【伝言板】教本が出るらしい
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冒険者ギルド ヴェルナ支部 一階 伝言板
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『ギルドの整備士講習で、新しい教本を使うらしい』
→ 教本?
→ 実技のやつだ
→ 実技に教本があるわけないだろ
→ それが出るんだよ
→ 誰が書いた
→ 十七階の工房の名前が載ってる
→ おっさんか
→ 違う。弟子の名前だ
『著者が二人とも二十歳前後らしいぞ』
→ うそだろ
→ 片方は銀級の子だ。落とされて訂正されたあの子
→ もう片方は元アルゴノートの整備士
→ 二十歳の書いた教本を大人が読むのか
→ 読むんだろ
→ 妙な話だな
→ 妙だが、中身がいいと聞いた
→ 誰から
→ ヴォルフ団の整備班。あいつら写しを持ってる
『中身、どんな感じなんだ』
→ 見せてもらった
→ 順番が書いてある
→ 順番?
→ 何をどの順で見るか。持ち上げる、持ち替える、傾ける、光に当てる
→ それだけか
→ それだけだ
→ 当たり前すぎないか
→ 当たり前のことを誰も書いてなかったから、教本がなかったんだろうな
→ ……ああ
『アルゴノートが整備房を再開するそうだ』
→ いまさらか
→ いまさらだな
→ 一等が見つからないらしい
→ そりゃそうだ。自分で切ったんだから
→ 若いのを十七階に通わせてるという話だ
→ 通わせる? どこに
→ どこにだと思う
→ ……そういうことか
→ 切った相手に頭を下げて、若いのを預けたわけだ
→ 頭を下げたのは偉いと思うぞ
→ そこは俺も思う
『そもそも、整備の腕なんて教えられるものなのか』
→ 教えられないから免状が四百人しかいないんだろ
→ 教えられないんじゃなくて、教え方がなかっただけかもしれん
→ 何が違う
→ ずいぶん違うだろ
→ ……違うな
『うちの班長が写しを取りに行って、断られたらしい』
→ 断られた?
→ ギルドの講習で正式に出るから、それを待てと言われたそうだ
→ 意外と厳しいな
→ 厳しいというか、順番の話だろ
→ 早く欲しいのはみんな同じだしな
『第五層の分店に行ってみた』
→ どうだった
→ 槍の子が見てくれた
→ 腕は
→ 分からんと言われた
→ は?
→ 分からないので本店に回しますと言われて、番号札を渡された
→ それは腕がいいのか悪いのか
→ 三日後に本店で見てもらったら、内側にひびが入ってた
→ 分かるやつだったら見落としてたかもな
→ 分からんと言えるやつのほうが、たぶん怖い
『おっさんは何をしてる』
→ 鍋を叩いてる
→ 安心した
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教本の写しが出回りはじめたころ、工房の列に妙な連中が混ざるようになった。
壊れたものを持っていない。装備が新しい。前掛けを持っている。要するに、同業だった。
俺は追い返さなかった。並んでいるうちは客だからだ。用が装備でない者は列に並ばなくていいという決まりはあるが、あれは急ぎの者を先へ通すための決まりであって、見物を締め出すためのものではない。
彼らは半日並んで、俺が道具を見るのを眺めて、帰っていった。
次の日も来た。
三日目に、そのうちの一人が壊れた籠手を持ってきた。自分のものではない。うちの班の若いのが使っているやつだと言った。
俺は受け取って、いつも通りに見て、いつも通りに癖を言った。留め金を替えて、いつもの値段を取った。
男はそれを受け取って、しばらく手の中で回していた。
「あの」
「なんだ」
「これだけですか」
「これだけだ」
「見物に来ていた人間に、普通に売るんですか」
「壊れたものを持ってきたら客だ」
男はもう一度、籠手を見た。
次の日、彼は前掛けをつけて列に並んでいた。壊れたものを持って。




