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四十六億年の物語——星生まれの細胞は、宇宙を奏でる  作者: 位面の行者
太古の海

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第70章 深淵のなかの光の糸

この青い幽光を放つ生物は、絹糸のように海底の砂地を埋め尽くしていた。その光は十分に明るいとはいえなかったが、それでもこの暗黒の海域を照らし出すには足りていた。


これらは何なのだろう? 植物にも似ているが、リンは自ら発光する植物をまだ見たことがなかった。自ら光を放ち、自らそれを吸えば、エネルギーをより無駄なく利用できるとはいっても、それでもやはり損失は生じ、完璧なエネルギー循環を保つことはできないはずだ。


リヴァイアサンもかつてはそうした系統を持っていたが、一億年を経て今では退化し失われてしまった。


だが、やつらが何であれ、その光を利用すれば、あるいはここで緑の絨毯を作れるかもしれない……


もっとも、まずは目の前の厄介ごとを片づけねばならない。


リヴァイアサンは菊石の群れに従って、この光の糸が一面に広がる海底を素早く泳ぎ過ぎていった。あの巨大な巨魚は、なおも後方にぴたりと張りついてくる。と、突然、何匹かの菊石の速度が落ち、やつらはリヴァイアサンの後方に取り残された。


リンはわざわざ眼球をねじ向けて見はしなかったが、それらの菊石がダンクルオステウスに噛み砕かれるときの異様な水流の震動を、はっきりと感じ取ることができた。


ダンクルオステウスの速度は少しも落ちない。やつは今、小さな菊石を数匹平らげたくらいで満足はしまい。菊石たちの速度はどれもいくぶん遅くなったようで、再び数匹が後ろに落ち、ダンクルオステウスに粉々に砕かれた。


ダンクルオステウスの速度では菊石に追いつけないが、持続力の面では、菊石のほうがいささか劣るらしい。「疲労」とは、細胞が速やかに老廃物を排出できず、速やかに養分を供給し、激しい活動による損傷を修復できなくなることから生じる。そして持続力にかけては、リンのリヴァイアサンこそが最も完璧に進化した一面だった。体内に養分が蓄えられているかぎり、決して力尽きることはない。


菊石の群れは、体力のなさゆえに徐々に崩壊し瓦解しはじめた。ほぼ大半の菊石の遊泳速度は遅くなるばかりだ。そしてそのとき、あの直径二メートルもある巨大な菊石が突然、向きを変えた。殻の蓋を開け放ち、その中から数十本もの触手を伸ばし、どうやら、追ってくるダンクルオステウスに正面から立ち向かう構えらしい。


菊石がそんな挙に出るとは?


ダンクルオステウスは菊石が大きかろうが小さかろうがお構いなしだ。やつはまっすぐに突進し、強力な力を持つ巨大な口を開けて、菊石の外殻に噛みついた。


あれほど堅い石のような硬殻にも、たちまち大きく亀裂が走る。菊石の無数の触手が同時にダンクルオステウスの頭部に絡みつき、主に鰓の部分を攻撃しはじめた。


ダンクルオステウスの鰓は閉じられている。当然、やつは弱点を守るすべを持っているのだ。菊石がしようとしているのは、その鰓をこじ開け、内部の酸素吸収構造を破壊することだった。


これは持久戦になるかに見えた。だが、ダンクルオステウスの顎の圧力の下で、菊石の身には放射状に亀裂が全身へと広がっていく。菊石の頭部は外界には伸びておらず、触手だけが外で攻撃しているのだが、この圧力の下では、内部の器官も少なからず損傷を受けているようだった。鰓にしっかりと取りついていた触手も、力を失いはじめている。


二メートル対七メートル。やつはよくやっているが、結局、敵わないのか?


ダンクルオステウスの口は、菊石のような高硬度の生物に向けて特化された進化を遂げている。これはどうやら「天敵」という言葉で形容できるものだった。


周囲の小さな菊石たちはとうに影も形もなく逃げ去っている。この巨大菊石は、たとえ敗れようとも、仲間たちのために命を勝ち取ったのだ。


リヴァイアサンはそのあいだずっと、遠くない場所でこの二匹の争いをじっと観察していた。ダンクルオステウスの速度ではリヴァイアサンに追いつけないから、リンが不安に思うことは何もなかった。


ダンクルオステウスはついに菊石の殻を粉砕した。一般の生物はものを食べる際に殻を食べはしないが、ダンクルオステウスは肉と殻を一緒くたに噛み砕いて呑み込んでしまう。


しきりに菊石を噛み喰らっているダンクルオステウスを見つめながら、リンはふと、ある考えを起こした。


攻撃をしかけてみよう。何しろ今のところ目にした最大の生物だ。倒せばきっと面白かろう。


ただの面白さか? 他にも目的があるはずだ……


たしかに、リンはここに緑の絨毯を作るにしても、まずこの一帯の発光する絹糸が一体どのくらいの範囲に広がっているのかを確認する必要がある。


そんなことはどうでもいい。リンはリヴァイアサンのなかでいくつか使えそうな兵種を探した。リヴァイアサンがその長い歴史のなかで自分より大きな生物を攻撃したことは極めてまれだとわかる。たしかに、さほど必要はなかった。半分程度の大きさでも、長期間の養分を十分に維持できるからだ。そのためリヴァイアサンには追い払い用の兵種がいくつかあるだけで、大型生物を直接攻撃するための兵種はほとんどなかった。


進化そのものは見事だが、時にあまりに単一的すぎて、完璧とはいえないな。


そう考えつつ、リンは直接十数体の粉砕者を製造し、ダンクルオステウスの外皮を攻撃に向かわせた。


ダンクルオステウスも他の大型生物と同じで、最初は粉砕者をまったく気にも留めない。粉砕者がその表皮を攻撃しはじめて、やっと反応した。


ダンクルオステウスが勢いよく身をくねらせると、その巨大な体躯が生み出す水流によって、粉砕者のうち数体が瞬時に遠くへと押し流され、何度も回転してからようやく止まった。中には海底に生えたあの発光する絹糸に衝突したものもある。


ダンクルオステウスは頭を巡らせてあたりを見回し、何が自分を攻撃しているのかを探り出そうとした。だがその視力は、このかすかな幽光だけが頼りの海底では、粉砕者ほどの小さな生物を見分けられそうになかった。しかもやつは今回の攻撃と、遠くにいるリヴァイアサンとを結びつけて考えはしなかった。それで、そのまま向き直ると、まだ食べ終わっていない菊石を食べ続けた。


やはり、あれほどの巨体には通常の戦術は通じないのか? 殺戮者を使うべきか? だが、なぜかわからないが、リンは毒のような戦術を使うのをあまり好まなかった。敵は直接破壊するほうが好きなのだ。


リンはまず、リヴァイアサンにそれらの粉砕者を回収させようとした。


そのとき、リンの思考に突然、異様な感覚が現れた。何体かの粉砕者は戻ってきた。しかし、何体かは身動きがとれず、何かに絡め取られてしまっている。


リンは眼球を一つ放ち、それらの粉砕者の方角へ向かって見やった。すると、これらの粉砕者たちはあの発光する光の糸にぐるぐる巻きにされている。この糸は粉砕者たちの体の上で絶えず伸び広がり、ついには一つの発光する糸の玉を形成して、粉砕者を完全にその内側に包み込んでしまった。


粉砕者には眼球がついていなかったが、リンはやつらがその中で溶けてしまったかのように、外皮から始まって一個一個細胞を殺され、ついには全躯へと至るのを感じることができた。


この奇妙な光の糸に、そんな能力があるというのか?


リンはいくらか奇妙に思った。リヴァイアサンをそちらへ寄せて見ようかと思った矢先、付近から突然、強烈な水流が湧き起こった。


リヴァイアサンはただちに高速で後退する。次の一瞬、ダンクルオステウスの両顎が、先ほどまでリヴァイアサンがいた位置で、激しく噛み合わされた。


もう少しで真っ二つに噛み砕かれるところだった……


そのとき、ダンクルオステウスが再び頭を振って激しく噛みついてきた。だが、やつはすでに不意打ちの優位を失っていた。リンはさらにすばやくリヴァイアサンを十数メートルも泳がせ、ダンクルオステウスが追ってこないのを見てとってから、ようやく安心して、いったい何が起きたのかを観察した。


菊石はダンクルオステウスに半分まで喰われ、残った半分の残骸が海底の光の糸の上に落ちていた。そして光の糸にぐるりと包み込まれている。ダンクルオステウスはあの糸の危険を知っているらしく、その菊石の破片は諦め、代わりにリヴァイアサンを襲撃してきたのだ。


動きは緩慢だが、ダンクルオステウスの急襲能力は心底強力だ。そいつが接近するまで、リンは水流の異常を感じられなかったし、臭いはまったくしなかった。リンには、やつが一体どうやって、口いっぱいの菊石の内臓の臭いを消したのか見当もつかないが、おそらくこうした臭いが水中にあまりにも濃く拡散しすぎて、リンが気づけなかったのかもしれない。


今となっては、ダンクルオステウスもリヴァイアサンに追いつけないと悟ったらしく、しかもついさっき相当に喰いまくっていたから、攻撃を続けるのを諦め、向きを変えて泳ぎ去っていった。


リンは基本的に、自分を攻撃した生物を見逃したりはしない。しかし、ここでダンクルオステウスを殺したとしても、その死体は海底に落ちて、あの光の糸どもに先を越されて包み込まれ分解されてしまうだろう。それでは何の意味もなかった。


ああやってリヴァイアサンを一噛みで粉砕しかねない怪物を殺しにいくよりも、この絹糸のほうを研究したほうが面白そうだ。


リンは、先端に鋭利な小さな鋏をつけた小型の兵種を製造し、切れ端の小さな光の糸を一本、切り取らせた。その後、リンは「研究球」と呼ばれる球形の兵種の体内にそれを吸い込ませ、それから大量の細胞と微小な部隊をその球体のなかに放って研究を開始した。


この種の絹糸は……構造はかなり単純で、発光細胞が一層、外層をなし、その内部には、何種類かの筋肉細胞に似た細胞があって、それで動くことができるらしい。


それ以外に、やつらは体表に、細かな針状の糸を伸ばすことができ、それが強力な溶解液を放出する。この溶解液の分解能力は、リンがこれまでに見たいかなる溶解液よりも上だった。おそらくやつらはこの小針を使って他の生物の体内に突き刺さり、それから内から外へと他の生物の器官を分解するのだろう。


これらの光の糸はおそらく、ここでさまざまな砕屑を食べているのだ。食べ物が乏しいからこそあれほどに貪欲で、何かが少しでも落ちてくるとすぐに群がるのだろうか?


だが……この場所、海面は氷層で、しかも海底は暗く冷たい。本当に、これらの光の糸がこれだけの広範囲を覆うのに十分な食料があるのだろうか?


もしあるのなら、リンはこれらを模倣して、新しい緑の絨毯を作り出せるかもしれない……そうだ、緑の絨毯は必ずしも光を餌とする必要はない。肝心なのは、一箇所に長くとどまり、大量の餌を収集するためのものなのだから。


それなら……試してみよう。

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