第122話 青き湖の底
リヴァイアサンは触手でシダ類をかき分けた。無数の小さな飛虫が瞬時にシダの茂みから飛び立ち、それは金色の小さな甲虫で、太陽の光の照射のもとにきらめく光沢を放っていた。
「族群か?」リヴァイアサンは触手を伸ばし、触手の吸盤で一匹の金色の小さな甲虫を吸いつけて、頭脳虫の前へ差し出して尋ねた。
「ポルカト虫。鮮やか、反射あり、食物。族群にあらず。」頭脳虫は触手の吸盤の上の小さな甲虫に一口で噛みつき、咀嚼して食べてしまった。
「族群の匂い、残留あり。探索を継続。」
食べ終えると、頭脳虫は身体を転がし、リヴァイアサンの背から転がり落ちて、シダの茂みのなかへ落ちていった。
「危険だ。勝手に行動するな。」リヴァイアサンは触手を伸ばして、頭脳虫をシダの茂みから引き上げた。リンはとっくに気づいていた。頭脳虫は危険が何かを知ってはいても、こいつ自身には危機意識がほとんどないらしい。ほとんど完全に自衛能力がなく、唯一の技は転がることだけで、こうしていると容易に不意打ちを食らうのだ。
捕まえられた頭脳虫は身体をくねらせ、なおも転がり落ちようとしているようだった。リンは頭脳虫の興奮した感情を感じ取った。こいつは言った。「族群の通路を発見。前方三メートル。地面、シダ類の下。」
族群の通路?
リンは疑問に思いながら頭脳虫の言う位置へ移動し、そこのシダの茂みをかき分けた。リンはそこに、直径一メートルほどの樹洞が開いているのを発見した。
「族群の居住地。家園樹、内部へ。転がる!」頭脳虫は興奮して再びリヴァイアサンの背から転がり落ち、この樹洞のなかへと転がり込んだ。
家園樹の内部か? やはりリンの考えたとおり、この樹は中も空洞だった。だが全部が空洞なわけではないだろう。さもなければこれほど巨大な体躯を支えられなかったはずだ。
穴が小さすぎて、リヴァイアサンは潜り込めなかった。リンは穴を爆破して大きくしようか、それともいくつかの小型兵種を放り込もうかと考えていたとき、中から頭脳虫の叫び声が聞こえてきた……
「リーン——」
今や頭脳虫はリンのどの兵種に対しても「リン」という呼称を使うようになっていた。以前のように一番大きいものを探して「首領」などと呼ぶことはなくなっていた。
やつは中で何か問題に遭遇したらしい。リンはとりあえず穴を爆破しないことに決め、代わりにリヴァイアサンに数匹の飛行虫を解き放たせて洞穴のなかへ入らせた。
洞穴のなかはかなり狭く、幅は一メートル足らず、長さも三メートルに満たない小さな空間だった。そして頭脳虫は洞穴の底の地面にぺたりと伏せて、まるで何かを見つめているようだった。
やつはリンの飛行虫が飛び込んできたのに気づくと、こう言った。「族群の絵図。リン、見るがいい。」
リンは頭脳虫の伏せている場所に、明らかな円形の描き痕があるのに気づいた。しかしそれ以外には何もなかった。
「絵だと?」声嚢を備えた飛行虫が頭脳虫に疑問を発した。
「絵。族群の痕跡。匂いの残留あり。探索を開始する。」頭脳虫はそう言うと転がりはじめた。リンはやつが転がって穴壁にぶつかり、また元の位置へ転がり戻り、穴口まで転がっていき、転がり上がれないのを見てまた穴底へ転がり戻るのを眺めていた。この動作は少し続いただけで、やつは転がるのをやめてこう言った。「洞穴が狭すぎる。転がる探索法を採用できず。手がかり中断。」
リンは時々、こいつの脳の九十八パーセントの細胞が役に立っていないのではないかと本気で疑う。
頭脳虫は今、絵の上でじっとして、何かを考え込んでいるようだった。しばらくして突然こう言った。「新たな手がかりを発見。第二の探索法を採用。震動。」
「ガア——ッ!」頭脳虫は突然きわめて鋭い音を発した。この鋭い音はリンに、聴覚が急速な震動感を覚えるのを感じさせた。この震動のもとで、頭脳虫の身の下の地面と周囲の穴壁に亀裂が現れた。
音にこんな効果があるとは? 研究する価値がある……
見る間に亀裂はますます増え、網のごとく洞穴全体に広がった。しかし頭脳虫はなおも絶えず発声を続け、ついに洞穴全体が崩れ裂け、リンはなんと、崩れ裂けた穴壁の背後に、一つのはるかに広大で巨大な空間が現れたのを発見した。
頭脳虫は地面の崩壊のために下へと落ちていった。「ドスン」という音が聞こえるのみで、リンはやつが湖のなかへ落ちたのを発見した。
この湖は上のそれと全く同じ大きさで、幅は二十メートルほどだった。ここは樹の中心層であるはずで、かなり大きな空間だった。底から天井までおおよそ三十メートルあまり。外の光はここまでは届かないため、全体的に比較的暗かった。しかし中央の湖のなかからは奇妙な青い輝きが放たれ、この光が空間全体を照らし出していた。
頭脳虫は湖のなかで浮かびながら必死に転がりまわり、こう叫び声をあげた。「死に近づく、死に近づく。危険、迅速に転がれ、死から離脱せよ。死にたくない。死を拒否する。リーン——」
リンは直ちに飛行虫を飛ばして、頭脳虫を捕まえて湖のほとりまで引きずっていった。頭脳虫の身体は軽く、浮かぶことができた。さもなければ湖底へ沈んで、かなりの危険に陥っていたかもしれない。
リンの呼吸器系は通常水陸両用が可能だった。だが、ほとんどの生物は水中での呼吸能力を捨ててしまっているらしい。
頭脳虫は転がりながら岸に這い上がった。「死から離脱。安全な環境。身体が疲れた。休息が必要だ。」
頭脳虫が地面に伏せて休んでいるのを見ながら、リンは周囲を見回した。ここの地面と内壁にはわずかな植物しか生えておらず、すべて苔蘚で、シダ類はなかった。湖の中央には、一本の巨大な木質の円柱がじかに天井とつながっており、リンは上方の湖水がおそらくこの円柱を通ってここへ流れ、新たな湖を形成しているのではないかと考えた。
だがこれらは下方の滝とつながっているのだろうか? リンには、滝のあの流量からすると、この二つの湖はすぐに流れ尽きてしまうはずだと思えた。
「休息完了。探索を開始する。族群の匂いの残留あり。」このとき頭脳虫はまた転がりはじめた。やつはだいたい十メートルほどの距離を転がって止まり、身体をくねらせて苔蘚の堆積の上で擦りはじめた。苔蘚と埃をすべて拭い去ると、なんと一幅の絵図がその身の下に現れた。
リンはそれが鋭利な物で刻みつけられた痕跡のようだと見て取ったが、それが何を意味するのかは読み取れなかった。
リンが頭脳虫に尋ねようとしたまさにそのとき、やつは突然先にこう言った。「族群の絵図。理解できない。」
「理解できないだと?」リンは頭脳虫の反応が奇妙に感じられた。これはやつの族群のものではないのか?
「族群は、絵図を描かなかった。私が離れている間に、新たに学んだ能力である可能性がある。」
つまり、やつの族群はもともと絵図を描くことができず、頭脳虫がチブチャ虫に捕らえられていたこのあいだに覚えたということなのか?
それも当然だろう。リンは、頭脳虫がリンの色素細胞の変化を見てから絵図を知ったのを思い出した。どう見てもこいつ自身はもともと絵図の方法を知らなかったのだ。
続けて、頭脳虫はまた地面の多くの絵図をひっくり返し出した。わずかばかりの乱雑な落書きと思えるものを除けば、大部分はまだ読み取れた。最も多かったのは頭脳虫の族群の生物たちの様子を描いたもので、やつらが狩りをし、餌を食べる場面などなどだった。
しかし、なぜここには頭脳虫の族群の生物が一匹もいないのか?
リンの飛行虫は地面で絶えず絵図をめくり出している頭脳虫についていった。リンは突然、やつがめくり出した一枚の新しい絵図に、やつと寸分違わぬ一匹の生物が描かれているのを発見した。
「ムクトゥ。新しい頭脳虫だ。私が離れているあいだに、私に取って代わった。」頭脳虫はこの絵図を見つめながら言った。「族群にはすでに新しい頭脳が、新しい思想があったのだ。」
「なぜわかる?」リンにはその絵図は一匹の頭脳虫を描いているだけで、ほかには何も描かれていないように見えた。なぜやつはそんなに多くの情報を知っているのか?
頭脳虫は言った。「匂いが、絵とともに、ここに刻みつけられていた。」
なるほど。リンも多くの生物が匂いで交流するのを見たことがあった。匂いはきわめて複雑な情報を伝達でき、解読にはかなりの面倒が伴う。一般にこの種の情報は同族だけが理解できるものだ。リンは続けて尋ねた。「取って代わられたのか?」
「そうだ。頭脳がなければ、思考できない。狩りができない。餌を食べられない。死あるのみ。族群には頭脳が必要だ。皇后が新しい頭脳を産み落とした。」頭脳虫はどこか「失意」の念を含んだ感情で言った。この感情の感じは、美味しい食べ物が逃げてしまったときのようだった。
「皇后」は頭脳虫が族群のなかの専門的に生産を担う種類に使う言葉だった。なかなか面白い言葉だと思えた。
「族群の痕跡を追跡継続する。」頭脳虫は続けて地面を転がり、地面の上からさらに多くの絵図を探し出した。リンは、すべての絵図が中央の湖をめぐって描かれていることを発見した。ほとんどの絵図はいくつかの生活の歴史を記録しており、特別に面白いことはなさそうだった。
そして頭脳虫が一周を転がり終えたとき、やつはついに止まり、ひどく疲れた様子で言った。「探索を延長する。湖底に特殊な匂いが沈んでいる。探索不可能。」
湖底?
リンは青い輝きを放つ湖水を見つめた。リンも研究する必要があると考えていた。
そう思い、リンは直接飛行虫を湖のなかへ進入させた。飛行虫は通常飛行を専門としているが、水中でも移動可能だった。
リンは水のなかに、発光する小型生物が充満し、数がきわめて膨大なのを発見した。飛行虫たちはゆっくりと湖底へ接近していった。リンはこの湖底には様々な不純物や砕けた屑が満ちており、その大半は屍体の残骸で、まったく特別なものを見つけられないことに気づいた。おそらく、これらの砕けた屑のなかに埋もれた絵図があるのだろう。
しかし飛行虫には掘削ができなかった。リヴァイアサンを下ろさねばならなかった。
待て。あれは何だ?
リンは砕けた屑の堆積のなかに、一群のとぐろを巻き絡み合った巨大な生物がいるのを見た。もしこれが伸び広がったら、長さは十メートルに達するかもしれない。見た目はまるで……蠕虫のようだ。
飛行虫は少しだけ近づいた。リンはこれがたしかに……迷霧蠕虫だと気づいた。この一匹は尖柱林のあの連中よりかなり小さかったが、甲羅と外見は全く同じだった。
どうやら深い眠りの状態にあるらしく、ぴくりとも動かなかった。この生物はどうしてここにいるのだろう? リンはこれまでねじれた密林で迷霧蠕虫を見かけたことは一度もなかった。
「絵図の探索、ガス貯蔵すでに完了。転がりを開始。リンと共に。」リンは突然水を打つ音を耳にした。飛行虫が頭を上げて見上げると、頭脳虫が水面で絶え間なく転がっているのが見えた。
この音について、迷霧蠕虫はゆっくりと頭をもたげた。そいつは目覚めるなり水面で転がっている頭脳虫を視認した……




