第77章 新世界の白昼
緑色の巨大な尖柱が、隙間なく整然とリンの前に立ち並んでいた。そのあいだの隙間は、ちょうどリヴァイアサンが通れるほどで、蠕虫の大きな頭は入れそうになかった。
リンはほとんど立ち止まらず、残った輸送者とリヴァイアサンを最高速度で巨柱のあいだへと滑り込ませた。そのとき、リヴァイアサンの背の眼球触手が、背後を一目、振り返った。
立ち込める濃霧のなかから、突然、一匹の巨大な蠕虫が猛然と飛び出してきた。やつは巨大な口を開け、リヴァイアサンめがけて突っ込んできたが、途中で頭を尖柱のあいだにがっちりと挟まれてしまった。
リヴァイアサンは小さな眼球を一つ落として観察を続けさせ、それから輸送者たちと共に尖柱の林の奥深くへと走り込んでいった。
リンは今回、改めてこの蠕虫を仔細に観察することができた。いったいこれは何の生物なのか? やつは必死に身をよじり、縮み戻ろうとしているが、甲羅の逆鉤がそれを阻んでいた。
この生物はもしかすると海から上がってきたのではなく、元来この陸地の生物なのかもしれない。
藻掻く蠕虫を見つめながら、リンには多くの疑問が浮かんだ。やつらの数はいったいどれほどなのか? なぜ自分の匂いを隠す能力を持っているのか? そいつ自身の全長はいったいどれほどなのか? ひどく敏捷なようだが……
これらの疑問は、リンが蠕虫を一匹殺せる力を手に入れるまでは、解き明かせそうになかった。
あの蠕虫は、長いあいだ藻掻いた末にようやく体を引っ込め、濃霧のなかへと退いていった。
……あきらめたのか? 眼球はずっと濃霧のなかを見つめていたが、蠕虫が二度と飛び出してこないのを確かめて、リンはようやくいくぶん安堵した。
リヴァイアサンと輸送者は今、「針柱の林」の奥深くにいた。ここらはあたり一面、高さは優に百メートル近く、直径は三メートル以上もある巨大な尖柱だらけで、その表面は一様に緑色の層で覆われている。注意して見ると、この緑の層は無数の柔らかく平たいもので構成されていた。
これはきっと植物の類の生物だ。しかしリンがこれまで見てきた陸の植物は、せいぜい一メートルの高さで、しかもひどく細かった。ここのものは、こんなにも巨大に育つものなのか?
いや、あの尖柱はもともとは何本かのとても高い巨石だったのかもしれない。これらの植物はただその上に貼りついているだけで、絶えず増殖して巨石全体を覆いつくし、さらに溶解液などを用いた方法で長期にわたって修飾を加え、巨石をこうした枝分かれつきの尖柱に造り変えたのだろう。
だが……この環境も、生物も、リンは一度も見たことがなかった。ここはまったくもって一つの新たな世界だ。
今や、もとは魚の死体と蠍で溢れかえっていた岩地は、すでに蠕虫どもに占拠されてしまい、リンが戻ることは不可能だった。そのうえ、海水がいつ元に戻るのかもわからない以上、この大陸の上で新たな生活を始めねばならなかった……
どんな生物がいるのかもわからず、どんな危険があるのかもわからない。リンだって、陸上の生活に本当の意味で適応したことはなかったのだ。
しかも今、輸送者はわずかに二匹しか残っていなかった。ほかはみな、蠕虫の攻撃のなかで命を落としたのだ……
天地の災厄に直面し、最後に残ったのはこれだけなのか?
他の生物に比べれば、損失はたいしたことではないかもしれない。しかし、リンはみずから多くの過ちを犯したと思っていた。最大の過ちは、探索の距離があまりに短すぎたことだ。
もしもっと早くに北の大陸の存在を探索し当てていれば、損失はずっと小さく済んだだろう。
探索の精神は途絶えさせてはならない……だが、基地を築くこともまた、とても必要だった。
しかし、損失は養分にすぎず、何も大したことはない。進化の情報さえ、研究の記憶さえきちんと保存されていれば、それでいいのだ。
リンは再びどこまでも巨大に育っていくのだ。この新たな大陸で! 今度こそ、空へ向けてさえも発展しなければ!
そこまで考えて、リンは思わず上空を見上げた。するとそのとき、突然、一匹の飛翔する生物が現れ、極めて速い速度で尖柱の林のあいだを掠め通り、はるか彼方へと飛び去っていった。
飛ぶ生物だと?
リンは一瞬にしてそれに心を奪われた。だがこの生物の移動速度はあまりに速く、たちまち尖柱の林のなかへと消え失せてしまった。
その逃走を、リンは残念には思わなかった。むしろ、少なからぬ自信が湧いてきた。どうやら空に浮かべるのは水母だけではないらしい。もしやつらの数が多ければ、リンもいずれ必ず一匹は捕まえられるだろう。
さて、ここは光の具合があまり良くない。まずはもう少し開けた場所へ行き、輸送者を展開し、緑の絨毯を敷きはじめよう。
尖柱の林の地面は、一種のきわめて柔らかな小さな粒状の成分でできており、そのあいだには砂礫やさまざまな植物の砕屑といった物質が混じり合っている。これを形容する言葉がある――「泥」。
なかなか奇抜なもののようだ。もし水が沁み込めば、風で吹き飛ばされにくくなる。
リヴァイアサンは二匹の輸送者を連れ、尖柱の林のなかを歩いていった。リンにはどこへ向かうべきかわからず、だからただ、崖とは反対の方角へと進んでいるだけだった。
しばらくして、リンはようやくわずかに開けた一画を見つけた。ここは直径が六メートルほどもある場所だが、地面もやはり泥ではなく、何種類かの黄色い砂礫だった。白昼の光が砂の上を照らし、反射してまばゆい輝きを放っている。
ここの光は、とても豊かだ。
陸の上では、砂礫はどうやら干涸びの象徴らしい。まるで一億年前にリンが陸へ踏み出したときのように、そのときもいたるところほとんどがこの種の砂で、だからこそ上に生物がいなかったのだろうか?
泥の上には、水分が数多く蓄えられている。陸の上に出てくれば、これらの水はどれもきわめて重要だ。なにしろ水がなければ細胞は動けなくなる。
リンは気にしなかった。なにしろ別の場所から水を取れるし、動きの遅い植物とは違うのだから。
リンは輸送者を砂礫の中心まで歩かせた。輸送者は砂浜に這いつくばって付属肢を外し、それと同時にみずから、ゆっくりと下半身の外殻を溶かしはじめた。
これはリンが考え出した、陸上での増殖法だった。甲羅を溶かすときに素早く細胞を外へと積み重ね、絶えず分裂させ増殖させていく。陸の上である以上、最外層の細胞は水分の流出を防ぐ能力を備えねばならないが、それでも増殖に適するだけの十分な柔らかさも必要だった。一帯のすべてを敷き終えてから、やつらは改めて透明な硬い殻の製造を開始する。
この過程にはいくらかの危険があった。攻撃を受けやすいからだ。リンはまだ、ここにどんな危険な生物がいるのかを知らなかった。
もっとも、今のところ、リンはまだ植物以外に陸上の生物というものを何も見かけていなかった。
この輸送者は体の四方へと緑の絨毯を拡散させはじめた。やつらはゆっくりと増え広がり、砂粒の上を覆っていく。陸の緑の絨毯は、わずか二層の比較的薄い透明な殻だけが、内部の水分と光合成細胞を守っている。
緑の絨毯の拡散につれて、輸送者の体はゆっくりと萎んでいき、ついにはその体は、この直径六メートルの緑の絨毯を覆い尽くした後に完全に消え失せた。一般に、輸送者一匹が製造できる緑の絨毯はこの程度の範囲にとどまるものでは決してないが、なにしろここにはそれだけの場所しかなかったから、リンは細胞たちに無理に詰め合わさせ、緑の絨毯をいくぶん厚めに造った。あれほど目立つ輸送者を抱えたままにしておくよりは、一刻も早くそれを緑の絨毯に変えてしまいたかった。
通常、あの手の強力な捕食者は植物を無視する。逆に、植物を好んで食べる連中も殺戮はしてこない。食植生物にはたいてい攻撃力がなく、やつらの顎では緑の絨毯の硬い殻は噛み砕けない。だから、緑の絨毯を早く敷き終えることこそが、生存の保障でもあった。
この一画を占め終えると、リヴァイアサンはもう一匹の輸送者を連れて、尖柱の林のさらに奥深くへと向かった。
尖柱の林はかなり広大なようだった。しかしそれは、リヴァイアサンが陸の上を水のなかよりずっと遅く歩いているせいでもあった。リヴァイアサンは林のなかを長いあいだ歩き続けたが、さきほどのような空地には二度と出会わなかった。
奇妙なことに、リンは相変わらず、活動している生物を何も目にしていなかった。
陸の上には、まさか植物しかいないのか? だが、ブロントスコルピオのような生物は、少し努力さえすれば完全に陸上で生活できるはずだった。もっとも、やつらは植物を食べないようだが。
あの蠕虫どもは、いったい陸の生物なのか、それとも海の生物なのか? いずれにせよ、リンはいつか必ず戻っていって、一匹殺して研究してみせるつもりだった。
白昼が去ろうとし、光が暗くなるにつれ、リヴァイアサンは足を止めた。あの巨大な尖柱を見つめながら、リンは、緑の絨毯をそのままその上へと這わせて覆っていこうかという考えを起こした。
だが、そんな高いところまで覆って……何か問題が起きないだろうか? 受ける圧力が大きすぎれば、殻が割れるかもしれない。もし普通の植物のように殻を作らなかったら? そうすれば他の生物に食い荒らされてしまうし、また別の防御手段も数多く講じなければならず、とても面倒に思えた……
もっとも、もしこの陸地に本当に生物が少なければ……試してみてもいいかもしれない。
リンがまさにそう考えたとき、リヴァイアサンの目の前の地面から、突然、一匹の小さな生物が這い出してきた。そいつは体が扁平で、体の周りには六本の節足が生えており、頭部にはさらに触角を備えている。
この生物は這い出してくると、極めて速い速度で遠くへと走り去り、すぐに見えなくなってしまった。
なんだ、小さな生物ならいるのか?
リンは追いかけようとはせず、リヴァイアサンと輸送者を一本の尖柱の下へと寄りかからせた。リンは暗夜のなか、見知らぬ場所で行動するつもりはなかった。夜が過ぎるのを待たねばならない。
白昼の光が完全に消え失せ、暗黒が訪れたまさにそのとき、あたりの林のあいだから、数多くの奇妙な感覚が伝わってきた……




