三人来る
アルゴノートの三人が来たのは、次の週の朝だった。
揃いの外套を着て、揃いの前掛けを持って、通路の入口で並んで頭を下げた。うちの工房でそんなことをする人間は誰もいないので、列に並んでいた客のほうが戸惑っていた。
真ん中の女がいちばん年上らしく、名をミアと言った。左の男はラルフといって、背が高くて猫背で、目を合わせない。
問題は右の男だった。
いちばん若い。十九か二十というところで、眼鏡をかけていて、姿勢がいい。頭を下げるときの角度も、他の二人より浅かった。
「ヨナス・ケラーです」
「そうか」
「よろしくお願いします」
言い方は丁寧だった。丁寧だったが、目が丁寧ではなかった。
俺は三人に箒を渡した。
「まず掃除だ。通路の端から奥まで、瓦礫を全部どける。水も汲んでこい」
ミアとラルフは黙って受け取った。ヨナスは受け取ったが、受け取ってから訊いた。
「あの、これは修業と何か関係がありますか」
「作業場所がないからだ」
「掃除の技術を学べということでしょうか」
「そういうことにしといてもいい」
ヨナスは眼鏡を押し上げた。この動作をする人間をもう一人知っているが、あちらとはまるで違う押し上げ方だった。マレーネさんのあれは、言いにくいことを言う前の動作だ。この子のは、言うと決めたことを言う前の動作だった。
「失礼を承知で申し上げますが」
「言え」
「僕は房で、鑑定盤の読み取りを担当していました。一日に百二十本を処理していて、房の平均の倍です。時間を掃除に使うことに、意味を見出せません」
工房が静かになった。
トビーが顔を上げて、何か言いかけて、やめた。ニナは番号札を配る手を止めなかったが、耳がこちらを向いているのが分かった。
俺は当て金を持ち上げた。
「じゃあ、掃除はしなくていい」
「ありがとうございます」
「その代わり、そこに立ってろ」
俺は台の横を指した。
「今日一日、俺の手元を見てろ。喋るな。触るな。訊くな」
「……何を学べば」
「訊くなと言った」
ヨナスは、そこに立った。
俺は普通に仕事をした。斧の刃こぼれを直し、胸当ての留めを替え、槍の柄を継ぎ、鍋を二枚叩いた。持ち主の癖を言い、直し、返した。それを日が暮れるまで続けた。
途中で何度か、ヨナスが口を開きかけては閉じるのが視界の端に入った。
ミアとラルフは掃除を終えて、そのあとは錆落としに回った。ニナが二人に教えていた。教え方は俺より百倍ましだった。
あの子はまず自分でやってみせて、それから相手にやらせて、途中で手を止めさせて、どこで音が変わったかを訊いていた。訊かれた側は考える。考えた分だけ残る。
俺は、そういうことを一度もやったことがない。
ミアは筋がよかった。手が慎重で、分からないところで必ず止まる。ラルフは口を開かないが、砥石の当て方がいちばん早く直った。この二人は、たぶん半年で使い物になる。
問題は、そこではなかった。二人とも、俺が客の癖を言うたびに、書き取ろうとして手を止めるのだ。書き取る前に次が始まるので、いつも半分しか書けていない。
「ミア」
「はい」
「書くな。見ろ」
「でも、忘れます」
「忘れていい。忘れたことは、あとで帳面に載ってる」
二人が同時に、ニナのほうを見た。
日が落ちて、列がはけて、片づけがはじまったころ、俺はヨナスに声をかけた。
「今日、何本見た」
「三十一本です」
「数えてたのか」
「数えていました」
「そりゃ結構だ」
俺は道具箱を閉じた。
「そのうち、持ち主の癖を言ったのが何本だ」
ヨナスは、すぐには答えなかった。
「……二十九本です」
「二本は言わなかった。なぜだと思う」
沈黙が長かった。
ヨナスは眼鏡を押し上げて、それから、はっきりした声で言った。
「わかりません」
「そうか」
「わかりません。ですが」
彼は顔を上げた。
「明日も、そこに立たせてください」




