第84章 あの果てしない荒漠へ、漕ぎ出そうか
リヴァイアサン尾部の砲口が、猛然と圧縮した空気を炸裂させて噴き出した。そのおかげで速度はさらに増し、リヴァイアサンはきわめて速い勢いで蠕虫の巨大な口のなかへと突っ込んでいった。
蠕虫の口のなかへと飛び込んだリヴァイアサンは立ち止まらず、さらに加速して突き進み、三メートルほどの距離を進み入ってから、ようやくリンは安堵した。
どうやら成功したらしい。
もとより疾走の最中にあったリヴァイアサンが、蠕虫の正面攻撃をかわせるはずもなかった。もしあのとき向きを変えるか後退しようとしていれば、おそらく蠕虫に真っ二つに噛みちぎられていただろう。
しかし蠕虫の口のなかへまっすぐ突っ込めば、生き延びられる可能性はあった。
蠕虫の口には、前端のわずか一メートルほどの位置にしか、大型で極厚の鋸歯牙がびっしりと生えていない。これらの鋸歯牙と彎鉤牙は互いに連携し、彎鉤牙が獲物を捕まえる役目を負い、鋸歯牙は獲物を噛み砕くためのものだ。だから、やつが口を閉じる前にその牙の生えた区間を突き抜けて、より深い体内へと進みさえすれば、リヴァイアサンに危険はなかった……
もちろん、あのときは状況があまりに切迫していて、リンはほんの一瞥しただけだったから、蠕虫の体内にもっと多くの、獲物をすり潰すための牙があるかどうかまでは確認できなかった。
しかし回避ができない以上、賭けてみるだけの価値はあった。しかも、どうやら賭けに勝ったらしい。
この蠕虫の口はまったくもって大きい。リヴァイアサンは三メートルあまりあるが、高さはさほどなく、脚を立ててもわずか一メートルほどの高さしかなかったから、潜り込めたのだ。
リヴァイアサンは提灯を伸ばして照らしてみた。今いる位置はおそらく蠕虫の体内の食道にあたる場所で、ここはいたるところ暗紅色の肉の壁だらけだった。
今や、この蠕虫はむしろリヴァイアサンを守る「護衛」と化していた。あのアステカ虫どもはここまでは追ってこられまい。やつらはきっとみな撤退したに違いない。さもなければ、蠕虫に食い尽くされるのを待つばかりだからだ。
だが、いつになったら外へ出られるのかは、問題だった。もっとも、出ること自体は問題ではなかった。蠕虫の体内は外側のように分厚い重甲で覆われてはいないから、今すぐにこいつを殺すのはおそらく簡単なことだった。
しかし、その前に、リンは今の状況を少し考えるべきだった。あの数匹の、逃げた突刺者たちはみな捕まって殺されてしまった。どうやら尖柱林はたしかにアステカ虫の縄張りであり、やつらは白昼こそ身を潜めるが、夜になると出てきて侵入者を攻撃するらしい。
やつらに打ち勝つのは、おそらくきわめて難しいだろう……アステカ虫の数、兵種の種類、さらには進化の速度さえもが、一つの謎だった。しかし、もし海水が元に戻っていなければ、リンは必ずここで生き、やつらに打ち勝たねばならなかった。
それに、リンはたとえこの蠕虫を殺して出て行くにしても、そいつが今どの位置にいるのか、周りに他の蠕虫がいないかどうかもわからなかった。
……どうしたものだろう?
リンがそう考えているとき、あたりから突然、「グゥ……」という音が伝わってきて、蠕虫の食道が忽ち蠕動をはじめた。
これは……嚥下反応か?
食道が強力な力でリヴァイアサンを圧し締めつけ、蠕虫の体内のより深みへと送り込んでいく。
リンは抗うことができなかった。ここで反撃すれば、蠕虫はリヴァイアサンを吐き出してから噛み砕いてしまうかもしれない。それでは面白くなくなってしまう。
食道の圧搾につれて、リンはさらに深い体内へと送り込まれた。だが、どれほど深くなろうと、リンが周囲の環境を見るかぎり、そこはみな食道と寸分違わぬ肉の壁だった……
実際のところ、多くの蠕虫はそのようなものだ。一本の頭から尾までの食道があり、食べ入れた餌はすべて食道のなかで処理される。この蠕虫がこれほど巨大に進化したとは思いもよらなかったが、内部構造もまた、あの小さな蠕虫どもと変わらなかった。
しかし、リンがさらに驚かされたのは、この蠕虫の長さだった。リヴァイアサンは蠕動する食道に伴われて深みへとかなりのあいだ移動してから、ようやく止まった。そいつの体躯はゆうに十メートルを超え、二十メートルもあるかもしれなかった。
やつらはまさか、アステカ虫を捕食して育ったのか? だが、尖柱林に蠕虫が出没しないところを見ると、蠕虫は一般に尖柱林へは入らず、アステカ虫も海岸のほうまでは来ない。リンが前回、蠕虫に追われて尖柱林へ入り込んだとき、やつらは入ろうにも入れなかったのではなく、入りたくなかったのだろう。
なぜか? アステカ虫がいるからで、やつらは蠕虫と一種の対立関係にある可能性が高い。ただ相手の縄張りに侵入したときに、互いに相手を攻撃するのだろう……
それならば、蠕虫はいったい何を食べているのだろう? やつらは植物を栽培することもできぬはずだ。荒蕪たる絶壁の岩地にいる蠕虫がそれほど巨大に育ち、しかも数も多いなどとは、リンには想像も難かった。まさか、いつも津波があって魚や蠍を打ち上げてきて、やつらに食わせてくれるわけでもあるまいに。
陸の生物の謎は、じつに多いな……
蠕虫はリヴァイアサンをある位置まで圧し込むと、そのまま動きを止めた。リンはここの食道が何かしら粘液を分泌するのに気づいた。おそらく溶解液の類で、「胃酸」とも呼べるものだろう。しかし量はごく少なく、これではリヴァイアサンにほとんど影響はなかった。
つづいて、あたりから一筋の強烈な震動感が伝わってきた。これは食道が蠕動しているのではなかった。リンは蠕虫が地底のなかへと這い戻ったのだと推測した。やつらは普段、みな地底に潜んでいるのかもしれない。
では、今どうするか? リンはまだ本当のところ、よく考えがまとまっていなかった……リヴァイアサンが今、蠕虫の一体どこにいるのかわからなかったからだ。もしリヴァイアサンが蠕虫を殺し、這い出てきたときに、周りに蠕虫だらけの蠕虫の巣穴があるのを見つけたら、それで終わりだった。
あたりの震動はずっと止まらず、蠕虫はどうやら地底をさらに深くへと進み続けているようだった。
ともあれ、まずは蠕虫の位置を確認しなければならない。だが、どうやって?
あった!
リンは思念のなかを一条の閃光がよぎったかのような感覚を覚えた。尖柱林のなかから、いくつかの信号を受け取ったのだ。リンの、あの巨脈蜻蜓を真似て作り出した「飛行者」たちが、絶えざる反復試験のなかで、ついに一匹、うまく飛び上がったのだった!
しかもやつらは、なんとアステカ虫の攻撃を受けていなかった。小さすぎるために無視されたのだろうか? いずれにせよ、リンはやつらを利用して蠕虫の位置を確認できる。
飛行者は全部で三十匹いる。リンは残りにも、成功したやつに倣って次々に飛び上がらせた。リンはやつらの尾部に大量の発光細胞を生成させた。そうすれば暗黒のなかでも飛行できる。もっとも、やつらは頭部の嗅覚触手に頼って知覚するほうが主だったが。
小さな飛行者たちは尖柱林の上空へと飛んでいった。リンはまるで水のなかを泳いでいるかのような感覚だったが、それよりもずっと軽快で心地よかった。
飛行者たちは尖柱林を飛び過ぎ、絶壁の岩地の上空へと出た。このとき、岩地の上には数個の大きな穴があるだけで、虫も蠕虫の影もなかった。
アステカ虫はやはりみな撤退したのだ。しかし、飛行者たちは感覚によって、蠕虫が今どこにいるかを知ることができる。リンの兵種は完全に別の兵種のいる位置を感じ取ることができ、何の探査にも頼る必要がなかった。
それはまさに岩地の下、リヴァイアサンの感覚のままの坑洞のなかにいて、今のところ蠕虫は動く気配がないようだった。
飛行者を中へ入らせてみようか? いや、もう少し待とう。蠕虫が這い出してくるかどうかを見るのだ。
リンは飛行者たちに翼の羽搏きの頻度を緩めさせた。水のなかで水流に乗って泳ぐのと同じように、飛行者たちは今、海の方角からの気流に乗ってふわりと浮かび、そうすることで飛ぶための養分を大いに節約できた。
飛行者たちは白昼が訪れるまでずっと待って、ようやく蠕虫が活動を始めたのを感じ取った。リヴァイアサンも再び、あたりの食道が震動しはじめるのを感じた。
しかし蠕虫は地面を這い出てはこなかった。ずっと地底を移動している。飛行者たちも蠕虫の移動する方角へと飛んでいった。
蠕虫はずっと北の方角へと移動し、地底で尖柱林の全体を突っ切っていった。そのあいだ、決して這い出てくることはなく、尖柱林を離れ、砂漠の位置までたどり着いてから、ようやく止まった。
リヴァイアサンもこのとき再び一陣の震動を感じた。しかし蠕虫の位置は変わらなかった。これはすなわち……
飛行者たちの注視のもと、蠕虫は砂地のなかから這い出し、あの途方もなく巨大な頭を露わにした。
周囲の砂地でも、なお二匹の蠕虫が這い出してきた。どうやらこいつは、単独でここに来たわけではないらしい。
やつらは砂漠で何をしようというのか? 飛行者たちはこれらの蠕虫の頭上を飛び回り、リンはこの問題に強い好奇心を抱いた。やつらはまさか、狩りに来たのだろうか? 砂漠のなかに、いったい何の食べ物があるというのか?
突然、蠕虫たちはみな砂漠の方角へと向き直り、それから移動を開始した。
おかしい。やつらは砂漠のなかへ進むつもりか?
蠕虫たちはただ頭のごく一部だけを外に覗かせ、果てしない灼熱の砂海のなかへと進んでいく。
飛行者たちはただちに追尾した。リンはやつらがいったい何をしようとしているのか、ひどく奇妙に思った。この、ひと筋の水分もない果てしない荒漠のなかへ進んでいくというのか?
それとも……この荒漠のなかには、何か秘密が隠されているのだろうか?
リヴァイアサンは今、這い出ることができない。ここには三匹の蠕虫がいるからだ。リヴァイアサンはひとまず蠕虫の体内に留まり、やつらに伴って、共にこの果てしない荒漠のなかへと漕ぎ出していくほかなかった……




