足元
八人が降りていったあと、工房はいつも通りに開いた。
列は伸びた。むしろ、いつもより多かった。噂を聞いた連中が見に来ていたんだろう。俺は普通に道具を見て、普通に癖を言って、普通に直した。
ヨナスとミアとラルフが前段を回して、トビーが研ぎを引き受けた。ダンとアニカが資材と水を回した。人が減ったぶん、残った連中がよく動いた。
三日目に、ヨナスが客の癖を一本だけ当てた。斧の男で、振り下ろすときに身体が左へ流れるという、いちばん基本のやつだ。当てたあと、この子は眼鏡を押し上げてからこちらを見た。
「合っていますか」
「合ってる」
「はい」
それだけで、その日はずっと機嫌がよかった。
五日目に、ミアが留め金の交換を独りで仕上げた。ラルフは相変わらず喋らないが、砥石の面を出すのがいちばん速くなっている。
六日目に、アニカが六つ目の鍋を持ってきた。俺は説教をした。
夜、片づけを終えて、灯りをひとつ残した。
工房の隅には、開けた殻が七つ並んでいる。その前に台があって、台の上に、七つの黒いやつが置いてある。
俺はしばらく、それを眺めていた。
ナットが来たのは、そのときだった。
いつも通り、鉄骨の陰から出てきて、俺の足元まで歩いてきて、口にくわえていたものをことりと落とした。
「なんだ」
キチ。
俺は拾い上げた。
ボルトではなかった。
黒に近い色をしていて、親指の先ほどの大きさで、片方の面が平らだった。
手のひらに載せると、重かった。大きさに対して、明らかに重い。
俺は灯りを引き寄せた。
平らな面に、細かい傷が円を描いて散っていた。全部が浅く、全部が同じ向きに走っていた。
「……ナット」
キチ。
「これ、どこで拾った」
キチ。
俺は立ち上がった。
立ち上がったが、そこから動けなかった。
この鼠は、俺がここへ来た最初の日から金属を運んできている。ボルト、座金、釘、木くず、ペットボトルのような形の何か。どれもこの階層の廃材から拾ってきたものだと、俺はずっと思っていた。
思っていた。
この階層の廃材置き場には、鉄骨も、木箱の留め金も、割れた工具も、いくらでも転がっている。鼠が金属をかじるのは習性で、運んでくるのは巣を作るのと同じ理屈だろう。そう思って、二年近く受け取ってきた。
道具箱の底に、あの鼠が持ってきたものをまとめて放り込んだ小箱がある。捨てられなかったからだ。
俺はそれを引っぱり出して、床にあけた。
ボルトが二十いくつ。座金。釘。針金。名前の分からない金具。
その中に、黒いのが三つ混ざっていた。
俺は台の上の七つと、手のひらの一つを見比べた。
同じものだった。
床にあけた三つも、並べた。大きさが違って、形が同じで、平らな面に円を描く細かい傷がある。
全部で四つ、この鼠は俺のところへ運んできていた。二年近くかけて、少しずつだ。俺はそれを受け取って、道具箱の底の箱に放り込んで、忘れていた。
いつ持ってきたのかも覚えていない。ボルトと同じ扱いをしていたからだ。
この鼠は、俺が使う寸法を覚えている。俺が六角を使う日には六角を持ってくるし、細い釘が要る日には釘を持ってくる。持ってくるものを選んでいる。
選んでいるということは、こいつにとって、これはボルトと同じものではなかったということだ。
ナットが、鉄骨の陰のほうへ歩いていった。数歩行って、止まって、こちらを振り返った。
俺は道具箱から灯りを取って、ついていった。
鉄骨の裏は、廃材が積み上がった行き止まりだ。二年近くここにいて、俺は一度も奥まで入ったことがない。入る理由がなかった。
ナットは、積み上がった鉄の隙間に潜り込んだ。
俺は灯りを差し入れた。
隙間の奥に、床があった。
灯りを近づけると、そこだけ色が違うのが分かった。周りは迷宮のどこにでもある灰色の岩で、そこだけがわずかに黒い。
その床の一部が、円く削られていた。
角が、ひとつも残っていなかった。




