カイ・レンドル
その男が来たのは、九人が終わってから六日後のことだった。
二十歳くらいで、痩せていて、左腕を布で吊っていた。列には並ばず、通路の入口のところで立ったまま、なかなか入ってこない。
ニナが気づいて、声をかけに行った。戻ってきて、小さい声で言った。
「あの、カイさんって方です」
俺は当て金を置いた。
カイ・レンドルは工房の前まで来て、頭を下げて、それからしばらく何も言わなかった。言葉を探しているというより、言うと決めてきた台詞を忘れた顔だった。
「座れ」
「はい」
「腕は」
「骨は付きました。腱が、まだ」
「動くか」
彼は右手で左腕の布を外して、指を動かそうとした。親指と人差し指がわずかに動いて、あとの三本は動かなかった。
「握れないです」
「いつやった」
「二か月前です」
「医者はなんて」
「半年、様子を見ましょうと」
俺は左腕をしばらく見ていた。
このとき俺は、言うべきことを一つ持っていた。四か月前の点検簿に俺の字で交換をすすめる所見が書いてあって、それが読まれなかったこと。この子の腕が折れたのは不注意ではなく、記録が読まれなかったせいだということ。
言えば、この子は納得するだろう。自分のせいではないと分かって、たぶん少し楽になる。
そして、二度と道具を疑わなくなる。
俺は言わないことにした。
自分でも、これが正しいのかどうか分からない。ただ、二十年やってきて、道具のせいにすることを覚えた探索者が長生きしたのを見たことがない。
道具は必ず壊れる。壊れないものなどこの世にないから、探索者にとって大事なのは壊れないものを持つことではなく、壊れる前に気づくことだ。腕が折れたのは道具のせいだと知った人間は、次からその気づく仕事を他人に預けるようになる。預けた先が鑑定盤なら、また同じことが起きる。
もっとも、これは俺の勝手な理屈でしかない。この子には本当のことを知る権利があるはずで、それを俺の理屈で取り上げていいのかは、いまでも分からない。
「装備を見せろ」
「あ、はい。あの、でも、僕はもう」
「見せろと言ってる」
カイは背負っていた袋から、片方だけの籠手と、短めの剣を出した。剣は隊で支給されたもので、彼の体格には少し重い。籠手は右手用だけで、左のは事故のときに壊れて処分したそうだった。
俺は剣を持ち上げて、光に当てた。
「これ、両手用だな」
「はい」
「片手で振ると重心が遠い。あんた、いま右だけだろう」
「はい」
「持ち替えろ。もっと短いのがいい」
「でも、これしか支給が」
「作る」
カイが顔を上げた。
「三日で作る。あんたの右腕の長さと、いまの握力に合わせたやつだ。柄を長めにして、手首で振れるようにする。刃は短くていい。あんたはもう、遠くまで届かせる必要がない」
「……あの」
カイは口を開いて、閉じて、それから訊いた。
「僕、また潜れますか」
俺は剣を膝に置いた。
「潜れる。ただし、前と同じようにはいかない」
「はい」
「前と同じにしようとすると死ぬ。別のやり方を覚えるなら、潜れる」
カイはうつむいた。しばらくうつむいたままだった。
そのとき、工房の隅で剣を拭いていたヴィオラが、こちらを見た。




