途中だった
翌朝、レイが報告に来た。
台の上に紙を広げて、順に説明していった。ヨナスが横で書き取り、マレーネが照合する。この形は、いつのまにか決まりのようになっている。誰が決めたわけでもない。レイが喋り、ヨナスが書き、マレーネが確かめる。三人の得意なところが、自然にそこへ落ちた。
房ではこういうことが一度も起きなかった。俺が全部やっていたからだ。
「輪のある個体は、確かにいました。わたしたちが確認したのは、十一体です」
「多いな」
「多いです。ただ、そのうち動いていたのは八体でした」
「残りは」
「死んでいました。三体とも、殻が開いていました」
俺は顔を上げた。
「開いてた?」
「はい。塞がれていません。開いたままです」
レイは紙をめくった。
「それで、そのうちの一体が」
彼女はそこで、言葉を選ぶように少し止まった。
「途中でした」
「途中」
「開口部の縁が削られていて、詰め物が半分だけ入っていました。残り半分は、入っていません」
工房が静かになった。
俺は台に手をついた。
「詰め物の乾き具合は」
「そこまでは見られませんでした。触るなと言われたので」
「誰にだ」
「調査員の方に。物証を動かすなと」
それは正しい。正しいが、俺は少し歯噛みした。乾き具合が分かれば、いつやったのかが出る。
「持って帰ってないのか」
「持って帰りました」
レイは荷から油紙の包みを出して、台に置いた。
「怒られましたけど」
「よくやった」
「怒られたんですけど」
「よくやった」
「三回目です」
「よくやったからな」
レイは笑って、それから、少し真面目な顔に戻った。
「先生。持って帰るとき、少し迷いました」
「なぜだ」
「これ、誰かの仕事の途中なので」
俺は包みに手を置いた。この子はそういうことを考えるようになっている。房にいたころは、剣を腐らせて持ってきていた子だ。
包みを開くと、殻の一部があった。
拳ほどの大きさで、開口部の縁が含まれている。縁は丸められていた。いつも通りだ。
その内側に、詰め物が入りかけていた。
俺は指を当てた。
柔らかい。まだ完全に固まっていない。表面に薄い膜ができているが、押すと沈んで、離しても戻りきらない。
「ヨナス。これがうちの膠なら、何日だ」
「材にもよりますが、この状態は二日から四日です」
「四日か」
「はい。四日を超えると、押しても戻らなくなります」
俺は指を離した。
沈んだ跡が、ゆっくり戻った。
つまり、二日から四日前に、誰かがあれを詰めていた。
そして、半分でやめている。
俺は詰め物の縁を見た。入っているぶんの表面は、いつも通り丁寧だった。真ん中が厚く、端へ向かって薄い。角がない。
途中でやめたのに、やめたところまでは丁寧だった。
手を抜いてやめたなら、最後のほうが荒れる。荒れていない。ある一点まできちんと進んで、そこで線を引いたように止まっている。
「レイ」
「はい」
「その個体、まだ生きてるか」
「生きてました。動きは遅かったですけど」
「殻が半分開いたままでもか」
「はい」
俺は指を離した。半分開いたまま生きているというのは、それはそれで妙な話だった。
籠手の留め鋲が半分抜けていても、腕は動く。動くが、その状態で殴られたら終わる。あの個体は、そういう状態で三十階を歩いていることになる。
「レイ」
「まだ何かありますか」
「そいつを、殺すなよ」
レイは一度、目を丸くした。
「……はい」
「殺すなとギルドに言え。俺が言ったと書いておけ」
「レイ」
「はい」
「その個体の周りに、何かあったか」
「何も。魔物が数体いただけです」
「その魔物は」
「動きが、遅かったです」
レイは紙を見た。
「輪のあるやつは速いんです。ないやつより明らかに。でも、その半分の子だけは、遅くて」
彼女はそこで顔を上げた。
「先生。あれ、途中で置いていかれたんだと思います」




