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結果が出たのは、それから五日後だった。
マレーネが降りてきて、綴じ帳を開いて、いつも通りの事務的な声で読み上げた。
「第九層第三区画において、大型節足種の生息痕を確認。脱皮殻三点、壁面の摩耗痕を記録。当該区画は要注意区画として指定。以上」
「それだけか」
「これだけです」
マレーネは綴じ帳を閉じて、それから、別の一枚を出した。
「もう一枚あります」
彼女はそれを読み上げようとして、少し詰まった。
詰まってから、読んだ。
「銀級昇級審査、判定訂正通知。受験者、ニナ・アルト。索敵報告に関する不合格理由を取り消す。当該報告は事後の調査により裏付けられた。よって判定を合格に改める。訂正者、ドルグ・ヴァイス」
工房が静かになった。
その静けさを、トビーが最初に破った。
「合格!?」
アニカが悲鳴を上げて、ダンが斧を落として、ボリスが鍋の蓋を落とした。レイが飛び上がってニナに抱きついて、ニナが潰れて、ヴィオラが黙って両方の襟首を掴んで引き剥がした。
ニナは、通知の紙を両手で持ったまま固まっていた。
「あの」
「なんだ」
「これ、ヴァイスさんの名前です」
「そうだな」
「訂正者って、書いてあります」
俺は当て金を置いた。
訂正というのは、消すのとは違う。落としたという記録は残ったまま、その下に訂正が積まれる。誰が落として、誰が訂正したかが、両方とも残る形だ。
あの男は、消さなかった。
消せば早い。誤りだったことにしてしまえば、あの男の名前はどこにも残らない。訂正として積めば、落とした事実も、落とした人間の名前も、両方が残り続ける。どちらを選ぶかは、その人間の問題だ。
「あの人」
ニナが言った。
「わたしのこと、嫌いなんだと思ってました」
「そうか」
「でも、たぶん、そうじゃなかったです」
「そうかもな」
俺は工房の隅を見た。
昨日、あの男の盾を返した。直った盾を受け取って、あの男は表を一度撫でて、それから、いつもの値段を置いて帰った。何も言わなかった。
俺も言わなかった。
言うことがなかったからだ。
第五層の分店が開いたのは、その月の終わりだった。
休憩所の隣の空き区画に、ギルドが板を張って囲いを作って、そこに研磨台と作業台を入れた。看板は、ニナが自分で書いた。
板きれに、炭で、こうあった。
『なおします』
「あんた、それでいいのか」
「はい」
「本店と同じだぞ」
「同じがいいんです」
ニナは板を柱に打ちつけて、下がって、見上げた。
「ゲルトさん」
「なんだ」
「わたし、判断がつかないやつは全部本店に回します」
「そう言ってたな」
「たぶん、最初のうちは半分くらい回すことになると思います」
「回せ」
「重くないですか」
俺は道具箱を持ち上げた。
「あんたが回してこなかったやつのほうが、俺は怖い」
本店から第五層までは、昇降機を乗り継いで小半刻ほどかかる。回すということは、その分だけ客を待たせるということだ。待たせるのを嫌がる人間が、いちばん早く人を殺す。
あの子は、待たせるほうを選ぶ。最初に会った日から、そういう子だった。
ニナは少し笑って、それから、頭を下げた。
開店の日、第五層の分店には朝から十人ばかりが並んだ。
その列の中に、片腕を布で吊った若い男が混じっていた。
カイ・レンドルだった。彼は右手だけで短い剣を持って、順番を待っていた。
ニナがその剣を受け取って、両手で持ち上げて、片手に持ち替えて、傾けて、灯りに当てた。
順番だった。綴じ帳に書いてあったのと同じ順番で、あの子はそれをひとつずつ確かめていた。
握りに指を当てて、それからカイの右手を見て、立ち方を見た。
それから、握りに指を当てて、少し考えて、こう言った。
「あの、手首を、使いすぎてます」




