帰還
八人が帰ってきたのは、それから四日後の夕方だった。
最初に気づいたのは、ダンだった。通路の入口で資材を下ろしていて、そのまま走って戻ってきた。
「帰ってきました!」
俺は当て金を置いて、立ち上がった。
通路の奥から出てきたのは、七人だった。
俺は数えた。二度数えた。
レイが先頭で、その後ろに調査員が二人。ギルドの記録係。銀級の二人。最後尾にヴィオラがいて、背中に人をひとり負っていた。
負われているのは、調査員のルカという若いのだった。
「医者だ」
俺が言うより先に、ボリスが屋台の火を落として走り出していた。
ヴィオラは工房の床に膝をついて、ルカを下ろした。血は出ていない。ただ、右の脚がおかしな方向を向いていた。
「折れてる」
ヴィオラが言った。
「二か所」
「他は」
「打撲。骨は脚だけ」
「あんたは」
「無事」
彼女はそう言って、立ち上がろうとして、少しよろけた。
俺は腕を掴んだ。掴んだ場所が濡れていて、濡れているのが水ではないと分かるまでに、少しかかった。
「無事じゃないだろう」
「かすった」
「かすった、というのは」
「かすった」
この人は本当にこれしか言わない。
ミアがすぐに布を持ってきて、ヨナスが灯りを寄せた。トビーは記録係から荷を受け取って、ラルフが調査員二人を座らせた。
誰も指示を出していないのに、全員が動いていた。
俺は自分の手が震えていることに気づいて、それを止めるために、道具箱を開けた。
開けて、中を見て、何も取らずに閉じた。取るものがなかったからだ。人の脚を直す道具は、この箱には入っていない。
二十年ぶん詰まった箱を持っていて、いま必要なものが一つもない。そういうことは、たまにある。
医者が来て、ルカを運んでいったあと、俺は装備を集めさせた。
八人ぶんだ。剣も、盾も、籠手も、脛当ても、靴も、水筒も、全部。
「ハウザーさん、いまですか」
調査員のひとりが驚いていた。
「いまだ」
「明日でも」
「明日だと、あんたらは今日のことを忘れる」
「忘れませんよ」
「忘れる」
俺は台に布を敷いた。
「一晩寝ると、順番が変わるんだ。怖かったところが先に来て、細かいところが後ろへ行く。細かいところが要る」
調査員は納得しない顔をしていたが、実際に装備を並べて訊いていくと、口で言っていたのと順番が違うところがいくつも出てきた。天井から来たと言っていた岩は、最初の一つだけが天井からで、あとの二つは横から転がってきていた。本人は覚えていなかった。
覚えていないのではない。覚えてはいたが、順番が入れ替わっていた。
こういうときに頼りになるのは、道具のほうだ。道具は順番を間違えない。
夜半を回るころ、ヴィオラの剣が残った。刃こぼれが四か所、どれも浅い。柄の巻きだけが妙に傷んでいた。
「あんた、これを片手で振ったな」
「振った」
「腕をやったあとにか」
「他に手がない」
俺は巻きを解いて、新しいのに替えた。替えているあいだ、この人は隣でずっと黙っていた。
俺は最初の一本を台に載せた。
「壊れたところを、あんたらが覚えてるうちに見たい。どこでどうなったかを、道具と一緒に聞く」
そこから、夜通しやった。
剣は三本に大きな刃こぼれがあった。盾は一枚が芯まで抜けていた。脛当ての留めが飛んでいるのが二つ。ルカの靴は、片方が完全に潰れていた。中敷きを足したほうだ。
「これは、上から来たな」
「はい。天井から落ちてきました」
「落ちてきたのは何だ」
「岩です。ただ、崩落ではありません。真上から、一点に」
俺は潰れた靴を灯りに寄せた。
潰れ方が、真上からではなかった。斜めだ。それも、外側から内側へ。
「ルカって子は、避けようとして右へ跳んだな」
「はい」
「跳んだ先に来てる」
誰も何も言わなかった。
その夜、俺はニナに何も訊かなかった。
あの子は帰ってきてから一言も喋っていない。槍を背負ったまま、工房の隅に座って、床を見ていた。
訊くのは明日でいいと思った。




