【伝言板】十七階に変なおっさんがいる
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冒険者ギルド ヴェルナ支部 一階 伝言板
(紙切れが幾重にも重ねて留めてあり、下に返事が書き足されている)
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『十七階の灰の回廊に、変なおっさんの店ができてる』
→ 店? あそこには何もないぞ
→ 資材置き場の跡だろ
→ 木箱の前に板が立ててあって「なおします」とだけ書いてある
→ 情報が少なすぎる
→ 不審者では
→ 不審者だな。衛兵に言っとけ
『俺は行った。折れた槍を直してもらった』
→ いくらだ
→ ただ。掃除しろと言われた
→ は?
→ 怪しすぎて笑えない
→ 新手の勧誘か
→ 腕のほうはどうなんだ
→ 柄が別物になって帰ってきた。前より軽いし、重心が手元に寄って振りやすい
→ それはただの改造では
→ 十七階で炉も使わずにどうやるんだ
→ 手作業だった。砥石と、万力もどきだけでやってた
→ 無理だろ
→ 無理を手でやってるから話題になってるんだよ
『武器を持ち上げて三秒見ただけで「あんた右肩が下がってるな」と言われた』
→ は?
→ で?
→ 下がってた
→ こわい
→ 占い師じゃないのか
→ 違う。整備士の技術だ。摩耗の跡から使い手の癖を読むやつで、大手クランの整備房ならできる
→ できるのか
→ できるが、普通は鑑定盤にかけて半刻はかかる。三秒というのは聞いたことがない
→ ただなのが一番わからん
→ 全部わからん
『おっさんに素性を訊いた。「クビになった整備士」と言われた』
→ 情報が少なすぎる(二回目)
→ まあ、ただなら行く
→ 灰級の行動原理が単純すぎて好きだ
→ 明日行ってみる
→ 俺も
→ うちの班は全員で行く。装備がもう限界なんだ
→ おい、やめろ。それは行列という
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翌日の午前、俺が木箱の上で堅パンをかじっていると、通路の向こうから足音が近づいてきた。顔を上げると人がいて、数えたら十一人いて、全員がこちらを見ていて、全員が壊れたものを抱えていた。
先頭の男が、おそるおそる手を挙げた。
「あの、ギルドの伝言板を見て来たんですけど」
俺はパンを飲み込んでから訊き返した。
「伝言板?」
「え、ご存じない?」
「知らんな」
男が振り返って後ろの十人に何か言うと、ざわめきが広がった。知らないらしい、まじかよ、余計こわい、という声が切れ切れに聞こえてきて、俺はパンを包んでいた紙を畳んでポケットに突っ込み、立ち上がって両手の埃を払った。仕方がない。
「並んでくれ。ひとりずつ見る」
これが行列の一日目だった。
そのころ、ニナ・アルトは第五層にいた。
三日前まで、彼女は四層より下へ行ったことがなかった。右足の癖を直すのに二日かかり、直したら槍が跳ねなくなり、跳ねなくなったら一撃で決まるようになって、一撃で決まるようになったら体力が余った。余った体力で彼女はひとつ下の層へ降りたのだが、そこで自分の耳がどうもおかしいらしいと気づくのは、もう少しあとの話になる。




