続きスプリアと会話を続けていくのだった。




