来なかった五人
九人はそれぞれ、俺の名前が書かれた紙を握って来た。
握り方がみんな同じだったので、たぶん道中ずっと握っていたんだろうと思う。ひとりは折り目が四回ついていて、何度も開いては閉じたらしかった。
九人ぶんを見て、そのうち六人の装備を交換した。二人は既に別のものに買い替えていたので、その場で点検だけして返した。最後のひとりは、四か月前に俺が書いた籠手をまだ使っていて、留め金が、あと数回で飛ぶところだった。
「これ、いつ潜る」
「明日です」
「明日は行くな」
「え」
「明日、これを付けて潜ると、腕が折れる。今日直す。座って待て」
男は座って待った。待っている間、ボリスが勝手に飯を食わせていた。
直しながら、四か月前にこの籠手をどう書いたかを思い出そうとしたが、出てこなかった。二十件のうちの一件でしかない。書いた側にとっては一行でも、こいつにとっては腕一本で、そういう釣り合わなさには二十年やっていても慣れない。
「あの」
「なんだ」
「手紙、ありがとうございました」
「礼を言うことじゃない」
「いえ、あの、うち、手紙って来ないので」
俺は留め金を締める手を止めなかった。
夕方までに九人が終わって、残ったのが五人だった。
街を出た二人と、宛先の分からない三人。手紙は届かず、消息も分からない。マレーネは規約の範囲でできることは全部やってくれたが、そこから先はギルドの仕事ではなかった。
「打つ手がないな」
俺がそう言ったとき、工房の隅で剣を磨いていたヴィオラが立ち上がった。
彼女は無言で外套を羽織って、無言で歩き出した。
「おい」
「探す」
「どこをだ」
「五人」
「いや、待て。あんたに探させる筋合いはない」
ヴィオラは通路の入口で立ち止まって、振り返らずに言った。
「わたしの柄を、銅貨十枚で直した」
「だからなんだ」
「だから」
それだけ言って、彼女は出ていった。足音がしなかった。
残された俺は、しばらく通路の入口を見ていた。
「ゲルトさん」
「なんだ」
「あの人、たぶん明日には二人くらい見つけてきますよ」
トビーが砥石を洗いながら言った。
「なんでそう思う」
「金級のソロですよ。あの人がこの街で顔の利かない場所って、たぶんないです」
実際、ヴィオラは三日後に三人を連れて戻ってきた。
どこで見つけたのかは言わなかったし、俺も訊かなかった。ただ、三人のうちひとりが酒場の裏で寝ていたところを叩き起こされたと言っていたので、たぶんそういう探し方をしたんだろう。
残る二人は、街を出た二人だった。
その二人には、いまも手紙が届いていない。
名前は工房の柱に貼ってある。ニナがそうした。戻ってきたときにすぐ分かるように、と言っていた。二枚の紙が看板の板の隣で、風もないのに時々めくれている。




