六年ぶり
背が伸びたな、というのが最初に思ったことだった。
六年前は俺の肩くらいまでしかなかったはずで、いまは目の高さがほとんど変わらない。髪も伸びていて、外套の色は当時と同じ赤だが、生地が比べものにならないくらい上等になっていた。
レイ・ヴァンダールが、俺の前に立っていた。
何か言おうとして口を開き、そのまま何も言えずに閉じるのを、三回くらい繰り返していた。目の縁が赤くなっていて、たぶん並んでいる三時間のあいだにもう一度泣いたんだろうと思った。
俺のほうも、うまい言葉が出てこなかった。二十年、鉄としか喋ってこなかった男に、こういう場面で気の利いたことが言えるわけがない。
だから、いつも通りのことを言った。
「剣、見せてみろ」
レイの顔が、ぐしゃりと崩れた。
崩れたまま、彼女は腰から二本の剣を抜いて、両手で差し出してきた。俺は右の一本を受け取って、光にかざして、峰から刃先まで目で追った。
三秒だった。
「左肩、やったな」
レイが息を呑んだのが分かった。
「三か月くらい前か。それとも四か月かな。治りかけてるが、まだ完全じゃない」
「……なんで」
「右の剣の摩耗が、鍔元に寄ってる。振り切らずに途中で止めてるからだ。左肩を庇うと右の振りが浅くなる。あんたは昔からそうだった」
俺はもう一本を受け取って、同じように見た。
「こっちはひどいな。刃が三か所、内側に食い込んでる。無理な角度で受けてるだろう。左が使えないぶんを右で全部やろうとしてる」
柄を握ってみると、巻き革の沈み方が左右で違っていた。右のほうだけ、人差し指と中指の付け根が当たる位置が深く凹んでいる。そこに全部の重さを預けている証拠で、こんな握り方を続けていれば、遠からず指のほうが先に音を上げる。
「これ、いつから使ってる」
「二年です」
「巻き替えは」
「半年に一度、班が」
「半年はもたない。三か月で沈む」
レイは何も言わなかった。
俺は二本を膝の上に並べて、それから少し考えて、余計なことを言うことにした。
「あんたの整備班、これを見て何て言った」
「……健全度、八十九だと」
「数字は正しいよ。鋼はまだ死んでない。あと半年は保つ」
「はい」
「だが、半年後にあんたの右肩が死ぬ」
列の連中が、誰も動かなかった。
ボリスの屋台の炭がぱちりと鳴る音が、やけに大きく聞こえた。
列の後ろのほうで、誰かが小さく、やっぱりだ、と言った。誰も動かないところを見ると、たぶん全員が同じことを思っていたんだろう。
「先生」
六年ぶりに、その呼び方を聞いた。
「はい、って言いたいところだが、俺はもうどこの先生でもないぞ」
「……先生」
「うん」
「わたし、あのとき」
「知ってる」
俺は剣を布に包みながら言った。
「詩人が街中に流したそうじゃないか。うちの客が全員知ってるよ。誰も俺だとは思ってないがな」
レイが顔を上げて、目を丸くして、それから泣きながら笑った。
俺は包んだ剣を脇に置いて、次の言葉を探した。探して、結局これしか出てこなかった。
「三日くれ」
「え」
「二本ともだ。刃を起こして、柄を左肩に合わせて組み直す。三日は要る」
「待ちます」
「宝玉級が、三日も剣なしでいられるのか」
「いられます」
即答だった。
「六年待ちましたから」




