順番待ち
最初に気づいたのは、たぶん列の中ほどにいた誰かだった。
ざわめきが後ろから前へ伝わってきて、順番に人が振り返っていく。俺が顔を上げたときには、列の全員が同じ方向を見ていた。
男が並んでいた。
背が高く、肩が広く、灰色の髪を短く刈り込んでいる。装備は古いが手入れが行き届いていて、剣を一本と、盾を一枚、背中に負っていた。
俺は当て金を持ち上げた。
持ち上げて、また置いた。
ドルグ・ヴァイスだった。
二十年ぶりというわけでもない。房にいたころ、街ですれ違ったことは何度かある。ただ、こうして正面から見るのは、あの日以来だった。
男は列の最後尾に立って、番号札を受け取った。受け取ったのはニナだった。
あの子は、札を渡す手を止めなかった。
止めなかったが、渡したあとで一歩下がって、それから振り返らずに札の束のところへ戻ってきた。
「ニナ」
「はい」
「大丈夫か」
「大丈夫です」
「無理ならボリスのところで座ってろ」
「大丈夫です」
声がわずかに硬かったが、手は震えていなかった。俺はそれ以上言わないことにした。
工房の空気は、明らかにおかしくなっていた。
トビーは砥石を握ったまま男のほうを睨んでいたし、ダンは資材を運ぶ手を止めていた。アニカが何か言おうとして、ボリスに肩を掴まれて止められていた。
レイは工房の隅で、剣に手をかけずに座っていた。かけていないことが、かえって分かりやすかった。
「レイ」
「はい」
「錆落としだ」
「……はい」
ヴィオラは、いつも通り剣を拭いていた。この人だけがいつも通りだった。
いや、ひとつだけ違っていた。座る場所だ。普段は工房の奥にいるのに、その日は入口寄りの、ニナとあの男のあいだに当たる位置にいた。本人に言えば、たまたまだと答えるだろう。この人はいつもそう言う。
列は普通に進んだ。
俺は普通に道具を見た。斧の刃こぼれを直し、脛当ての留めを一段下げ、水筒の栓を削り、鍋を一枚叩いた。誰の癖も、いつも通りに言った。
その間ずっと、あの男は列に立っていた。
文句も言わず、順番を飛ばそうともせず、話しかけてくる客に短く応えながら、ただ立っていた。この街で名の通った探索者が、灰級の列に混ざって夕方まで立っている。周りのほうが落ち着かなくなっていた。
途中で一度、前に並んでいた若いのが場所を譲ろうとした。男は断った。断り方が短すぎて、譲ろうとしたほうが気まずくなっていた。
ボリスが屋台から椀を差し出したときは、受け取った。受け取って、立ったまま食って、器を返すときに小さく頭を下げていた。ボリスは何も言わずに次の客に取りかかった。あの男が誰なのかを知っていて、それでも椀を出す人だ。俺には真似ができない。
やがて、日が傾いた。
ニナが番号を読み上げた。声が少しだけ大きかった。
男が前に出てきて、俺の前に立った。
しばらく、どちらも喋らなかった。
「久しいな、ハウザーさん」
「そうだな」
「あんたが十七階で店をやってると聞いて、驚いた」
「俺も驚いてる」
「鍋を叩いていると聞いた」
「叩いてる」
「なぜだ」
「持ってくるやつがいるからだ」
男は少し黙って、それから、わずかに口の端を動かした。笑ったのかもしれないし、違うのかもしれない。
男は背中から剣を外して、それから盾を外した。
台の上に、両方を置いた。
「見てくれ」
俺は動かなかった。
「あの日、あんたはこれを見られないと言った」
男は台を挟んで、まっすぐこちらを見ていた。
「もう一度、断ってもらってもいい。ただ、今度は見てから断ってくれ」




