↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/84

断った理由

ドルグ・ヴァイスの装備を見たのは、房にいたころのことだ。


 当時、あの男は名の通った探索者だった。銀級で、隊を率いていて、生還率が高いことで知られていた。深いところへ行って、必ず全員で帰ってくる。そういう評判の男だった。


 うちの房は、外部の探索者からも装備を預かっていたから、あの男の剣が回ってきたときも、特に何も思わなかった。


 台に載せて、いつも通りに見た。



 剣そのものは、悪くなかった。手入れも行き届いている。


 気になったのは、傷の向きだった。


 刃こぼれが、片側にしかない。しかも、その全部が同じ角度で入っている。


 人と戦うにせよ魔物と相手をするにせよ、正面から打ち合っていれば、刃の傷は両側に散る。相手の位置が動くからだ。片側だけに、同じ角度で揃うというのは、いつも同じ位置から入っているということだった。


 いつも同じ位置から入れるということは、相手が動いていないということだ。


 相手が動かないのは、相手が別の誰かを見ているからだ。


 俺は次に、あの男の盾を見た。


 傷がなかった。


 正面にも、縁にも、裏にも。使い込まれてはいたが、受けた跡がほとんどない。


 隊を率いる男の盾に、傷がない。


 俺はもう一度、剣の刃こぼれを見た。全部、右手側から入っている。魔物が誰かの正面を向いているとき、その右後ろから入る位置だ。


 それだけなら、うまい立ち回りだと言える。隊で戦うというのはそういうもので、誰かが正面を持ち、誰かが横から入る。役割の話でしかない。


 ただ、正面を持つ役は替わるものだ。替わっていれば、盾に傷がつく。


 盾に傷がないということは、あの男が一度も正面に立たなかったということだった。率いる側が一度も正面に立たない隊の、生還率が高い。その意味を、俺はしばらく考えないようにしていた。


 そのとき房にはトビーもレイもまだいなくて、俺は独りで台の前に立っていた。


 しばらく立っていた。


 三日後に取りに来たあの男に、俺はこう言った。


「これは、うちでは見られません」


 あの男は不思議そうな顔をした。理由を訊かれたので、答えた。


「あんたの剣が、あんたの隊員の立ち位置を教えてくれるので」


 ドルグ・ヴァイスは、しばらく俺を見ていた。


 それから、笑った。


 怒鳴られると思っていたので、笑われたのは意外だった。声を出して、心底おかしそうに笑って、それから剣を受け取って、こう言った。


「それは、あんたが読めるからだろう」


 その通りだった。俺以外の整備士が見れば、これはよく手入れされたただの剣だ。


「読めるあんたが黙ってれば、誰も困らんよ」


 あの男は剣を鞘に収めて、帰っていった。


 俺は房長に、この件はもう受けないと伝えた。理由は言わなかったし、訊かれもしなかった。房長はただ、分かったと言った。


 それきり、あの男の装備は回ってこなくなった。


 誰も死んでいない。あの男の隊は、そのあとも何年か生還率の高い隊であり続けたと聞いている。だから俺のあれは、証拠のない話でしかない。


 台の上の傷が、そう見えたというだけの話だ。



 俺は当て金を置いて、天井を見上げた。


 ニナの試験は、明後日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。