受けます
「銀級の試験を、受けようと思います」
ニナがそう言ったのは、支店の話が正式に動きはじめてからだった。
登録工房の分店を任される者には、一定以上の等級がいる。マレーネが規約を三度読み返して、灰級では無理だと結論を出していた。
「いつだ」
「来月です」
「間に合うのか」
「わかりません。でも、次は半年後なので」
俺は当て金を置いた。
この子はここへ来たとき、四層で槍を折っていた。いまは十層あたりまで単独で降りて、そこで拾ってきた素材を工房の材料にしている。伸びたのは事実だが、銀級というのは、その先にある。
銀級の試験は、迷宮の中でやる。試験官が同行して、実際に潜って、そこでの立ち回りを見る。戦闘だけではなく、判断と索敵が見られる。
「試験官は」
「ドルグ・ヴァイスさんという人だそうです」
俺は、当て金を持ち上げかけて、また置いた。
「ゲルトさん?」
「いや」
「あの、知ってる人ですか」
「昔、房で一度、装備を見たことがある」
嘘ではない。ただ、その一度がどういう一度だったかは言わなかった。言えば、この子は試験の前に余計なものを抱えることになる。試験官の名を聞いた瞬間に身構える受験者ほど当日に足が止まるのは、房で若いのを何人も見て知っていた。
それだけ言って、俺は短剣を取った。
ニナは何か訊きたそうにしていたが、訊かなかった。この子はそういうところが賢い。
その晩から、俺は槍を組みはじめた。
言われたわけではない。ただ、いま彼女が使っている槍は、俺が最初に継いだ柄をそのまま使い回しているもので、あれは鉄骨から切り出した管でしかない。試験に持っていく道具ではなかった。
穂先は、レイが深いところから運んできた素材を使った。軽くて、粘る。ニナは力で刺すのではなく、当てて抜く使い方をするから、硬いものより粘るもののほうが合う。
柄は木にした。金属より重くなるが、そのぶん振動が手に伝わる。この子は音で拾う。柄が鳴ってくれたほうがいい。
握りの位置は、左手側を少しだけ太くした。彼女は左寄りの両利きで、そこは最初に会った日から変わっていない。
組み終わったのは、試験の三日前だった。
工房に来たニナに、黙って差し出した。
彼女は受け取って、両手で持って、それから、動かなくなった。
「……あの」
「持ってみろ」
「持ってます」
「振ってみろ」
彼女は工房の隅まで下がって、一度、突いた。
柄が鳴った。低い、短い音だった。
ニナはその場に立ったまま、槍を見ていた。しばらく見ていた。
「聞こえます」
「何がだ」
「音が、返ってきます」
「そういうふうに組んだ」
実のところ、そう単純な話でもない。木の柄は金属より重いし、湿気で狂うし、手入れの手間も増える。試験に持たせる道具として最良かと言われれば、たぶん違う。
ただ、この子は音で拾う。音で拾う人間から音を取り上げる道具を持たせるくらいなら、重くて狂うほうがましだった。
彼女は槍を胸に抱えて、深く頭を下げた。




