座
継ぎ物を剥がすのに、半日かかった。
外側から少しずつ削って、詰め物と殻の境目を探す。境目が分からないので、手の感触だけで進むことになった。厚みが変わるところ、力の抜けるところ、鏨の先がわずかに沈むところ。そういうものを拾いながら、輪の周りを一周した。
途中で二度、手を止めて休んだ。目がもたなくなったからだ。ニナが水を持ってきて、ヨナスが灯りの位置を直した。マレーネはずっと書いていた。
昼を過ぎて、詰め物が一枚の板のように浮いた。
俺は両手を差し入れて、ゆっくり持ち上げた。
剥がれた。
下に、空洞があった。
誰も声を出さなかった。ヨナスが灯りを寄せようとして手を滑らせ、倒しかけたのをヴィオラが黙って支えた。
浅い。指が二本入るくらいで、底は平らだ。周りは殻の層がきれいに削られていて、円い皿のような形になっている。
そして、その真ん中に、何かが座っていた。
親指ほどの大きさで、色は黒に近い。表面はざらついていない。むしろ、なめらかだった。
俺は刷毛で粉を払って、それを見た。しばらく見た。
「ハウザーさん」
マレーネの声が、少し掠れていた。
「これは、なんでしょうか」
「知らん」
俺は指を入れて、それを持ち上げた。
重い。大きさに対して、明らかに重かった。手のひらに載せると、金属に近い冷たさがある。だが金属ではない。金属なら、こんな沈み方はしない。
形は円柱に近く、片方の面が平らで、もう片方が丸い。平らな面のほうを、灯りに寄せた。
そこで、俺の手が止まった。
「……ゲルトさん?」
平らな面に、傷があった。
細かい傷が、円を描いて全面に散っている。深いものはない。全部が浅く、全部が同じ向きに走っていた。
接触の傷だ。
同じ場所に、同じ角度で、何度も押し当てられたものの傷だった。柄が鞘に収まる場所、留め金が受けにかかる場所、盾の握り帯が芯に当たる場所。あの傷と、まったく同じ性質のものだ。
俺は空洞のほうを見た。
底を、刷毛で払った。払って、灯りを寄せた。
底にも、同じ傷があった。
円を描いて、全面に。
そして、底のほうが、深かった。
「ヨナス」
「はい」
「灯りをもうひとつ」
寄せられた光の中で、俺は二つを見比べた。
座のほうが、明らかに減っている。何度も何かを受けて、そのたびに擦れて、それが積み上がった形だった。載っているもののほうは、まだ浅い。
つまり。
「これは、三つ目か四つ目だ」
誰も、口を開かなかった。
「座の減りに対して、載ってるやつの減りが浅すぎる。同じものが最初からここにあったなら、両方が同じだけ減ってるはずだ。減ってないってことは、これが新しいってことになる」
マレーネの羽根ペンが止まっていた。
「新しい、というのは」
「入れ替えられてる」
「入れ替え、というのは」
「減ったから、新しいのを入れたということだ」
「誰がですか」
「それは、いま言ってない」
「なぜですか」
「読んだこと以上を言うと、それは俺の考えになる。考えは記録じゃない」
ヨナスは口を開いて、閉じた。マレーネの羽根ペンが、そのやりとりまで書き取っていた。
俺は指を空洞の縁に沿わせた。縁は丸い。何度も抜き差しするものの受けは、こう作る。角があると、抜くたびに欠けるからだ。
俺は、それを台に置いた。
置いてから、自分の言ったことを頭の中でもう一度なぞった。なぞって、間違いを探した。見つからなかった。
「ハウザーさん」
「なんだ」
「では、これは」
俺は空洞の縁を指でなぞった。円く削られた縁は、なめらかだった。角がひとつも残っていない。
角を残すと、そこから割れる。だから丸める。
俺が籠手を直すときに、いつもやることだ。
「整備されてる」
工房の灯りが、静かに揺れていた。




