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第75章 生還者たちの集結

あまりに惜しい……


爆ぜて砕けた水母が水のなかへ落ちていくのを見ながら、リンはまたしても浮空の研究機会を失ってしまった。今さら、あの熱い水のなかへ水母の破片を拾いに戻ることなどできはしない。


なぜたかが刺し貫かれただけで自殺してしまうのか? リンにはそれらの水母がどうしても理解できなかった。やつらに脳があるのかどうかもわからない。今、あたりにいた他の水母たちも三葉虫を存分に捕まえ終えたのか、続々とここからふわりと漂い去っていった。次にまたやつらに出会うのがいつになるかは、まったく知れなかった。


まあいい、這い登りを続けよう。


今もなお、新たな節足類が海のなかから這い出してきている。だが、その数はますます減っていた。それはすなわち、海のなかがますます熱くなっているということで、やつらは海面を這い出る前に水中で死んでしまっているのだ。


もっとも、空気のほうからは熱さのような感覚はまったく感じられなかった。なぜなのか、リンにはわからない。


白昼が去ろうとするころまでに、リヴァイアサンはついに絶壁の頂上に這い登り、正式に北の陸地の内側へと足を踏み入れた。


崖の上に広がる陸地は、一面の広く平らな岩地で、そのさらに奥まった場所にあの巨大な尖柱の林立する一帯があった。リンは今ではっきりと、あの枝分かれした尖柱の群れを見てとった。それらはひどく密集しており、低いもので十数メートル、高いものにいたっては百メートル以上にもなり、しかも全体が一面の緑に覆われている。


あれは、まさか生物なのだろうか?


そうした考えは一瞬よぎっただけだった。あの尖柱よりも、リンは今、目前のこの開けた岩地の状況のほうがずっと気にかかっていた。


岩地の上には乾かぬ水の痕が一面に広がり、いたるところ魚の死体が散らばっている。その大半は甲冑魚で、やつらは明らかに津波によって打ち上げられたものだ。そして、リンの、今なお生きている三十一の輸送者たちもまた、この岩地の上に散り散りに点在していた。


ここにはある種の特別な臭いが立ち込めている。あれらの死体から生じているものだ。どの種の生物にせよ、その体表には通常、かなり多くの野生細胞が寄生している。この手の細胞は普段は宿主の出す老廃物を少し食べるだけだが、宿主がひとたび死ぬと、抵抗力を失った宿主の細胞を分解しはじめ、この過程で妙なる臭気を発生させるのだ。


それはどうやら「腐敗」と呼ばれるものらしい。


腐敗はかなり大きな臭いを生み出す。一足先に這い登ってきたブロントスコルピオたちは、みな魚の死体の芳香に惹きつけられ、そこらじゅうの美味を飽くことなく貪っている。だから今のところ、リンの輸送者たちに危険はなかった。だが、リンのリヴァイアサンは今はまだ動き出すわけにいかない。まずいくつかの改造を施さねばならないのだ。


リヴァイアサンは陸地に適応した体型に改造されねばならない。内部のいくつかの構造も交換を要する。それは、荷重のかかり方や這い登りのときとは違うからだ。節足の脚の末節は太くされ、末端は大きくされて、リヴァイアサンの体重を支えられるようにされた。


改造が完了したのち、リヴァイアサンは陸地へ向けて移動を開始した。どうしてもあれらの輸送者を見つけ出し、それと同時にやつらにも陸上を移動できる付属肢を取りつけねばならない。


ほどなくして、リヴァイアサンは最初の一匹目の輸送者のもとへと近づいた。ここには小さな厄介ごとがあった。


一頭、体長十メートルはあろうかという巨大なダンクルオステウスの死体が、リンの目の前に横たわっている。一群のブロントスコルピオがこの死体の周りを取り囲み、鋏でその血肉と皮層を引き裂いている最中だった。そして、まさに輸送者はダンクルオステウスの死体の尾の部分にいるのだった。


どうやらダンクルオステウスの臭いがあまりに大きいせいで、蠍どもはその輸送者を気にも留めていないらしい。


だが、リヴァイアサンが近づくと、蠍どもは揃ってくるりと向きを変え、鋏を持ち上げて体を揺さぶりながら、一戦交えんばかりの構えを見せた。もっとも、やつらは別に攻撃を仕掛けたいわけではなく、ただリヴァイアサンを追い払いたいだけなのだ。


リンはやつらを無視し、リヴァイアサンを魚の尾のところまで歩かせると、体内で「付属肢」の製造を開始した。これは実際のところ一種の節足の脚だ。輸送者は体内に養分をぎっしりと詰め込んでおり、外殻を安易に開ければ中身が漏れ出してしまう。だからリヴァイアサンが代わりに製造してやる必要があるのだ。


この「付属肢」と名づけられた脚は、小型の循環系を自前で備えており、身体と連結しなくとも動かすことができる。リヴァイアサンは出来上がった六本の付属節足脚の根元に、粘着力の高い甲質物を塗りつけ、続いてそれをそれぞれ輸送者の体の両側面に貼りつけた。甲質物が硬化すると、この輸送者に眼球を取りつけて作業は完了した。


この脚を取りつける方法を使えば、リンは石ころのような生命のないものでさえ動かすことができる。だが、付属肢自体の作用を持続させられる時間は長くはない。なにしろ、その体内構造の大半は筋肉のたぐいで、蓄えられた養分は多くないからだ。


リヴァイアサンは脚を取りつけ終えた輸送者を連れて立ち去った。さっきまでずっとリンの脅しに構えていた蠍たちは、すぐさま向き直ってダンクルオステウスの死体を食べ続け、リヴァイアサンにも輸送者にもまったく何の興味も示さなかった。


リヴァイアサンと輸送者は死体の山のあいだを歩き、他の輸送者たちを探していく。ここの魚はまったくもってかなりの量で、ブロントスコルピオやいくつかの三葉虫が少なからず上がってきているとはいえ、この魚の数ならおそらく十昼夜かかっても食べ切れはしないだろう。


リンは、何匹かの肉鰭魚がまだ死んですらいないのを見つけた。岩の上で必死に藻掻いている。やつらの鰓はひとたび水を失えば、すぐさま呼吸ができなくなって死に絶える。一方、ブロントスコルピオも鰓を使ってはいるが、やつらには何か他の特別な構造が備わっていて、鰓の水切れを恐れないらしい。


リンはこれまで一度もブロントスコルピオを殺して研究してみたことがなかった。もっとも、あまり必要はないと考えてはいたが。


だが、ここは津波のせいでいたるところに水の痕が溜まってはいるものの、水はいずれは空気によって吹き飛ばされるだろう。そしてそのときまでに、はたして海水の温度が正常に戻っているかどうか。


もし海水がなおも異常なままであれば、陸地の上で生活せざるをえない……


リンはすぐに二匹目の輸送者を見つけた。それは一群の甲冑魚の死体が積み重なった場所にいた。この死体の山は、一種の小型の三葉虫によって占領されている。やつらはとても小さいが、実に数が多い。


リンは相変わらず無視の姿勢をとり、輸送者を連れ出した。


その後の探索の過程でもさしたる危険はなく、リンはすべての輸送者を探し揃え、やつらを、死体のない開けた岩地の一箇所に集中させた。さて、これからどうしようか?


今ごろ、災厄の状況はどうなっているのだろう?


ここは少なくともここ数年は何の震動も起きまいが、リンはあの火球だけがいくらか心配だった。あれは予測のしようがなく、どこから飛んでくるのかもわからなかった……


空の事物は予測のしようがないな……もしあの飛ぶ水母どもを捕まえられればよかったのだが。


だが、やつらはあまりにも逃げ足が速く、おまけに捕まりそうになると自殺までしてしまう。まったくもって厄介だ。


もし海のなかへ戻れば、多くの問題に遭遇するかもしれない。もちろん、陸の上ではまったく新種の問題が起きる可能性もある。ただ紫外線にさえ耐えれば陸で生きていけるという、そんな単純な話ではないのだ。


まずは様子を見よう。海水が元に戻るかどうかもわからない……


リンはまだ、多くの輸送者が陸地の深みへと投げ出されていることを知っていた。おそらくあの尖柱の林のなかだ。みな死に絶えてはいるが、機会があればやはり探しに行かねばならない。


夜の帳が降りるにつれ、リンはいくつかの提灯を製造して群れの周囲に置き、あたりの状況を観察して脅威を防ぐことにした。


夜の風は久方ぶりの寒気を伴って吹き、それはリンにとって、ずいぶん長くこんな心地よさを味わっていなかったと思わせた。遠くの空の下で、無数の光芒が空をよぎっていくのをリンは目の当たりにする。あれは火球なのか?


リンはこのとき、新しい言葉を得た。「流星」。あの流星たちは、こちら側までは飛んではこなかった。


もしあんなものが陸地に落ちてきたら、ひどく危険だな……と考えながら、リンは「試験者」と呼ばれる小型の兵種を何体か組み立てはじめた。やつらの役目は、崖から飛び降りて水中の温度を試験することだ。


試験者から得た情報では、水はあいかわらず熱かった。温度のさらなる上昇こそなかったが、そのなかで生き続けるのは依然として難しい……


なぜ空気は熱くならないのだろう? 水の温度は空気に影響するはずなのに。


原因はわからないが、それがこの上なくありがたいことだとリンは思った。もし空気もまた熱ければ、生き延びられる生物などいなかっただろう。


リンは遠くの流星群を見つめながら、黙って夜の明けるのを待った……


腐った死骸の臭気が、この広大な一帯に立ち込めている。この臭いは食べ物の信号だ。だが、今のリンは養分が十分にあった。わざわざ夜のあいだに蠍どもと死体を奪い合う必要はない。


腐った死体の臭いをひどく嫌う生物もいる。やつらの細胞は、腐生菌どもに敵わないか、あるいは腐生菌の生み出す毒素に抗えないからだ。やつらは死体を嗅ぎつけると、細胞がある種の物質を生み出す。この物質が脳に「吐き気」と呼ばれる情報を感じさせて、生物をして腐った死体に近づいたり、それを食べたりするのを妨げるのだ。


これはなかなか奇妙な感覚だな。やつらの脳ときたら、自力では標的が食べられるかどうかを判断できず、細胞に物質を生み出させて脳に吐き気を催させることではじめて近寄らないようになるとは……


なぜそんな面倒なことをするのか? 食べられないとすでにわかっているのなら、そのまま近寄らなければいいだけではないか。なぜわざわざ吐き気の反応を起こしてエネルギーを浪費する? 生物によっては、吐き気の反応があまりにも強すぎて、体内の消化し終わっていない食べ物を吐き戻してしまうものさえいる。


そんなに無駄にする必要があるのか?


リンは一億年にわたる観察を経て、今や一つの結論に達していた……一個の、通常の生物についていえば、その脳は「意識」の一部に属するものであり、体の他の細胞が何を考えているのかを知らない。もちろん、細胞もその意識が何を考えているのかを知らない。だから細胞は、何種類かの液状の物質を生み出したり、何らかのエネルギーを伝えたりして、さまざまな反応を起こし、それによって「意識」に知らせ、あるいはそれを制御するのだ。そのため、時にひどく愚かな事態が起こる。たとえば腐った死体を避けるだけのために大量の食べ物を浪費する、などといったことだ。


まったくもって厄介だな。これは脳を持つ生物の通病だ。


リンは時に、「脳を一つ組み立ててみようか」という考えを起こすことがある。しかし、そのことを考えればいつも、ただちにその考えを打ち消してしまう。


リンがこうした、いくぶん退屈な思考を続けているうちに、夜はすでに明けようとしていた。遠くの流星群はもう見えなくなっている。


だが、白昼の光が訪れたとき、リンは自らの視界が、夜のときよりもむしろ低くなっているのに気づいた……

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