いちな、ルビーの林檎亭で働く! 6(夜の部)
ロスト 高橋いちな
魔術師団長 ハリス・フルーム
ロスト対策室 室長 ローラ・タイラー
ロスト対策室 ロン・オーモンド
ルビーの林檎亭 女主人 アン 料理人 トム
ルビーの林檎亭から魔王が去った後は混乱が生じたため営業を続けることができなくなった。
「今日の支払いはいらないよ」
とアンの一声で客はゾロゾロと店を出て行った。
店の異変を感じどこかで待っていたロンが慌てて入ってきた。
「いちなちゃん、どうしたの?」
呆然としているいちなに異変を感じすぐにロンが向かう
手に何かを握りしめているが、体が震えていた。
「さっき、そこの魔術師様がいちなちゃんに向かって魔法を打とうとしたんだよ…。」
アン自身もまだ動揺から立ち直っていないが早く状況を理解してもらいたかったみたいでロンに説明する。
ロンはその言葉が信じられないと思いつつアンが指さす方をみるとロッドを振り上げたまま動けない魔術師とそれを止めようとして肩をもっている仲間が固まっていた。
普段なら晒さないタグが見えるところにあったので確認するとタグの縁が黒く染められていた。
「魔王の爪痕?」
ロンはよく目をこらしながらそう呟く…。
とりあえず、いちなを座らせようと近くの席に誘導しアンにお願いしてお水を用意してもらった。
その後、タグメッセージで何件か連絡した後、もう一度いちなに目を合わせるために屈み声をかける。
「いちなちゃん、大丈夫?」
ロンはもう一度いちなを観察する。みずを飲むときに袖から手首が見える。手のひらの形の内出血を見つけると、ロンは固まっている魔術師を睨んだ
「これは、アイツにやられたの?」
ロンの問いかけに、かすかに頷いた。
しばらくするとローラとハリスがルビーの林檎亭に到着した。緊急だったため二人とも私服だった。
二人は店内に入るとローラはいちなの方にハリスはロンにそれぞれ近づき話を聞こうとするがいちなの方は反応が薄くローラが困惑している。
「いちなちゃん、大丈夫?」肩を軽く触るがビクッと震える。
「オーモンド、状況説明を」
その様子をハリスも見ていたのでロンに聞いたほうが早いと思い確認する。
「はい、ここの女主人アンさんが言うには、いちなさんの接客対応に不満を持った魔術師が魔法を発動しようとしたところ、魔王が出現。タグを確認しそのまま姿を消したそうです」
ロンは少し言い淀んでから
「その者のタグには魔王の爪痕らしき痕跡があります。」
その言葉にハリスは驚きアンに向かって
「アンさん、申し訳ないですがこのお店の一週間の営業停止を発動します」
と伝える。
「えっそれじゃあ生活できないよ!」アンが動揺するといちなが反応する。
「これ、換金できますか?」
いちなの手の中から魔王が渡した少し赤く染まった魔石をハリスとロンに見せる。
二人はそれをみるとハリスが
「そうですね。魔法師団での買取をしましょう」
「そのお金をルビーの林檎亭の保障としてください」
いちながハリスに伝えると
「いちなちゃん!そんなことしなくても大丈夫よ」
優しい言葉をかけてくれた。
少しずつ気力を取り戻したいちなは
「いいえ、私の対応ミスでここまでご迷惑をおかけしたので」
「いちなちゃんのせいじゃないでしょ!」
ローラも思わず声をかける。
「そうだぞ、いちなちゃんが気にすることはないそ」
いつの間にかキッチンから出てきていたトムが重い口を開いた。
「でも、一週間の営業停止は生活に響くと思います。多分、理由も説明がないままだとおもいますので」
魔石の売上の行方を相談していると、魔法師団の団員と思われる人がハリスの前に現れ指示を待っていた。
「この同胞は魔王の爪痕をつけられてしまった。他の者が瘴気に晒される可能性がある為結界の張っている牢に入れておくように」
固まっていた魔術師が動けるようになると
「フルーム師団長様、私は決して故意にその者を傷つけようとしたのではありません!」
「どうかご寛大な判断団を!」
叫びながら連れ出されようとしている。
ハリスも一緒に店を出ていく。
アンは
「あの魔術師様は嘘ばっかり言ってるよ!こんなのがまかり通るのかい!」
悔しさと憤りをにじませた。
林檎亭を出たハリスは先ほど叫んでいた魔術師に声をかける。
「魔王の爪痕はあなたの行動を全て見ています。虚言を続けるとそのタグが黒く浸食され最後は消滅するでしょう。魔王はタグが無い者を魔物として認識します。」
事の重大性を理解しつつある魔術師は振り向きながら
「でしたら、彼女に謝罪の機会を!」
ハリスはゆるく首を横にふる。
「あなたの今のタグをご覧なさい。きっと不安に押しつぶされ逆に彼女を傷つけかねない」
「へっ?えっ?」
その魔術師のタグがさっきよりも黒く染まりつつあった。
ハリスは言葉を続ける
「魔物の討伐は魔王の権限に含まれています。言っている意味わかりますよね?」
「でっでも、魔王様はしかるべき対応をとおっしゃっていました!せめて軍規での処罰をお願いします」
「そうだね、早急にあなたの罪を調べることにしましょう。」
「ありがとうございます。ありがとうございます…。」
「早く彼を連れていってください」
ハリスは微笑みながら団員に指示をする。 そして、その団員に囁くように
「彼のタグの汚染具合をデータに取る様に。他のものは近づけてはだめですよ」
「承知しました」その言葉を残し彼らはどこかに連れていかれた。
「まぁ~どこに隔離しても、魔王様は必ず報復に来るのでしょうね…。」
ハリスの独り言は、林檎亭のドアの前で立っているロンにしか聞こえなかった。
「オーモンド、いちなさんはよほど魔王様に気に入られているらしい。残念ながらこの食堂で働き続けることは厳しいだろうな」
と少し嬉しそうに言った。
「君も、タイミングをみてロスト対策室からこちらに戻りなさい。私はもう帰宅するよ。
あとはよろしくね」
「はい」
その返事に納得したハリスは近くに止めていた馬車でどこかに消えた。
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