十九のレイ
六年前のレイ・ヴァンダールは、正直に言って、大したことのない新人だった。
クランに入ってきたのが十六で、俺の房に剣を持ってくるようになったのが十九のときだ。初めて見た剣は、それはもうひどい代物で、刃が波打ち、鍔がゆるみ、柄の巻き革が汗で腐っていた。
「あんた、これで何層まで行った」
「十二層です」
「よく生きて帰ってきたな」
当時の俺は房の主任で、二十三人を回しながら日に六十本を見ていたから、正直なところ機嫌がよくなかった。だからよく怒鳴った。いまの俺を知っている連中は信じないだろうが、あのころは本当によく怒鳴っていた。
「道具ってのはな、あんたの代わりに死んでくれてるんだ。この刃こぼれ一つ一つが、あんたの骨が折れずに済んだ回数だよ。それを腐らせて持ってくるな」
十九のレイは、毎回そこで真っ赤になって、それでも次の週にまた来た。
三年間、一度も休まずに来た。
雨の日も、遠征明けの朝も、熱を出した日も来た。一度、どう見ても顔色が悪いまま剣を出してきたので帰って寝ろと言ったら、寝る前に置いていきたいんです、と言った。そういう子だった。
二年目の冬に、一度だけあの子が泣いたことがある。隊の先輩にお前は伸びないと言われたそうで、剣を抱えたまま房の隅に立っていた。俺はその日六十本を抱えていて余裕がなかったから、剣を受け取ってこれだけ言った。
「あんたの剣は、去年より二割長くもってる。伸びてないやつの道具は、そうはならん」
それで泣きやんだのかどうかは、覚えていない。
最初の一年で剣が壊れなくなり、二年目に刃こぼれの位置が揃うようになり、三年目には、俺が何も言わなくても自分で柄を巻き直してくるようになった。あの子が強くなったのは俺のおかげでもなんでもなくて、単に毎週来たからだ。毎週来るやつは強くなる。それだけの話だと思っている。
二十歳の春に、あの子はクランを出た。
出ていく前の週も、剣を持ってきた。俺はいつも通り受け取って、いつも通り直して、いつも通り渡した。その日はやけに長く突っ立っていたので、どうしたと訊いたら、なんでもないですと答えて帰っていった。
それが最後だった。
三日目の夕方、俺は二本目の柄を組み終えて、最後の重心を見ていた。
左肩を庇うぶん、左の剣は柄を一寸短くして、重心を手前に寄せてある。右は逆に、振り切らざるを得ないように、あえて重心を先へ置いた。これで振り切らないと収まりが悪くなるから、身体が勝手に思い出すはずだった。
工房の隅で、レイが黙って座っていた。三日間、ほとんどそこにいた。
俺は指一本で剣を支えながら、独り言を言った。
言うつもりはなかったのだが、六年ぶんの何かが、たぶん手のほうから漏れた。
「あのとき、行ってこいって、言えばよかったな」
しばらく、返事がなかった。
顔を上げると、レイが両手で口を押さえて、肩を震わせていた。
「……聞こえてるのか」
こくこくと、うなずいた。
「先生」
「なんだ」
「わたし、ここで働きます」
「何を言ってるんだ」
「錆落としでも、水汲みでも、なんでもやります」
「宝玉級に錆落としをさせたら、俺が街の連中に殺されるよ」
「じゃあ、客として通います」
「それは、まあ、勝手にしてくれ」
レイは涙を拭って、それから、いままで見たことのない顔で笑った。
あとで知ったことだが、この会話をボリスの屋台にいた客が七人聞いていて、そのうち三人が詩人に喋った。




