【150億の絶望】と、安すぎる「神」の鑑定
オーバーライド・エンパイアの最深部、『中央演算聖域』。
無数の魔導ケーブルがのたうつ、巨大な「基盤」のような光景だった。
その中心。
空中に浮かぶ半透明の立方体の檻の中に、彼はいた。
「これが……レイン……?」
エリザベスが息を呑む。
かつて世界を救い、眩い笑顔を見せていた管理者の姿はどこにもない。
無数の光の糸に全身を貫かれ、虚空を見つめたまま。
――神の成れの果ては、一睡もできずに膨大なデータを処理し続ける『演算装置』と化していた。
「……お嬢様。……神・レイン卿の精神負荷、すでに限界を越えてオーバーフローしています」
カシムが、手元の水晶端末を操作しながら、血の気の引いた顔で報告する。
「……世界の150億人が享受している『平和』と『生命維持』。全ての演算を、彼はたった一人で肩代わりしています。……魂を燃料にして、無理なハッピーエンドを維持し続けているのです」
カシムの頭の上で、小さなトカゲ姿のギルが、言葉を失っていた。
「……なんやて?」
エリザベスの手の中で、黄金のソロバンが、ミシリと音を立てる。
「……レイン卿は、民の『幸せのコスト』を、自分の命で全額支払っている。……まさに、究極の自己犠牲です」
「……あほ抜かせ!!」
エリザベスの怒声が、聖域に響き渡った。
ドレスの裾を翻し、ソロバンを叩き折らんばかりの勢いで弾いた。
「……自分を削って、タダで世界を回してる? そんなもん、『平和』でも何でもないわ! 世界規模の超巨大ブラック企業やないか!」
パチィィィン! と、乾いた音が理不尽を切り裂く。
エドガーが微動だにせず、エリザベスの商談を監視していた。
「レインの旦那! 聞こえてるか! ウチは商売人や。安売りも、不当な搾取も、見て見ぬふりはできん性分なんや!」
エリザベスは、光の糸に縛られた神――レインを、射抜くような瞳で見据えた。
「神様になって自分をタダ売りするなんて、ええ加減にせえ! 割に合わん仕事、今すぐ辞表叩きつけて、その座から降りなはれ!」
凍りついていたレインの瞳が、わずかに揺れる。
生贄に捧げられた男の前に、最も強欲で、慈悲深い『商談』が持ちかけられた。
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異世界の神を相手にした、前代未聞の「辞表」交渉、続きもぜひお楽しみに!




