↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/84

消耗品

その日の夕方まで、まともに仕事にならなかった。


 列は解散させた。悪いが今日は閉めると言って、番号札を明日ぶんに回した。客は文句を言わなかった。通路の入口から中を覗いていた連中は、たぶん半分くらい何が起きているか分かっていない。


 工房に残ったのは、朝と同じ顔ぶれだった。


「もう一度、順を追って説明してください」


 言ったのはヨナスだった。この子は理屈が通らないと落ち着かない。


 俺は台の上に、二つのものを並べた。剥がした詰め物と、座から出したやつだ。


「一つ。この殻は割れてない」


「割れてました」


「割れて見えただけだ。輪の中身を入れるために、外から開けたんだよ。開けた口が、割れ目に見えていた」


 ヨナスが眼鏡を押し上げた。


「二つ。開けた口を、あとから塞いである。塞ぎ方は俺と同じ理屈だ。真ん中を厚く、端を薄く、角を丸める」


「はい」


「三つ。塞ぐ前に、中に何か入れた。それがこれだ」


 俺は黒いやつを指した。


「四つ。座のほうが減ってる。つまり、これが最初の一つじゃない」


 しばらく、誰も何も言わなかった。


 最初に口を開いたのは、レイだった。


「先生。それって」


「言いたいことは分かる」


「魔物に、部品が入ってるってことですか」


「入ってるな」


「その部品を、誰かが取り替えてるってことですか」


「そうなる」


 レイは、自分の剣の柄に手をやった。無意識の動作だろう。この子は考えるときに柄を握る癖がある。


「なんのためにですか」


「知らん」


「誰がですか」


「それも知らん」


 俺は台に肘をついた。


「ただ、やってる人間が何を考えてるかは、少し分かる」


 全員がこちらを見た。


「これは消耗品だ」


 俺は黒いやつを持ち上げた。


「減るのを承知で入れてる。減ったら替える前提で、座のほうを丸く削ってある。角を残さないのは、抜き差しのときに欠けないようにだ。丸くしておけば何度でも抜ける」


「……何度でも」


「そういう作りになってる。俺が籠手の留め鋲を打つときと同じだよ。あれも減る前提で、抜きやすいように受けを丸めておく」


 工房が静かになった。


 ヴィオラが、隅から一言だけ言った。


「点検してる」


 俺は頷いた。


「そう見える」


 その言葉が出た瞬間に、工房の空気が変わった。


 ここには整備士が四人いて、探索者が三人いて、ギルドの職員が一人いる。その全員が、点検という言葉の意味を知っている。点検というのは、壊れる前に見ることだ。壊れる前に見るというのは、壊れてほしくないということだ。


 誰かが、あの魔物に壊れてほしくないと思っている。


 俺はそこまで考えて、考えたことを口に出さないことにした。まだ早い。


 トビーが小声で、誰にともなく言った。


「僕らと、同じことしてますよね」


「同じだな」


「それって」


「言うな」


 トビーは口を閉じた。この子は分かって黙れる子だ。


 ヨナスが、紙を出して何か書きはじめた。俺は止めなかった。この子は書かないと考えられない。


「ハウザーさん。周期が知りたいです」


「周期?」


「座の減りと、部品の減りの比率が出れば、どれくらいの間隔で交換されているかが概算できます。ただ、一つでは無理です。同じ座を持つ個体が複数必要です」


 俺はレイのほうを見た。


 レイはもう立ち上がって、外套に手をかけていた。


「持ってきます」


「重いぞ」


「重いですけど、持てます」


「無理はするな」


「先生に組んでもらった剣なので、無理にはなりません」


 この子は、その台詞を気に入っているらしい。


 レイが出ていったあと、マレーネが綴じ帳を閉じて、それから開き直した。


「ハウザーさん」


「なんだ」


「わたしはいま書いたものを、どう報告すればいいのか分かりません」


「そのまま書けばいいだろう」


「そのまま書くと、魔物が整備されていると書くことになります」


 彼女は眼鏡を押し上げて、押し上げても何も変わらないという顔をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。